見習い一年目 春夏秋冬
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ミーン ミンミンミンミン ミーンン
外から、蝉の大合唱が聞こえる。今日と明日はお店はお休みで、夜に行われる花火大会の出店の準備をしていた。
うちのお店は毎年クレープ組と、チョコバナナ組に分かれて準備から設営まで行うんだって。なんだか、文化祭みたいで楽しいな。
私はクレープ組になった。クレープの中身は毎年違うみたいで、1つ変わった内容を考えてくるように!と、言われて。色々悩んだ挙句、自分の好きなモノを選んで提案した所…すんなり案が通った。
「売り上げが良かった順に、臨時ボーナス出るからな!」
と先輩に言われてから、もう少しちゃんと考えれば良かった。と、後悔した。
「旭君、順調かい?」
「はい!」
オーナーから声をかけてもらった。
「へー。いいな、美味しそうだ。少し味見をしても構わないかな?」
にっこり微笑まれたら、嫌とは言えない。
味見用に小皿を出して、準備していたクレープの具を少し取ってオーナーへと渡した。
「…いかがでしょうか?」
オーナーは、私が準備している周りを見渡してからクレープの具達を小皿に少しづつ入れて再び味見をした。
「いいね、生地が上手に焼けたら最高だ」
オーナーの目尻の笑い皺が出た。
「ありがとうございます!」
ご馳走様でした、準備頑張ってね。と、オーナーは厨房から出て行った。
自分のと先輩達の準備済みのクレープの具を、一つ一つ大きいタッパーに詰め込んだ。コックコートから、Tシャツに薄手のズボンに着替えて。タッパーを抱えてお店と出店を何回か往復をした。
夕方─
「クレープいかがですかー?」
呼び込みしながら、クレープの生地を焦がさないように焼いていく。
先輩達のクレープの注文は入るけど、私のクレープはまだ注文が入っていない。オーナーからは褒められたけど、やっぱり変わり種すぎたかなー?
「ゆうひ?」
目尻まで垂れてきた汗を首にかけていたタオルで拭いた時に声をかけられた。
「真島君!」
紺色の甚平を着て、駅弁を売ってる人みたいに首にかけられる箱を持っていた。
あの日以来、真島君はよくうちのケーキを買いに来てくれている。どうやら親父さんがうちのケーキを気に入ってくれたみたい。
「クレープ売ってるんか?」
「うん、こっちはクレープで。あっちではチョコバナナ売ってるよ」
「ほーん」
クレープのメニューを見て、人気はどれや?と聞かれた。
「チョコとバナナホイップが、やっぱり人気かなー」
「その組み合わせは美味いもんなー」
「だよねー」
思わず苦笑いをしてしまった。
もう少しちゃんと考えれば良かっただけなんだけど、自分が好きなモノだからって理由で安易に選んだ私がいけない。
「オススメは?」
「へ…?」
「クレープ屋さんの、オススメはなんや?」
「えっと…」
「人気なんは、チョコとバナナホイップなんやろ?でも、ゆうひがオススメしとるんはなんや?」
「えっと…その、全然、1つも売れてないんだけど…」
オーナーに褒めて貰ったけど、1つも売れてないのが事実。自身はもう全然無くて、恐る恐る真島君へ伝えた。
「りんごとシナモンホイップ」
「んじゃ、それ1つ」
「…へ?」
「りんごとシナモンホイップ1つや」
左手の人差し指を前に出して、右掌にクレープ代を出していた。
「あ、ありがとうございます!」
注文が入った事をやっと認識して、急いでクレープを作った。真島君にシナモン苦手か聞いたら大丈夫と返事が返ってきたので、りんごとホイップの上にふんわりふりかけた。
「はい、お待たせしました!」
クレープを渡して、真島君から代金を受け取った。やっと1つ売れて少しホッとした。
「おおきに。じゃあな」
真島君は笑顔で去って行った。
その後も、クレープを買いに来てくれるお客さんは何人か来てくれたけど。バナナと苺は売れるけど、りんごの注文は言われる事が無く、休憩時間となった。
「休憩頂いてきます」
