記憶の彼方のカケラ
ある村の山の頂上には、それはそれは大きな木があった。
天にも届くほどのその大木は、山の麓にある村の人々から、精霊の宿る木とされて、大事に大事にされてきた。
その村には、ある有名な若い男がいた。
その男は村の人々皆から嫌われていた。
1日中飲んだくれるか遊び呆けるかしない、雑草抜きの一つすらしない男だったからだ。
ある日のこと、夏の終わりあたりに開かれた酒の席があった。
その酒の席に、あの男も参加していた。
一応は村のものだから、としぶしぶ参加を許されていたのだった。
酒も回るうちに、話題はころころと変わり、何時しか山の大木が話題に上がった。
暫くは大人しくしていた男だったが、急に膝を叩くとこう叫んだ。
「なんだ、なんだ、あのでかいだけの木なんか、皆ありがたがってバカだなぁ。
あんなのに精霊なんかいやしないぞう」
当然、村の皆はその言葉に憤った。
しかし男はそんな様子を気にもせずに続けていった。
「そんなに分かんねぇんなら、今からその証拠を見せてやるよ」
そして徐ろに立ち上がると、斧を取り出してきて山へと登っていった。
そして頂上につくと、大木を斧で切り始めたのだ。
村人達は慌てて男を止めようとしたが、斧を持って暴れられては近づけない。
そうしてしばらく経つうちに、男は何ということをしてしまったのだろう。
とうとう大きな音を立てて、大木は倒れてしまった。
言葉を失う村人達を嘲笑う様にその大きな切り株に座った男はこう言った。
「ほぅら、見ろ。精霊なんかいやしない」
そう男が言った直後、男の足が嫌な音を立てて、固くなっていった。
「ああっ、なんだこれはっ」
男は急いで立ち上がろうとしたが、足が全く動かない。
よくよく見れば、足と切り株は境目が分からないほどくっついていた。
その様子を見ていたある一人の少女が言った。
「精霊は怒っている。
あんたの愚かな行いに。
そして、その罰として、もう二度と、人間としても獣としても、生まれ変われないようにすると言っている」
そして男の変化は足から腹へ、腹から顔へと広がっていき、とうとう男の顔も覆われて、悲鳴は聞こえなくなった。
そして、木になった男は、一晩のうちにまた元の大きな木へと戻り、その様子を気味悪く思った村人達は、木になった男を化け物巨木と呼び、もう二度と、精霊の宿る木と呼ぶことは無かった。
