見習い一年目 春夏秋冬
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ケーキ屋へ就職して3ヶ月が過ぎた頃に、オーナーから頼まれたお使いでコックコートのまま出かけた。15kgの袋を両腕で抱えて店へと戻る時に、後ろから肩を叩かれた。ゆっくり振り向くと、目鼻筋整った長身の男が立っていた。
「ちょっと、ええか?」
「は、い?」
15㎏の重さに両腕がプルプルとしているのをグッと耐えた。
「…その袋、重そうやな」
「へ?あ、そうですね。15㎏は、あるんで」
振り返った反動で抱えていた位置が少し落ちそうになったので、よいしょ!と膝を使って上へと持ち上げた。
「中身は…何が入ってるんや?」
中身?何でそんな事聞いてくるんだろ?まあ、別に答えても問題はないけど…
…あれ?! ぇ、えっとー… なんだったっけ?
重い荷物を持っているってのもあるし、不意に質問されたのもある。袋の中身の名称をド忘れしてしまった…。
あー…えっと、えっとー…と、思い出そうと口に出してみるけれど。全然思い出す事ができない。
「聞かれて困るものでも入ってるのか?」
男の目つきが鋭く変わった。ビクッとしてしまって、思わず発した言葉のせいで私と男の時間が一瞬止まってしまった。
「し…し、白い粉です!」
「… … 白い、粉」
「… … あ、えっと。名前をド忘れしちゃっ、て?!」
言い終わる時に、肩を掴まれて耳元で「場所移動するで」と言われて肩を抱かれて、袋を押さえられて方向転換させられた。
「へ?!ちょ、ちょっと!」
「いいから、黙って着いて来い」
「こ、困ります!私、お使いの途中で!」
「お使いってのが、取引の事だろ?」
「な、何の事?!」
待ってください!お願いです!と言っても、全然離してはくれず。とうとうビルの中へと連れ込まれてしまった。男は扉をノックしてから「失礼します」と、言って私を中へ入れた。
「親父、見つけましたわ」
「…真島か」
ツルンとした頭に太い眉毛、貫禄のある声に思わずビクッとしてしまった。親父と呼ばれた男は、ギロっとした大きな目で黙って私の事を上から下へと見てから、ゆっくりと言葉を発した。
「…そいつが、例の奴なんか?」
「はい、聞いたら自分から中身を言ったんで間違い無いです!」
「ほぉー…。 お嬢さん、その袋の中には。何が入っとるんや?」
先程と同じ質問だ。さっきは、思い出したくても思い出せなかったけど…。パニックで脳がフル回転したお陰か、やっと袋の中身の名称を思い出せた。
「べ、ベイキングパウダーです…」
「べいきんぐぱうだぁー?!」
私を連れてきた男は、先程質問した答えとは違う回答を驚きながら復唱した。
「さっき、白い粉って言ってたじゃないか!」
「だから!さっき、ド忘れしちゃったって…。言ったじゃないですか…」
親父と呼ばれていた人は目を瞑り、溜息を吐いて「真島…」と、男の事を読んだ。
「は、はい!」
「元あった場所へ返して来い」
──────────
「ヒック…!うう、グスン…」
「悪かったって!もう、泣かないでくれ」
「ぅうー…」
男が袋を持ってくれて、私は男の後を泣きながら着いて行った。
「…親父や俺が怖くて泣いてるのか?」
「…ひ、拾って来た犬や猫を戻して来いみたいに言われたぁー!」
「はぁ?!…つか、そこで泣いてるんか?」
「だってぇー…ぅぅッ!」
「はぁー…。泣きたいのはこっちや…」
涙を拭いて男の背中を見ると、先程の勢いは無くなって、肩を落としてるように見える。
「…ぉ、怒られちゃうの?」
「あ?」
「さっきの、親父さんに…」
「いや、もう…怒ってる。というか、呆れられてたんやな」
「ごめんなさい…」
「なんでお前が謝るんだよ、お前は悪くないだろ?俺が思い込んだのが悪いんだ」
「でも、私がちゃんと答えられてたら…親父さんに呆れられなかったんじゃない?」
「…お前、名前は?」
肩の力を一瞬落としてから、足を止めて此方を向いて名前を聞かれた。
「旭ゆうひ」
「俺は真島吾朗や、お詫びにお前ん所の店までこれ運んだる」
「ありがとう…!」
二人並んで歩いて店へと向かう道すがら、年は?と聞かれたので、18才と答えた。
「なんだ、同い年か」
「…真島、君も18才?」
「おう」
「大人ぽいから、年上かと思ってたよー」
「そら、おおきに」
店に到着してオーナーへは、私が道に迷った所を真島君が助けてくれたという事にした。オーナーは真島君にホールケーキを箱に入れて持たせてくれた。店の外まで真島君を送って、今度はお客さんとして来てね。と見送った。
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