見習い一年目 春夏秋冬
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「んー…。今日も、裏方をお願いしようかな」
「はい…」
真島くんへの気持ちに気がついてから、頭の中をぐるぐると回転させながら自分の心と向き合おうとしていた。
真島くんの喜んだ顔…好きだなー。
かあああ!っと、顔が赤くなって、胸はドキドキするし…。自覚してしまうと、こんなにも胸が苦しくなるものなのかと…。目を閉じて胸に手を置いて落ち着くまで、深呼吸を繰り返した。
次、真島くんに会う時…。普通にしていられる自信がない…。
休みの日はあっという間に終わってしまった。
久々にお店へと出勤し、先輩方へお休みありがとうございました。と、朝当番をしながらのご挨拶をした。
今日は、担当ケーキのモンブランを作るんだけど妙に緊張して手が震えてしまった。鼻からゆっくり肺に空気を送り込み、口から少しづつ二酸化炭素を吐き出した。肩の力を抜いて、モンブラン作りに集中した。
「…はい、良いよ」
「ありがとうございます!」
良かった。OK貰えたー!と、喜ぶのも束の間で…。休み明け初日はOK貰えたものの、それ以降は作ったケーキは悉くNGを出されてしまった…。
今日の裏方作業は、クリスマスケーキを入れる箱の準備。発注してある箱達を、クリスマスケーキが入れやすいようにセットしていく。なかなか肩の凝る作業だ。何回目かの伸びをした所に先輩がやって来て、砂糖20kg至急買ってきて欲しいとの事だった。コックコートの上に上着を羽織ってお金を持っていつもよ問屋さんへと向かった。
──────────
問屋さんで砂糖20kgを購入し、両手で抱えながら店へ戻ろうとしてると。二人組の男が道を塞いだ。
「よお!おねーさん」
「随分と重そうな袋持ってんなー?」
「袋の中には、何が入ってるんだー?」
デジャブ?真島くんと初めて会った時のように、袋の中身を確認されてしまった。
「えっと、砂糖です。20kgの…」
前回の反省はきちん活かされて、袋の中身の名称をきちんと答える事ができた。ズルっと袋が少し落ちそうになって膝を曲げて受け止めた。
「砂糖ねー」
「砂糖ってゆー証拠、見せてくれるか?」
「ええ…!んー …舐めます?少しなら、大丈夫ですけど…」
「舐めて俺らがイカレちまったら、おねーさん責任取ってくれんのかー?」
砂糖を持っているにも関わらず、右手首をグッと力強く掴まれてしまった。男の方へと引き寄せられしまい、砂糖の袋は自分の足元へドサッと落としてしまった。
「ぃ、痛い!離して、くだ さぃ!」
「ああ?!聞こえねーな?」
「ちょっと事務所まで来てもらおーかー?!」
「嫌!離して!助けて…!」
真島くん!っと、心の中で叫ぶと、別の男が現れた。
「…何しとんのや?」
「あ?!…なんだ、お前か」
「俺らはこれから事情を聞きに、親父ん所行ってくるからお前はアッチの方探して来いよ」
「まあ、こいつで間違えないと思うけどなー」
へへへっと男達は2人で笑いあって、此方を見ている。もう1人の男は髪の毛は長く、見るからにガタイのよくて強そうだ。この人達の仲間みたいだし…助けては貰えなさそうだと、観念して俯くしかなかった。怖いし、手首は痛いし、地味に足の甲も痛い。砂糖が地面に落ちるのだけは嫌で、足の甲で受け止めたんだけど…20kgの重みだもんなー…。涙がじわじわと出て来ていると自覚すると、手首をまた力強くグッと握られて歩くようにと引っ張られた。
「痛い…」
「うるせーな!行くぞ!」
「お願い、します…離してください…」
黙れよ?と、男の手が振り上げられた。叩かれると思い、目を強くつぶった。パシッと音がしたと思った瞬間男の悲鳴が響き渡った。
「いてー!何しやがる!!冴島?!」
「なんだてめー?俺らの手柄を横取りすんのかー?!」
「こいつは、そんなんじゃない…」
「ああ!?」
「こいつは、妹の友達や」
「あ?」 「妹?」
「…あ!靖子ちゃんの、お兄さん!」
最初見た時は恐怖心で分からなかったけど…。
真島くんと靖子ちゃん家でホットケーキ作って帰ろうとした時に、玄関先でご挨拶した人だ。
靖子ちゃんのお兄さんは私の方を見て無言で頷き、男達へと向き直った。
「妹の友達はケーキ屋で働いとんのや、その袋中身もケーキの材料って言うてなかったか?」
「チッ…!」
「ああ、砂糖って言ってたよ!」
「なら、それはホンマもんの砂糖や。この嬢ちゃん所のケーキ美味いからな、嶋野組の組長御用達の店やで」
「「!!!!」」
「分かったんなら、さっさとその手離せや。痛がっとるやろ?」
勢いよく手を離されて少しふらついた。踏ん張ろうと足に力を入れると、足首が安定せず結局尻もちをついてしまった。
「立てるか?」
靖子ちゃんのお兄さんが近づいて来て、手を差し伸べてくれた。
「あ、ありがとうござぃ…」
右手を出して、差し伸べられた手を取ろうとしたら激痛が走った。
「ッッ…!」
手を引っ込めて、右手首を触ると腫れてしまっている。
「スマン、大丈夫か?」
「あまり、大丈夫じゃないです…」
「病院行くか?」
「あ、えっと…お店に帰ります。砂糖届けないといけないので…」
どうにか自力で立ち上がり。落としてしまった砂糖の袋の所までゆっくり歩いて片手で持ち上がらないか試してみた。
「無理や無理」
「でも…直ぐに必要みたいなんです」
「ほんなら、俺が持って行ったるわ」
「え…でも…」
ヒョイと片手で砂糖の袋を持ち上げたと思ったら、私に背を向けて体をかがめた。
「え?」
「足に力入っとらんみたいやな、震えとるで」
「…怖かったので」
「スマンかったな。店まで送って行ったるから」
「でも…」
「急ぎで砂糖必要なんやろ?俺は店の場所知らんから、お前さんを背負って行った方が早いと思うで?」
「…分かりました」
恥ずかしいけど、そうも言っていられないこの状況に渋々背負ってもらう事にした。
道案内しながら、靖子ちゃんのお兄さんと話をしていると。靖子ちゃんのお兄さんは、長い。と、突っ込まれてしまった。
「じゃあ、お兄さん…」
「俺と同い年ぐらいなんやないか?」
「え…えっと、真島くんと私は同い年です」
「なら、俺とそんな変わらん。俺のが年下や」
「ええ??!」
「なんや?」
「あ、いや。大人っぽいから…真島くんも、最初年上だと思ってたし…」
「フッ…大人っぽいか」
「じゃあ、冴島くんで良いですか?」
「敬語やけど、それでええで」
俺は、真島の兄弟みたいにゆうひって呼ばせてもらうわ。と、言われて。はーい。と、返事をした所でお店の前に到着した。
「ここです!」
「ふーん、ここか」
「送ってくれて、ありがとうございました」
「まだ敬語やな」
「慣れまで時間掛かると思う…」
「さよか」
「もう、降ろしてくれて大丈夫です」
「敬語辞めたら降ろしたる」
「ええー…」
「ゆうひ?」
後ろから名前を呼ばれた、冴島くんが振り向いたから私も振り向けて名前を呼んだ人の姿を確認できた。
「真島くん!」 「兄弟!」