記憶の彼方のカケラ
ホーロウは軍が大嫌いだ。
いいや、祖国の政治のなにもかもが大嫌いだ。
略奪することでしか生きられない国なんて、もう直ちに亡べばいい。
バーカ滅びろこんな国!
そう本気で思うくらいには。
でもホーロウは賢かった。
賢かったために、そんな思想を押し出した暁には、己の身がどうなるかなんてわかり切っていたことだったし、自分はまあ、いいとしても愛する家族はどうなるか、大好きな友人たちはどうなるか、考えるまでもなかった。
醜くて、目をそらしたいほどに酷くって、可愛くいって地獄みたい、率直に言えばディストピア。
それがホーロウの生まれ故郷。
しかしホーロウは知っていた。
上流階級の第三男子として生まれたからには、おまけに軍部とのかかわりが百年とちょっと前から強い一族の子として生まれたからには、自分の未来は確定的で、残された道は進むボタンの連打だけ。
ああこの世はくそったれ、ついでに滅べこんな国。
そう声を大に出すのはプライベートの塊である自室であっても憚られた。
ホーロウは賢かった。
それはもう、小さいころから天才児だ何だと持て囃らせるほどには賢かった。
大体の天才児の賞味期限は10歳までだが、ホーロウにはいつになっても天才児の称号がくっついた。
そんなホーロウだったから、軍での立場も上だった。
限りなくトップに近い立場で、見たくもない情報たちと仕事をするために、ホーロウは己の命を正しく削り取る感覚を、覚えたような気がした。
だからまあ、侵略行為の為に、いくつかの小隊が組まれることになったとき、ホーロウは真っ先に自分を推薦した。
もうこの際小隊での立場は何でもよかったから、国から離れたかった。
削り切った疲弊した精神では、親への愛も、友人への情も、もうからからに、砂漠のように薄れ切って、何しろ自分と同じ考えを持たないやつらに、情などいらない。
ホーロウは本気だったために、持ち前の頭脳で、小隊の一員としてにっくき我が故郷を旅立った。
もう二度と帰らないことを願って。
ホーロウにとって予想外だったことはいくつもあった。
年中ついて回る天才児の称号でも予測できないこともあった。
まさか自分が、小隊の仲間と正しい友情を結べるとは思えなかったし、まさかあんな、強さだけが取り柄の小娘に強い愛着を抱くとは思わなかったし。
そしてその小娘が、わがままを言い倒した末に、こんな末路を迎えるとは思ってもみなかったし、それが心をえぐられて、踏みつけにされたような心地になるほど、悲しくなるとは思わなかった。
結局ホーロウは、我が身可愛さの為の行動が、仲間可愛さへの行動に転身したが、だからと言って答えはどこにも出なかった。
天才ホーロウは分からない。これからどうすればいいのか。天才ホーロウはわからない。これからどうなってしまうのか。
