記憶の彼方のカケラ

昔々、何もない、まっさらな大地に、六つの流れ星が落ちてきました。

一番小さいけれど、一番強いマグダラ

思慮深く賢いホーロウ

強く心優しいアミ

不真面目だけど誰よりも鋭い目を持つシャファト

快活で溌溂なカナアン

臆病だけど芯の通ったエーレミヤ

星々は何もなかったこの大地に
大きな塔を建てて、そこで仲良く暮らしました。

でもある日の事、マグダラは悲しくて仕方が無くなってしまいました。
この大地には塔以外何もないし仲間だって五人しかいません。
マグダラはもっと沢山の、素晴らしい何かを望むようになりました。

そんなマグダラを見て、仲間たちは塔の周りに沢山の家を建てました。
沢山の家を建てて、沢山のお店も建てました。
シャファトが言いました。
建物だけじゃつまらない。もっと何か欲しい。

ホーロウは石で作った草花を、たくさん置いた広場をあちこちに作りました。

アミは色んな大きなおもちゃがある広場をあちこちに作りました。

エーレミヤは暗くならないように沢山の灯りをあちこちに作りました。

カナアンは道脇に、色んな木々を模した石像を置きました。

シャファトは透明な石で作った、綺麗な置物をホーロウとアミの作った広場に置きました。

五つの知恵で、素敵な街が出来ました。

でも、街には誰もいません。空っぽです。
虚しさと悲しさで、マグダラは益々ふさぎ込んでしまいました。
この街に沢山の人がいればいいのに。
それがマグダラの口癖になりました。

星々は困りました。
この不毛な土地は、生き物が生まれるような土地ではなかったからです。

たった一つだけ、ホーロウが土地に命を芽吹かせる方法を知っていましたが、それはとても危険なものでした。
その方法とは、星の魂の半分と五つの感情を抜き取って、宝石にすることでした。

その宝石は、どんなに荒れた大地もたちまちのうちに豊かなものに出来ますが、星に限りない苦痛を齎しました。

その話を聞いたマグダラは、だったら私の魂と感情を使うと良い。
私はみんなの中で一番強い、きっと大丈夫だ、と言いました。

当然みんな反対しました。
誰だってこんな危険なことはさせたくありません。
それに、感情を抜き取ってしまうのですから、心が空っぽになってしまうのです。

しかしマグダラはがんとして聞き入れませんでした。
マグダラは、空っぽが齎し続ける虚しさと悲しさを、これ以上耐え続けたくはありませんでした。
やがて五人は諦めて、マグダラの感情と魂の半分を抜き取りました。

しかし、マグダラの魂も、五つの感情も余りに強い力を持っていました。

このままでは大地に毒なる。
そう判断したホーロウは魂を五つに分け、それぞれの感情と併せて五つの宝玉を作り出しました。
五人はそれぞれ、五つの宝玉を五つの土地に安置しました。
すると、忽ちのうちに大地に命が芽吹き始め、しばらく経つうちには、国は人々で溢れかえりました。

その代わりに、マグダラは人形のようになってしまいました。

五人は何も言わないマグダラにずっと付き添いあっていましたが。ある時異変が表れました。
マグダラの心の奥底に隠れていた最も強く黒い感情が、ゆっくりとマグダラを蝕んでいたのです。

五人の力を合わせても、黒い感情には勝てませんでした。
そこで五人は、急いでマグダラの残った魂を外へと逃がしました。

五人は塔の外へ飛び出して、いつか黒の感情を打ち消すために、半分の魂を導くことにしました。
五人よりも強い、半分の魂に、五人は頼ることしかできませんでした。

五人の導きによって、小さな少女は
五つの宝玉を手に入れて、黒の感情は倒されましたが、宝玉が元の場所に戻ったことにより、大地は再び命を失い
民は皆居なくなってしまいました。

マグダラは空っぽに戻った大地を見て悲しんで、泣き疲れて、眠り込んでしまいました。

そうして目覚めたマグダラは
いつもボーっとして過ごしていましたが、ある時、塔の外に広がる、空っぽの街を見て言いました。

この街に沢山の人がいればいいのに。

ホーロウも、アミも、シャファトも、カナアンも、エーレミヤもみんな驚きました。
マグダラはどういうわけか、これまで起こったことを、すっかり忘れてしまっていたのです。

五人は、記憶をなくしたマグダラに
何も話さないで、今までの事を隠しておくことにしました。
誰だって、おんなじ過ちは繰り返したくありません。

でも、秘密はいつまでも隠し通せるものではありません。

結局五つの宝玉は生み出され、マグダラは人形のようになり、黒の感情が蝕んで、小さな少女に打倒され、また大地は命を失いました。

そして目覚めたマグダラは
空っぽの街を見渡し言いました。

この街に沢山の人がいればいいのに。

とうとうエーレミヤは泣き出してしまいました。
だってどうすればいいのか、この中で、一番賢いホーロウにも分からないのです。
エーレミヤは怖くて怖くて仕方がありません。

シャファトとカナアンが、エーレミヤを慰めていると、アミが静かに言いました。

繰り返すしかないんじゃないか。
何度繰り返すことになるかは知らんが、何かが変わるまで、繰り返すことしか、出来ないんじゃないか。

それを聞いて、エーレミヤは益々泣いてしまいました。

五人は何度も何度も話し合って、結局、何かが変わるまでこの行動を続けることにしました。
そして、何も知らない、新たな国の新たな女王を守り、導きながら、五つの星は変わる何かを待ち続けてます。
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