見習い一年目 春夏秋冬
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「なんや?なんかあったんか?」
「…なんでもあらへん」
さっきまで座っていた所に戻り、ため息を吐きながらドカッと座った。
「ホットケーキ、一緒に食べれなくて残念やったわー」
靖子ちゃんは、ちゃぶ台に両肘を乗せて両手で頬杖をついている。
「…せやな」
ゆうひと靖子ちゃんが作ったホットケーキを眺める。
「…さっきの女は誰や?」
冴島の兄弟は、窓を少しだけ開けて煙草に火を付けた。
「ケーキ屋の子や」
「ふぅー… ケーキ屋の子…?」
窓の外に煙を吐き出してから、更に質問された。
「こないだのモンブランや、夏祭りでクレープ食うたやろ?」
「ああ。あの美味いやつか!」
「いいなー!ウチもクレープ食べたかったなー!」
兄弟が煙を更にふぅーっと外に吐いてから「きっと、来年も夏祭りで店やるんやないか?」と、声が聞こえて。夏祭りの出来事を少し思い出した。
親父の事は相変わらず怖いみたいやったなー。あの反応は今思い出しても、オモロいわ。
祭りは一緒に回れんかったけど、打ち上げ花火は一緒に観れたし。楽しかったな。
「うち、絶対来年は夏祭りでゆうひさんのクレープ食べるー!」
「…せやな。来年は皆んなで、ゆうひのクレープ食べに行こか!」
「クレープの前に、ホットケーキやったな」
煙草を吸い終わった兄弟がちゃぶ台前に座って、ホットケーキ一枚を皿にヒョイと取り。蜂蜜をかけて食べた。
「あー!うちも食べるー!」
「…美味いな!」
「! 本当?」
靖子ちゃんがホットケーキを自分の皿に載せてた時に兄弟が絶賛した。兄弟に絶賛されて嬉しかったのか、靖子ちゃんの口角が上がった。
「ああ!美味い!靖子が焼いたんか?」
「せやな、殆ど靖子ちゃんが焼いとったな」
自分の皿にもホットケーキ一枚取り、蜂蜜をかけてパクッと頬張った。
「美味ッ!」
「えー!ほんまにー?うちも食べるー!」
んん!美味しい!!と、頬に手を当ててホットケーキの味を堪能しているのを見て、明日またゆうひにお礼を伝えに行こうと思った。
「ふぅー…。うちは、もうお腹いっぱい…!」
「ほんなら、最後の一枚は俺が貰ってええか?」
兄弟が最後の一枚のホットケーキを取ろうとした時にひょいと皿を取り上げた。
「最後の一枚は、俺が食べる!」
「あ?靖子が焼いた最後の一枚やぞ?」
「ちゃうわ!これはゆうひが焼いた一枚や!」
「あ、そっか。ゆうひさん、一枚だけお手本で焼いてくれたんやったね。それ、うちも食べたいー!」
「靖子、お前。腹いっぱいやったんとちゃうか?」
「ゆうひさんが作ったのだったら食べてみたいもーん!」
「ヒヒ!ほんなら、三等分しよか」
ちゃぶ台に皿を戻して、ホットケーキを均等に三等分した。蜂蜜をかけて、ほぼ三人同時に頬張って咀嚼した。
「…めちゃくちゃ美味い!」
「冷めてるのに、なんやこれ?!」
「フワフワだぁー!やっぱり、プロの人は違うねー!」
「また作って貰えるように、俺からお願いしとくわ!」
何だか、自分の事を褒めてもらえたように嬉しい気持ちになった。
──────────
翌日、親父からお使いを頼まれた。
ホールケーキの注文と、小売のケーキを何個か買って来るようにとの事だった。
ケーキ代を渡されて、親父に頭を下げて部屋を出てから。いつもより早歩きになっていた。昨日の礼を伝えたい気持ちもあるが、別の気持ちもあって少し顔が熱くなった。
ケーキ屋が見えて来た辺りで一旦足を止めて。
目を閉じて、ゆっくり深呼吸してから、店へと入った。
「休み…?」
「ああ、連休で今週はずっと来ないよ」
「…そうですか」
昨日、準備があるって言ってたのは仕事の事じゃなかったのか…。
「ああ、でも。今朝早くに厨房にはいたなー。どうしてもオーブンが使いたかったらしくて、朝当番の作業までやって帰ってたけど」
「オーブン?」
「ああ。そうだ、1つ食べてみるかい?お客さん、旭と仲良いみたいだし。渡しても問題無いだろうしね」
厨房奥から持って来たのは、パイケーキだった。
どーする?今食べる?それとも他のと一緒に箱入れる?と聞かれて、今食べると伝えると。あいよ。と、お皿に移してくれた。
お皿とフォークを受け取って、パイ生地にフォークを入れる。サクッと良い音がした。口の中へ運ぶと、カボチャの味がほくっと広がって行った。
「カボチャ?」
「そ。カボチャパイ、何か昨日大きなカボチャ貰ったらしくて。料理で使おうと料理の本まで買ったらしいんだけど。 やっぱり、お菓子にしたくなったらしいよ」
「そうですか…。カボチャパイ、美味いです!」
パクパクとカボチャパイを食べ進める。
俺の感想を聞いた店員は、クスリと笑ってから「本人聞いたら喜ぶと思うから、また会った時にでも伝えてやって」はい。と、ホールケーキの注文書と。箱詰めされたケーキの箱がカウンターに並べられた。
ご馳走様です。と、言いながら店を出て、組へ戻る時に。昨日の事を思い出す。
やっぱり、ゆうひ何かあったんじゃないか?俺の考えすぎか?
んー…。と、首を傾げながら歩いていたら、ケーキの箱が斜めになりそうになり、慌てて元に戻した。