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私が新人の頃からご贔屓にしてくださっているお客様からの懇願で、お客様主催のパーティーに出席した帰り道だった。
華金もあいまってタクシーは捕まらず、お客様が送っていこうと申し出てくれたけれど。酔い覚ましも兼ねて駅まで歩くので大丈夫です。と、神室町駅に向かって歩いていた。
人気の少ない路地付近の道だったが、まったく人が歩いていなかったわけでもないし、まだテッペンにもなっていないし大丈夫。と、歩いていたら…以前ミレニアムタワー近くで絡らんできた、明らかに品と頭の悪そうな輩3人と鉢合わせてしまった。
思いっきり顔に「ゲッ」って出てたと思う。
お互い数秒見つめた合いの沈黙後、ヒールの音が鳴り響く勢いで走っていた。
後ろから「待てや!このアマ!!」と叫ぶ声が聞こえる。
男たちの足音と声、息遣いがドンドンと近づいてくるのが分かって「助けてください!!!」と、大きな声を必死に出した。
ヒールのカツ!と、先ほどとは違う音が耳に届いた時には男に肩を捕まれてしまい。抵抗して振りほどこうにも六本の腕に身体を捕まれており力に勝てるはずもなく、口元も抑えられてずるずると人気の無い路地裏へと連れ込まれてしまった。
「騒ぐんじゃねーよ?な!」
「俺らの事覚えてくれてたみてーだし!」
「こないだ楽しめなかった分、今回はたっぷり楽しませてもらうぜ!!」
ビリビリとドレスは胸元から引き裂かれてしまった。
正面の男に口元は抑えられているから声は籠ってしまい人の多い通りまでは届くことはない。それでも辞めて欲しくて叫び声を出しながら必死に抵抗し、手と足をばたつかせた。その時に私の口元を抑えていた男の頬を爪で強くひっかいたらしく、うめき声が上がったと同時に抑えられていた口元が解放された。
「いっっ、てぇー!なー?!」
「は、離して!」
「ああ?!お前が暴れなければ、こんなことにはならなかったんだよ!!」
後ろで腕を押さえつけている男が耳元で怒鳴り鼓膜が揺れてすぎて耳が痛かった。
「もう、ホテルで優しくってのはしねーからなー!」
正面の男に顔を近づかれて顎に手をおかれた。
「ゃっ!やめ、て…!」
顔を避けようとすると顎から頬へ手の位置を変えられてしまい。
男の唇が私の唇へ触れかけた瞬間だった。
もう一人の男のうめき声と同時にガシャンと大きな音が聞こえた。
「ああ?!」
私の手を抑えていた男が声を上げたのは聞こえてきた。
ただ、唇の嫌悪感が続いており。ギュっと瞼を閉じている状態で、嫌々と逃げているのに必死で手が解放されていた事に気が付くのは少し後だった。
「がぁっ!」
ドンガラガッシャン!という大きな音が聞こえて、うるせーなー!!と、男が声を発してやっと唇が解放された。
ギュっと閉じていた瞼を開けようとするも、いつの間にか泣いていたらしく視界が涙でぼやけてしまっていたよく分からない状態だった。
男の声の怒鳴り声が聞こえてきてはいたが、徐々に悲鳴や苦痛へと変わり、最後は何も聞こえなくなっていた。
静かになり、自分のしゃくりあげる声と浅い呼吸しか聞こえなくなっていた。カツ、カツ、カツと。誰かがこちらへ近づいてくるのが分かった。
さっきみたに乱暴にされたくなくて、息にしかならない微かな悲鳴と同時に身体が縮こまった。カツと足音が止まった。瞼を閉じてしまっていて分からないけど、たぶん、目の前に誰かがいるんだろう…。
「ぉ、お願いです…やめて。もう、やめてくださぃ…!」
絞り出すように声を出して、身体をさらに縮こませた。
カツと、更に近づかれて「ぃゃぁ!」と小さく悲鳴を上げた後に、ふんわりと温かい温もりを肩に感じた。
…え?
