記憶の彼方のカケラ
マグダラの人生は、いつも不幸で満ち足りないものだった。
食事、睡眠、そして衣服と住むところ。
他の人にあって当たり前なものは、マグダラにとってなくて当たり前なもの。
惨めにネズミと虫と友達になって、仲良く生ごみを漁るのは、マグダラには普通の事だった。
それでもマグダラはいつだって、自分は生きているだけ幸福だと思っていた。
幸福で満ち足りていると思っていた。
本気も本気、心の底から思っていた。
マグダラの心の底がすっぽ抜けていたかどうかは、その時定かでなかったが、マグダラはいつだって、肥溜めを豪華なベッドにする人生を楽しんでいた。
もっとも、そんな生活を送れたのはマグダラだけで、マグダラと同じような境遇のさして愉快じゃない仲間たちは、マグダラの事をやれ気狂いだ何だと、がりがりの声で噂しあったが。
そんなマグダラの不幸は3つ。
一つはマグダラのいる国は、赤ん坊が真顔になるほど倫理観がなくて、科学力が強かったこと。
二つは必要とあらば国家ぐるみの犯罪なんて息をするように行われたし、マグダラは軍部にあっけなく誘拐されて、よく分からない機械に入れられたこと。
三つは改造に改造を重ねられて、なんかよく分からんぐらいヤバイ兵器人間になった事。
第一成功個体マグダラ、それを元にいくつもの兵器人間が作られた。
その中でもマグダラは最も優秀だったので、軍部はマグダラを中心に小隊を作った。
しかしマグダラは、兵器になっても幸福で満ち足りていた。
マグダラは嬉しかった。
今までよりもずっと美味しいごはん、温かな寝床、綺麗な服。
誰かにぶん殴られること前提でその日の寝床を探さなくてもいい、そのなんと素晴らしい事か。
おまけに新たに友達が出来たとなると、しかもその友達がみんなみんな優しくて、一緒にいて楽しい存在だとなると。
マグダラは幸福で満ち足りて、そして徐々に欲深くなって、今まで以上を望んでしまった。
欲深な者が辿る末路を知らないばかりに。
でもきっと、マグダラは賢くなっても欲深くなっただろう。
幸福のその先を知りたくなったマグダラに、元々欲深な性格だったマグダラに、用意された未来は結局たった一つだった。