どこでも?
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「大丈夫?」
「ずみぃまぜん…」
閉店後の片付けを終えて、身支度をし始めようとした時に携帯が鳴った。電話に出ると、アフターへ行った後輩の子からで。BARで客と一緒に飲みすぎて動けなくなってしまった。と、電話がかかってきた。
BARまで迎えに行くと、マスターが困った顔で出迎えてくれた。お酒の飲み比べが始まったは良かったが、高い酒にも手をつけてしまって。2人の財布の中に入っているお金を合わせても、支払えない金額にまでなってしまってい。挙句、二人共潰れかけていた。
「ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」
マスターへ深々と頭を下げて、お金を立て替えて支払いをした。私の今日の売り上げをほぼ持っていかれてしまった。
後輩の子を待たせてもらうようにマスターへお願いをし、ヨタヨタしながら客の肩を担ぎ安いカプセルホテルへと押し込んでから、またBARへと向かい。今度は後輩の子に肩を貸してBARを後にした。
「お家、どの辺りだっけ?」
「私もホテルで休むー」
「お金、無いんでしょ?今日のは、半分貸しだから、ね」
「えー…!んー…。あれ、後の半分はー?」
「あの客が、次店に来た時に、私が絞るだけ、絞り取る!」
「ゆず先輩、超怖いー。めっちゃ怒ってますね」
「貴方にも怒ってるわよ?」
にっこり笑顔で答えて、黙る後輩。
酔っ払いに怒ったって暖簾に腕押し。分かってはいるけれど、釘は刺しておきたい。
あー…これは、糠に釘か。
苦笑いしながら自問自答しながら歩いていると、前方に一台のタクシーが停車している。タクシーに近づいて、窓をコンコンとノックする。窓が空いたのを確認して、運転手へ声をかけた。
「すみません、乗せて頂けますか?」
運転手からの反応はない。
「あの…」
後部座席の扉が自動で開いた。
ありがとうございます。と、お礼を伝えて、後輩の子を先に座らせてからタクシーへと乗り込んだ。
「すみません、2箇所回って頂けますか?」
後輩の子に住所を伝えてもらい、車は発車した。
タクシーに乗れて安堵したのか。今にも寝てしまいそうな後輩を見て、寝かさないようにひたすら話しかける。
さっきの客の名前やら、飲んだお酒の種類。
後輩の子が対応した他の客の様子やら。
他のキャバ嬢の色恋沙汰の話を振ってみた。
「ゆず先輩は、どーなんですか?」
「へ?」
まさか自分の話題にされるとは思ってもみなくて間抜けな声が出てしまった。
「こないだっから、様子おかしいですよー」
「ぃ、いつも通りだよ?」
「えー!だって、携帯の待受見て一人で嬉しそうにしてるじゃないですかー」
ギクリ
「覗いたの?!」
「覗いたわけじゃないですよー。ゆず先輩に声かけてるのに返事が無かったんですもーん。で?あの待受は…良い人と飲みに行った時に飲んだカクテルなんですかー?」
待受はゴロ美スペシャル
ゴロ美ちゃんの写メは無いし、一緒に撮る機会も無かった。あの日、眼帯のバーテンダーさんに作って貰ったカクテルが、唯一ゴロ美ちゃんとの繋がりな気がして。あの日からずっと待受に設定している。
「えーっと…。好きな人の名前と同じ名前のカクテルだったんだ」
「ヒュー!ゆず先輩ー。やっぱり、好きな人居るんじゃないんですかー!」
どんな人なんですか?と、聞かれて困っていると。タクシーが停車して扉が開いた。
「あー。良い所だったのにぃー。着いちゃったー」
「はいはい、また今度ね。部屋まで送るよ」
「大丈夫ですよー」
「真っ直ぐ歩けてないんだからダメよ。さ!」
運転手へ、待っててもらうように伝えて。後輩の子を部屋まで送り届けた。ベッドへ座らせて、冷蔵庫にあった水のペットボトルを渡した。
オートロックだけど、玄関の鍵はちゃんとかけるようにね。と、念を押してみたけど。ふぁーい。と、半分夢の中に行ってしまっていた。
ため息を吐いて、テーブルの上に置き手紙を書いて。鍵をかけて、ポストへ鍵を入れた。
「すみません。お待たせしました」
タクシーへ戻って、今度は自分のアパートの住所を伝えた。タクシーは静かに発車して、夜の街を走り抜ける。寝ないように景色を眺めていると、アパートとは逆の道を走っている事に気がついた。
「あの、運転手さん」
「… …」
運転手からの返答は相変わらずない。
「あの、道が違うみたいなんですけど…」
「お客様」
「はい?」
「大変申し訳ありません。工事中の道がこの時間帯何箇所がありまして、迂闊ルートで向かっております」
「そ、うですか」
なら、しょうがないか…。と、外の景色を眺める。眺めながら、先程の後輩の子との会話を思い出す。
『待受見られたのは迂闊だった…。』
右手で口元を押さえて、ぎゅっと目を瞑った。
『まあ、ゴロ美ちゃんとは伝えなかったし。』
目元の筋肉を少しづつ緩めて、ゆっくりと瞼をあげた。
『あの様子だと、タクシーでの会話までは覚えてないだろうから、何か聞かれても適当に誤魔化そう。』
右手を元の位置へ戻し、目を閉じて。ふぅーっと静かに息を吐き出した。身体の力が少し抜けるのを感じた。
明日から連休を貰っていた。休みで良かったと安堵すると、睡魔がじわじわとやってくるのに気がついた。
『少しだけ、ほんの少しだけ…。』
『10数えたら、瞼を開けよう。』
1、 2 、3 、ヨ ン …
「…頑張りすぎやで、ゆず先輩」
睡魔に襲われた瞬間、ゴロ美ちゃんの声が聞こえた気がした。
──────────
「お客様、お客様」
肩を揺らされて起こされている事に気がついた。
「…は、ぃ」
まだ、夢見心地で今自分が何処に居るのかも分からず。車の扉を開けて起こしてくれた人を、ぼーっと見上げた。
「本日は真島交通をご利用頂き、誠にありがとうございます。乗り心地はいかがだったでしょうか?」
真島 交通…。そっか、私タクシーで寝ちゃったのか…。
白い手袋をした手を差し出されて、思わず手を取りタクシーからゆっくり降りた。運転手を見上げるも、暗くて顔はよく見えない。
「工事の関係とはいえ迂闊ルートへのご了承をして頂き、ありがとうございました。お疲れの所、大変申し訳ございませんでした」
運転手はきちっとお辞儀をしてくれている事が分かった。
「あ、いえ…。こちらこそ、2箇所も回って頂きありがとうございました」
運転手へ伝えると、ゆっくりと身体を起こして胸元から1枚のカードを取り出して差し出された。
「お客様は、幸運の持ち主の方です」
差し出されたカードを受け取った。
「お客様に、これからも幸せが訪れますように」
カードを開くと、ピンクの桜のマークの真ん中に白でMの文字が書かれていた。
「あの、これって…」
カードから運転手へ目線を移そうとするも、運転手の姿はなかった。
パタンとタクシーの扉が閉まる音が聞こえて、タクシーを見ると行灯にもカードと同じピンクの桜のマークの真ん中に白でMの文字が書かれていて。派手なピンクの色で光っていた。
タクシーが走っていくのを見送る形になってしまった。代金を支払っていない事にハッ!として、走って追いかけるも追いつく事はできず。肩で息をしながら目を細めて、タクシーのナンバーを確認すると「神室町 ま 563」と書かれていた。