瞼を開けて涙でぼやけている視界を必死に拭ってから自分の肩へ目をやると、ジャケットをかけられていた。
助けてくれた…?と思い、ゆっくり首を動かして目の前に立っている人を見上げると、般若のお面をつけている男が立っていた。
声が出るか出ないかの微かな悲鳴が出そうになり、必死に飲み込んだ。
「ぇ……と。…ありがとう、ございます」
「… …」
声をかけても無言だったので、更に声をかけようとすると、手を差し出された。立ち上がれるように差し出された手だったが。生憎恐怖のあまり腰が立たなくなってしまっていた。
「あ、えっと…腰をぬかしてしまって力が入らないんです」
「… …」
「ごめんなさい…」
謝ると般若のお面の男は首を横に振り、膝をついてしゃがんだと思ったら私を横抱きにし始めた。
「へぇ…?え!?あ、の!」
「… …」
般若のお面の男は此方を見てはいるが、相変わらずしゃべることはしなかった。
少し休めば歩けると思うんです。下ろしてください。と、言ってみたけど喋ることはしない。私が困っていると、ゆっくり歩き始めてしまった。
「え!?あ、えっと…!」
「… …」
どうしようかと考えている間も、どんどんと景色は変わってしまっていて大通りに差し掛かろうとした時に声をかけられた。
「ゆず?」
聞き覚えのある低い声の主は桐生さんだった。
「き、桐生さん…!」
「どうかした…」
私の姿を見て、桐生さんは言いかけて動いていた唇を止めた。
「ぁ、その…」
「… …」
「どうゆう、ことだ…?」
「あ、その…助けて、頂いたんです。この人に…」
「助けて、もらった?」
「はい…。以前にも絡まれたことある男たちに、襲われてた所を…この人が助けてくれました…」
「そうか…」
桐生さんは肩の力をすっと解いた様子で、一度瞼を閉じた後にゆっくりと開けた。
「で、ハンニャマンに送ってもらっている所ってわけだな」
「…ハンニャマン?」
「ゆずを今お姫様抱っこしている奴の事だ」
「あ、この人ハンニャマンって言うんですか…!さっきから話しかけてても無言だったので…」
「そうか、そういえばそうだったな…。安心してくれ、そいつはゆずを助けた。危害はない。そうだろ…?ハンニャマン」
「… …」
「ふっ…相変わらず、設定は完璧だな」
「設定??」
「あ、いや。なんでもない…。ハンニャマン…!」
桐生さんは私の質問を遮って、ハンニャマンに問いかけた。
「ゆずを家まで送って行くのか?」
桐生さんの問いかけを聞いて、ハンニャマンを見上げた。
「… …」
「ゆずが不安がっているから聞いているんだ。YESなら頷いてくれ」
桐生さんの問いにハンニャマンはゆっくりと頷いた。
「だ、そうだ」
ホッと胸を撫でおろすと。桐生さんはハンニャマンに「ゆずの問いかけにはせめて頷くとかで答えてやって欲しい」と、ハンニャマンに伝えて。桐生さんは神室町のネオンに消えていった。
桐生さんの姿が見えなくなる事を確認してからのような気がした。ハンニャマンはゆっくりとまた歩き始めた。タクシーを拾うわけでもなく、ひたすらゆっくりと私のアパートへ向かう道を歩いている。
そういえば、私アパートの住所伝えていたっけ?と、疑問が浮かんだ。分かれ道にぶつかるとハンニャマンは立ち止まって左右をゆっくり確認し、私の顔を覗いてきた。右です。そのまままっすぐです。と、ハンニャマンが立ち止まる度に道順を伝えて。アパートへたどり着くことができた。
アパートの102号室だと伝えると、扉の前までゆっくり歩き。横抱きにしていた私を一度膝で支えたかと思うと。鞄を私が取れる位置まで持ってきてくれていた。
「ありがとう」と受け取り。鞄の中から鍵を見つけると、もう大丈夫ですから。と、伝えたものの降ろしてくれる気配はなく。鍵穴に私の手が届くような位置まで屈んでくれていた。
降ろしてくれる気配がないので、屈ませてしまっているのも申し訳なくて急いで解錠した。
私が解錠したのを見届けると、屈んでいた姿勢をゆっくりと元の姿勢に戻し、私を横抱きにしたまま器用に扉を開けて玄関へと入った。
玄関マットの上に座らせられた。
無事に帰って来れたと…安堵して目に涙がジワジワと浮かんで来たのを自覚した。
「ありがとう、ございました…!あの、何か…お礼を」
したいです。と、申し出ようと。言葉を言い切る前に、ハンニャマンにふわっと抱きしめられた。
ハンニャマンは無言で離れて。カツ、カツ、カツ…と、足音をゆっくり立てて玄関をゆっくりと出た。玄関の扉に静かに手をかけて閉める際に此方を振り返り胸に手を当てた状態でお辞儀をしていた。
パタンと玄関の扉が閉まった音が鼓膜を刺激した時に、呼吸をしていなかった事に気がついて深く、深く深呼吸をした。