見習い一年目 春夏秋冬
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アパートへ帰りたいのに、帰れない…。
私のアパート直ぐ横に公園があって。いつもそこを通り抜けて帰ってるんだけど…。柄が良いとは言えない人たちが公園とアパート入り口の間でたむろしてて、通れないのだ。
以前、「すみません、通してください」と。声かけた時に悪態を突かれてしまい。挙句にカツアゲされかけて嫌な思いをしている。彼らが居る時は何処かで時間潰してから帰るようにしている。
でも、今日は何処で時間潰す元気もないし、公園のベンチに座って休む事にした。
ベンチに腰を降ろしてから、両手で1つづつ持っていた紙袋をゆっくりとベンチへ置いた。
はぁー…。と、今日で何回目か分からない溜息を吐いた。
いつもより早起きして、職場へ行き。
オーブンを使わせて貰って、昨日貰ったカボチャは、やっぱり料理ではなくお菓子にしようと一人で作ってみたものの…1回目は見事に真っ黒く焦がしてしまい。2回目は見た目は何とかなってはいたが砂糖ではなく、塩を入れてしまい…。途方に暮れていた頃にオーナーが出勤されて、優しく声をかけて頂き。オーナー指導の元、3回目でやっと形となった。
「旭くんは、気持ちが味に出るタイプだから。お休み期間は、ゆっくりリフレッシュしてまた一緒に頑張ろうね」と、優しい言葉に涙が出そうになった。
気持ちが味に出るタイプか…。
そんな事、全然思った事無かったなー…。
今までどんな気持ちでケーキ作ってたんだろ…。
んー…?と、考えると。
パッ!と、1番最初に出てきたのが真島くんの顔だった。
え… あ、れ… ? へ…?!
顔がじわじわと熱くなるのを感じた。
両手で頬をパチンと勢いよく触って、今までの事を脳がフル回転で記憶を再生させた。
真島くんと初めて会った時や、お使いでケーキを買いに来てくれた時の真島くんとの会話。
雑用以外で先輩達と一緒に生クリーム作った時、真島くんも頑張ってるから私も頑張ろ!って、思いながら生クリーム混ぜた時に、オーナーからやっと合格をもらえたんだっけ…。
…真島くんの事が、好き。
胸がキュッと締め付けられる感覚が来て、やっと自覚する事ができた。
「…そっか、私。真島くん…」
「なんや?」
「へ?!」
声がする方を見上げると、真島くんが私の目の前に立っていた。
「な??!」
頬に置いていた両手を口元へ移動させて、思わず口を塞いだ。さっき声に出したのは、真島くんまでだったよね?その続きは言ってないよね?と、数秒前の記憶を辿った。
「なんや?さっきから、ゆうひ可笑しいで?」
顔を横にフルフルと降り、真島くんの顔を見る。
好きと意識をしてしまったからか、急に恥ずかしくなって顔を背けてながら「…なんでもない」と、伝えた。
「…ふーん」
真島くんの声のトーンが下がった気がした。
怒らせちゃったかな?と、思って謝ろうと、真島くんがいた所を見ると、姿が無かった。
「あれ…?」
「こっちや、こっち」
声の方を向くと、真島くんは私の隣に座っていた。
「ビッ、クリしたー!」
「そんな驚く事ないやろ?」
「お、驚いちゃったんだもん…」
しょーがないじゃん。と、ボソっと呟いた。
「…なぁ、ゆうひ。今日休みなんやて?」
「あ、うん。…お店行ったの?」
「ああ、昨日準備ある言うてたやろ?せやから、店おるんかなー?思ったら休みって言われたわ」
「そっか、ごめんね。準備って仕事の事じゃなかったんだー」
「そうみたいやな」
真島くんは、にぃーっと笑って言葉を続けた。
「パンプキンパイ美味かったで!」
ぶあああああ!っと、気持ちが一気に高揚するのが分かった。顔がまた赤くなってるだろうし、本当に嬉しい言葉なんだけど。失敗作が、私の両隣に置いてある紙袋の中に入ってると思うと。段々と気持ちが落ち着いて来てしまった。
「あり、がとう。食べたんだ?」
「ああ、会計してくれた兄ちゃんから1つ貰ったんや!」
「そ、そっか…」
「なんや、歯切れ悪いなー」
「あー…えっと」
「これもパンプキンパイか?」
真島くんは既にパンプキンパイを持って今にも開ける勢いだった。
「あ!それは、ダメ!」
紙袋を急いで取ろうとするとヒョイと避けられてしまった。
「美味かったから、また食べたいなー」
「あ!ね、真島くん!それは、ダメだから!」
「なんだよー、ケチー!」
「お願い!返して!」
「んー…どないしよーかなー?」
「へ?」
「ゆうひがまたケーキ作ってくれる言うなら、返してやらんこともないでー」
「… …」
返事が直ぐに出来なかった。
「どないした?返事せんのやったら、この紙袋の中見てまうで?」
「…分かった」
「ほな、約束やで」
真島くんの手によって私の目の前に紙袋が移動して来た。両手で受け取って、紙袋を見つめる。
今の私にケーキを上手に作る自信はないな…。
「やっぱり、変やな」
「変?」
「元気無いみたいやし、どっか具合でも悪いんか?」
「あ、いや…。今日早起きしたからさ、眠くて…」
「なら、早よ家帰って休んだらどや?」
「そーしたいんだけど…」
真島くんに渋々事情を話すと、俺が送ったる!と、言い出してしまった。
「良いよ、たぶん。夕方ぐらいには居なくなると思うし、もうちょっとここで時間潰すから…」
「段々寒くなるし、うたた寝でもしたら風邪ひいてまうで!ええから、俺に任せとき!」
紙袋を2つ持って真島くんは公園の出口へと向かう。
「あ!待ってよ!」
「紙袋質や。早よ、着いてき!」
ヒヒ!と、笑った顔に、顔が赤くなったけど。
柄が良いとは言えない人たちの所まで来て、真島くんが追っ払ってくれたんだけど。言葉で追っ払ったんじゃなくて、拳で追っ払ってて…。
青ざめた私の表情を見て真島くんは「大丈夫や、次またあいつら来たら俺がまた追っ払ったるからな」と、頭を撫でてくれた。こくりと頷くのが精一杯で、また胸がキュッと締め付けられた。
「じゃあ、またな」
「うん、ありがとう」
「ゆうひのケーキ楽しみにしとるからな!」
にぃーと、笑顔で真島くんは帰って行った。