記憶の彼方のカケラ
友人が料理を習い始めて、その成果を見せたいというから遊びに来た。
出されたのはパスタ。
見た目はとてもおいしそうだがはてさて。
目の前にある、お行儀よく巻かれたパスタに、少しばかり大きな口で齧り付いた後、その味に驚き思案に暮れた。
なんてことだ、とてもまずい、よもやパスタなんて茹でて袋詰めだか缶詰だかのソースをぶっかけるだけで済む料理が、こんなにまずくなるなんて、これが料理の魔法?特別なレシピでも使ったの?
なんだろう、このやけに味の濃いソース、これは何のソース?見た目だけならなんてことないミートソースなのに、味が違う、絶望的に味が違う、脳がバグる味をしているこのソースは本当に何?
それに、どうやったら硬い麺とふやけてぐちゃぐちゃな麵を同居させられるの。
あと何このトッピング、チーズかと思ったけどこれ、チーズの味でないし、変な歯触りがして凄く…不快…!
この口で、たった一言の感想を投げかけるのはとても簡単なことだ。
しかし、目の前の友人の、期待にあふれた笑顔を見ると、とてもそんなことを思う気にはなれなかった。
自分はどうするべきか、こういう時に掛ける言葉を見つけようがなく、パスタを見て、顔を見て、そしてフォークを見て、漸く重い口をあけた。
「なんだろう、そのぉ…こういう時に、かける言葉?がさぁ、いまいちよくぅ?分かんなくって…、なんって、言葉にすればいいのかなぁあ?って…。
まあ、うん、そのぉー、あれ、ああ、うん、独創的な味をしているぅー?、よね、うん。
はは、良いと思うよ、そのぉー、この、ね、独創的な味、さぁ」
その言葉に返された笑顔に安堵したが、もっと食えと言わんばかりに目の前に追加された友人のパスタを見て、自分の選択が間違ったことを思い知った。
明日はきっといい日、現実逃避は目の前のパスタよりおいしかった。
