記憶の彼方のカケラ


 アミという名前の彼は、口を開く人によって全く別の評価が下された。

 何処かの施設から引き取られて、軍部に所属した長髪の謎めいた男を見て、良いエサをばらまかれたコイみたいに、皆めいめいにアミの噂を楽しんだ。

 あの人が言うには、全く何を考えているんだか。その人が言うには、彼ほど素晴らしくお人好しな人はいない。

 顔を仮面で隠しているかのように、生気のあるはずの目玉が、時々死んだ魚のようになって、そのまま青空へすっ飛んでいきそうな、儚くなってしまいそうな、嫌でもそんなには見えない、元気じゃないの。

 噂の総評が大体そんな感じになるような、軍部一の不思議な人、それがアミだった。

 アミは、警戒心が強い。

 よく分からない噂の集合体が流れ始めるくらい、自分の事を晒さない。

 自分の情報は徹底的に管理したし、余計なものは残さなかったアミは、誰もかもを信頼しなかったわけではないが、とにかく必死に自分の事を隠したがった。

 群れたコマドリよりも口うるさい軍部から、やれ政敵を殺せと言われて渋々従う暗殺者だったアミは、それはもう、自分がなんと言われても、徹底的に己を隠した。

 ある日、アミは重大な任務を仰せつかった。

 ある小隊に所属して、その行動を逐一報告し、不穏な芽を事前に摘むこと。

 この指令に、アミはこっそりため息をついた。

 ああ、等々軍部の奴らの頭が変になる病気も、来るところまで来ちゃったらしい。

 自分を含めて、たった5人の小隊に、いったい何ができるというのか、もうこんな先の見えない国に従う必要ないのでは?
 アミは訝しんだ。

 その考えは、例の兵器人間を見た瞬間で、あっという間に覆ったが。

 小隊に所属して、しばらくたって国を出て、アミは不思議な心地に覆われた。

 この小隊にもっと居たいという思い、国に帰りたくないという思い、皆と仲良く暮らしていきたいという思い。

 アミはこの感情を正しく理解しえないうちに、行動に起こした。

 隠蔽なんてお手の物だったから、小隊の誰にも気づかれず、アミはこっそり宇宙船のあれこれをいじって、不慮の事故を装い、不毛の星へと墜落させた。

 そこで、だれにも邪魔されず仲間と共に生きていく。

 ずっと平和で、変わることの無い時間の中で。

 そう思っていたのに!
 アイツは欲張りだから、面倒事を持ち込んだ!

でも、アミが不満を感じていたのは始めだけだった。

 形はどうあれ、仲間たちと一緒に暮らすことは出来たし、なんだか前よりも絆が深まった気がしたからだ。

 もういっそのこと、この状態がいつまでも続いても、アミは満たされ続けるだろう。

 それぐらい、アミという男は、実に実に単純だった。


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