記憶の彼方のカケラ
昔々、ある所に、一つの夫婦が居りました。
その夫婦は長いこと子供に恵まれず、3年ほどたってから、漸く子供を身ごもりました。
妻の腹が膨らんで、もうそろそろ生まれそうだというころ合いに、妻は輝きの花が食べたいと言い出しました。
輝きの花は、森に住む妖精の館に生えていて、太陽のように、或いは月か、星々のように輝く魔法のような花でした。
そして、妖精はその花をとてもとても大切にしていて、どんなに懇願されても、どんなに宝物を積まれても、どんなに切羽詰まった事情があっても、決して他の人には渡そうとはしませんでした。
ですので、夫は、仕方なしに館に忍び込み、輝きの花を一つ手折って、妻の元へと持ち帰り、それをスープにして妻に飲ませました。
果たして、生まれてきた子は、きらきらと輝かんばかりの、それはそれは美しい男の子でしたが、その子は妖精に取り上げられてしまいました。
森の動物たちが、妖精に夫が花を盗んだことをばらしたからです。
大変に怒った妖精は、男の子の眼の一つをくり貫いて、その目玉で決して狂わない羅針盤を作った後に、河岸に羅針盤と一緒に捨ててしまいました。
運よく男の子は河の渡し守に拾われ、育てられ、チェチタと名付けられ、すくすくと健やかに育ちました。
そして、チェチタが16になったころ、選別に貰った一つの船と、生まれたころから持っている羅針盤と一緒に、本当の両親を探すための、旅に出ました。
ですが、チェチタはもう二度と両親に会えることはありません。
羅針盤には、持ち主が、血のつながりを持つものとは決してあえなくなるという呪いがかかっていたからです。
チェチタは、何にも知らずに、広い世界の上で、船と一緒に揺れながら、もう二度と会うことは無い両親を思い描き、両親は誰にも会うことは無く、墓の中で永久の眠りにつくでしょう。
