記憶の彼方のカケラ


 シャファトは考えるのが好きだ。

 決して、自分は愚かなわけでも、バカなわけでもないと自負しているが、同時に、自分はたいして賢いわけではないと理解していた。

 頭の中で、ふと沸いた考えを巡らせて、答えが見つかっても、見つからなくても、シャファトは何かに思案することに楽しさを見出していた。

 椅子にでも深く座って、足か腕を組んで目を瞑れば、シャファトの考え事を邪魔する人はいなかったので、静かに休みたいときにそうすることは自然と増えた。

 そんなシャファトは下級市民の子だ。

 下級市民は上級市民とは違って、第一子以外の男児は問答無用で軍に徴集される。

 等々シャファトのもとに訪れた徴収命令を見て、いよいよ来たかと思ったシャファトだったが、軍につくことに、シャファトは別段不満はなかった。

 生まれつき、他人よりも体躯が大きくて、腕っぷしも強いのだから、むしろ当たり前だと思っていたし、どっちみち、拒否権だなんてないのだから。

 そうして、ある小隊に配属されたシャファトは、驚くほど簡単に、小隊の仲間と仲良くなった。

 出立前に、肩を組んで歌ったほどだった。

 シャファトも皆も仲良しこよしだったから、誰か一人でも欠けることは嫌だった。

 シャファトは賢くなかったが、目の付け所は鋭かった。賢人が気付かないことにも、度々気付いて指摘してみせた。

 お前は目の付け所がいいな、なんてほめられた日には、嬉しくて一日ニヤニヤしていた。

 でも、自分はたいして賢くないから、賢い人に従おう。

 シャファトは常々そう思っていた。

 自分よりも賢い人が間違うだなんて、夢にも思っていなかった。

 ゆったりと眠っているうちに何が起こったのだろう。

 気付けば皆と一緒に不毛の土地に立っていた。

 それでもシャファトは、何一つ不安なことは無かった。

 自分より賢い人がいる、だから大丈夫。

 そのしばらく後、シャファトは自分が間違っていたと痛感した。

 どんなに賢くても、あらかじめ、答えが用意されているわけではないのだから、間違うことがあるのだと、生まれて初めて思い知った。

 なんでだろうな。

 シャファトは思った。

 もう繰り返して何度経ったかも、シャファトは覚えていなかった。

 彼女の行動をどうにかして止めようとしても、先にある結末はいつも一緒だったので、その内何かが変わることを願うことしか無くなった時、自分は何を思っていたのかも、記憶の彼方に消し飛んだ。

 何度目かの繰り返しの中、シャファトは悟った。

 きっとご先祖が行った蛮行の報いだろう。

 ご先祖が、宣戦布告もなしに他の文明に攻め入って、人も、土地も、資源も、何もかも奪い去って、食いつぶしたことへの報いが、きっと自分たちに向いたのだろう。

 シャファトはそう思い込むことにした。

 そうでもしないと、自分たちがどうしてこんな目に合うかだなんて、理解のできないことだったからだ。

 眼を瞑って、椅子に深く腰掛けて、最近の同僚たちの顔を思い浮かべながら、でも変わったよな、悪い意味でもいい意味でも。
 シャファトは思った。

 遠い祖国にいるときとは随分変わったみんなは、これからどういう風に変化するのだろう。

 それが、シャファトが最近、最も考えている事だった。


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