狂犬と堕天使
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「お座り!」
自分の口から出てしまったと、理解したのは男とヅッカさんの視線に気がついてからだ。
「…ヒヒッ」
男は口角を上げて笑い、私を見下ろしている。
「ッ…まるで、犬に躾するようにッ…言う、やないか…」
「…申し訳ありません」
「ヒヒッ…ええで、座ったる」
よっこらせ。と、ドカッと倒れ込むように車椅子に座った。車椅子のステップに両足を乗せようとした所で、話しかけられた。
「看護婦さん、名前は…?」
「看護師の、旭です」
「…苗字やのーて、名前や名前」
「苗字でお願いします」
「フッ… まあ、ええわッ……。ほんなら、旭ちゃんが、今日から俺!専属の看護婦さんや」
他の看護婦やったら俺はもう帰るで。と、肩で息をしながら偉そうに言い始めた。
指名は出来ませんので。と、一言伝えてヅッカさんと3人で病室へと戻り。車椅子からベッドへ移動させて外されてしまった点滴を再度付け直して、ヅッカさんは先生を呼びに行った。
私は派手なジャケットをハンガーに掛けて、ロッカーへと片付けてバイタルチェックを始めた。
翌日
「やっぱり!私の目に狂いは無かったわ!!」
と、瞳を輝かせたヅッカさんに捕まってしまい。看護部長室へと連れていかれ、看護部長や院長に理事長勢揃いの中で辞令が出された。逃げられる状況ではない事を察し、渋々了承をした。
ヅッカさんと私の2人で対応する運びとなり、ヅッカさんは外来メイン、私は入院メインで対応する事となった。
「893手当担当ペア」とか最初は言われていたけれど、長いので”手当“と短く言われいる。
数日後
私が点滴交換の為、マジマゴロウの病室を訪れると。回診中の院長の声が聞こえた。
邪魔にならないように、カーテンから少し離れた所で待っていると…とても良からぬ会話が聞こえて来た。
院長に私をマジマゴロウ専属の看護師として就いてもらうようにと、お願いをしている所だった。
思わずカーテンを開けようと一歩だけ足を進めたが、院長が優しく諭してくれている。
無駄口が叩けるほど元気になってきたって、証拠なんだろうけど…。まだあの傷口の様子だと、最低でも2週間は入院が必要だ。
「俺は別にもうここ退院したってええんやでー。だいぶ元気になってきたしなー」
「… …!!」
カーテン越しで分からないが、院長の様子がおかしい。
「んー?どないしたんや?…院長先生?」
「… … …ゎ、分かりました」
院長沈黙後にまさかの了承の言葉に思わず勢いよくカーテンをシャッ!と、開けてしまった。
「お?旭ちゃん!ええとこに来たなー!」
「… …良い所だとは思いません」
「あー?」
「指名は出来ないと、お伝えしたはずです」
「なんや?盗み聞きか?…まあ、でも。院長先生は良いと言うてくれたでー?」
「… … …」
院長を見ると、黙ったままマジマゴロウが着ているガウンの胸元からチラッと見えた刺青を見つめていた。
「退院しても、俺専属の看護婦さんてことでええんやな?」
「かまいません」
「…院長?!」
「…旭くんは、看護師の業務として!真島さんの治療の手助けをするように!」
以上。と言って、病室を後にした。
「よろしくやでー」
「… …」
「なんや?さっきの勢いはどこ行ったんや?」
「…いえ」
「俺専属の看護婦さんになったんやから、名前教えてもらうでー?」
「…看護婦ではなく、看護師です」
「あ?」
「看護師の旭です」
「苗字やのーて、名前や」
「…患者様に個人情報を教えるわけにはいきません」
そもそもヤクザだろうし。
「ほーん。なら、名前教えてもらうまでは、ゆーっくり、治療をさせて貰うわ」
その後の入院期間中は、何度も何度でも名前や色々と個人的な質問の嵐に嫌気が差していた。
体調も良くなったから退院の話をするも、名前聞いて無いから退院はしないだの。退院するなら、連絡先を教えてくれないと嫌だの散々駄々をこねられた。
「俺専属の看護婦さんなんやから、連絡先教えてもらわないと怪我した時に困るやないか!」
「看護婦ではなく、看護師です」
「後、名前や」
「…怪我した時は、外来に来て頂けたら直ぐに伺います」
入院の空きベッド確保の為、今日はなんとか退院の説得するようにと…。院長直々にお願いをされてしまっていた。
「名前は、他の患者様の手前。お伝えすることはできません」
「そら、話がちゃうやないか」
「話?」
「せや、院長先生は了承してくれたんやで?」
「…ですから、出来る事と。出来ない事の話をさせて頂いているんです」
「… …ほーん」
「傷の状態はほぼ完治してます。1ヶ月後の外来受診時に、私も先生と一緒にお話しを聞かせて貰えるように勤務調整はお願いをしておきます」
ですから…。と、退院の日程の話をしようとすると。病室とは思えない程の大きな声が響き渡った。
「分かったわ!!」
「…はい?」
「ほな、旭ちゃんが俺に興味を持ってもらえるように頑張るわ!」
「ぇ… ん?あの…」
「俺を患者としてじゃなくて、男として見て貰えれば色々と旭ちゃんの事を教えてくれるんやないか?」
「…は?」
男として見る?
空いた口が塞がらず。ポカンとしていると、マジマゴロウはイヒヒと。笑いながら私の顔を覗いて一言呟いた。
「楽しみやなー!」