と、先輩達に声をかけて。縁日の中を進んで行く。お腹は空いたけど、疲れてるからあんまり食欲が湧いてこなくて。ひとまず、かき氷屋へ向かうとした所に肩を叩かれ振り返ると、少し息を切らした真島君がいた。
「真島くん」
「休憩か?」
「うん、今から休憩だけど…」
「お願いが、あるんやけど」
「なに?」
「さっきのクレープ、まだ残っとるか?」
「あ、うん…。まだあるよ」
全然売れなかったしねー。と、心の中で呟いた。
「そんなら、そのクレープ全部売ってくれ!」
「…へ?」
「行くで!」
「え、ちょっと!?真島君?!」
真島君に手を取られて、クレープ屋まで戻って来てしまい。真島君はポケットから勢いよくお金を出して、りんごとシナモンホイップ全部くれ!と、先輩達に伝えていた。
先輩達も驚いてたけど、1番驚いているのは私で…。真島君の行動に驚きすぎて、立ち尽くしいると、急いでるんや!と、言う真島君の声に我に返り、クレープ作りを手伝った。
真島君と2人で、りんごとシナモンホイップのクレープを両手に抱えて縁日から少し離れたビルへと入っていった。
ビルの屋上へ着くと、怖そうな男の人たちが沢山居た。立ち止まっいる事に真島君が気がついて、俺いるから大丈夫や。と、声をかけてくれて、真島君の後に着いていった。
「真島…」
「親父、お待たせしました」
「あ…」
「んー ?…いつぞやのお嬢さんか」
真島君の親父さんと分かり、思わず声が出てしまった。
「こ、こんばんは…」
「ほぉー…クレープ屋ってのは、お嬢さんのお店なんか?」
「は、はい…」
「なるほど、ほんなら美味いわけやな」
「へ…?」
「親父が気に入ったんやて」
真島君が紙皿に上にクレープを載せている。
「な、何を?」
「お前のクレープ」
なんですと?!
目を見開き、真島君と親父さんを交互に見てしまった。真島君が私の持っているクレープを受け取りながら、驚きすぎや。と、言われたが。驚かない方がおかしいよ。
「親父、2つ貰ってもええですか?」
「ああ、それは駄賃や」
「ありがとうございます」
「真島、そのお嬢さん送ったら今日はもう上がりでええで」
「分かりました、お先に失礼します」
真島君はクレープ二つ手に持って、私の腕をつかみ。行くで。と、声をかけられた。
「お、お買い上げありがとうございました!」
と、大きな声で伝えたら。背中越しにガハハと、あの親父さんの笑い声が聞こえてきた。
「あー… ビックリしたー」
生きた心地がしなくて、胸に手を当てて、ゆっくり深呼吸をする。
「やっぱり、親父は怖いか?」
「んー…雰囲気にやられちゃう感じかな…」
「それは怖いって事やろ?」
ビルから出て、真島君が縁日の所まで送ってくれた。
「そーいえば、真島君何か首からぶら下げてたけど…何か売ってたの?」
「ああ、カラーひよこな。クレープ買った時にはもう全部売れてたけどな」
「真島君は商売上手だねー」
「ヒヒッ、親父も褒めてくれたわ」
縁日まで戻ってこれたので、改めて真島君へお礼を伝えた。
「今日はありがとう。真島君のお陰で、オススメのクレープ全部売れたよ」
「俺まだ食うてないけどな」
「あ、そっか。親父さんに食べられちゃったんだもんね」
「…友達とこも出店出してて、これから行くけど、ゆうひも一緒に来るか?」
「あー…折角のお誘いだけど、休憩時間もう直ぐ終わっちゃうから」
「さよか。ほんなら、またな」
バン!!!!
花火の音が聞こえて真島君と空を見上げた。
建物があって全部は見えなかったけど、夜空に大きな花が咲いているのは分かった。
しばらく花火を見てから真島君と分かれて、出店へ戻ると、先輩達は笑顔で迎えてくれた。
メニューのりんごとシナモンホイップの所に「完売」と大きく書かれていて。真島君の親父さんにも感謝をした。
翌々日─
お店開店とほぼ同時に、真島君が来てくれてクレープ美味かったと感想を言ってたらしい。
私は丁度オーナーのお使いに行ってていなかったんだけど、真島君に褒めて貰えたのが臨時ボーナスを頂けた事よりも嬉しかった。