好みのタイプ
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キャバクラのトイレの個室で大きな溜息を吐く。
真島さんの事が好きな自分と、真島さんの好みのタイプがかけ離れ過ぎている。
御伽噺のお姫様じゃないのは分かってはいる。きっと、ウララちゃんのように可愛いくて、小柄でフワフワしていて守ってあげたくなるような人がタイプなんだろうな…。真島さん、漢らしくて素敵だし。好みのタイプも頷ける。
真島さんに今好意を抱いてはいるが、あまりの自身の無さに殆に呆れている。告白するにはお粗末な容姿、性格だって善いとは思えない。努力して、真島さんの好みに近づけるぐらいならどれだけ前向きだっただろうか…。
キャバクラと分かった時点でやっぱり、断れば良かったな…。女性らしくはない自分と、煌びやかな同性をどうしても比べてしまう。元々自尊心が低いのに、もうズタボロだ。
とりあえず、西田さんに酔いが回り過ぎたんで帰ります。とでも言って今日は帰ろう。帰って、シャワー浴びて、寝て。寝れなかったら、お気に入りの映画を観よう。映画観て、沢山泣くんだ…。
意を決して個室から出ようとすると、キャバ嬢達がトイレに入って来た。
「あー…!今日は、真島組相手だから楽だわー!」
「ねー。今日ラッキーだよねー」
「真島さん、優しいしー」 「「ねー!」」
うん…、真島さんは優しいよ、ね。
凄く優しくて、かっこいいよね。分かるー。
「そーいえば、西田さんが連れてきたヒト誰ー?」
「あー何か奥の方で、西田さんと一緒に呑んでる子?」
完璧に出れなくなってしまった。すみません。私です。もう、既に心に余裕は無いので、勘弁してはもらえないだろうか…。と、思った矢先にキャバ嬢から放たれた言葉で心がグシャリと潰れる音が聞こえた。
「まさか、真島さんの彼女?」
「えー!あんなメイクしてるかどうかもわからない地味な子がー?」
ないない。ありえなーい!と、ケタケタ笑いながらトイレから出て行った。
キャバ嬢達の言葉で動けなくなっていた。
よろよろとトイレから出て、店の出口へ向かう。
ボーイに、生ビール一杯だけ飲みたした。と言って、お財布から一万円を出し。店を後にした。お金を渡したボーイが何か言っていたようだが全然耳に入って来ない。一刻も早くここから立ち去りたくて、一心不乱にアパートを目指す。
アパート着く直前で携帯のバイブが鳴ったような気がした。真島さん、だろうか…。バイブは鞄の中で響き続けている、電話のようだが。出られる心の余裕は無く、鞄を放り投げてベッドへ項垂れて我慢していた涙を気が済むまで流す事にした。
翌日─
起きると朝の10時近かった。スーツはしわくちゃだし、顔はボロボロ。髪の毛ぐしゃぐしゃ。心は気が済むまで泣いた割には、まだ重いままだった。
何もしたくない…。けど、しないわけにはいかない…。
スーツを脱いでシャワーを浴びる。このまま色々と流せてしまえば、どれだけ楽か…。
「ゆうひちゃん、オモロいなー」
そうだよ。私が勝手に好きになっただけで、真島さんは元々私の事は、たまにご飯一緒に食べてくれる…友達、いや。知り合いぐらいなんだよ。
だから、真島さんも…キャバ嬢の人も誰も悪くないし…。勝手に、真島さんの事を好きになって。告白もできないまま、勝手に傷ついた、私が悪い…。悪いのは私…。
「ないない、ありえなーい!」
ね。本当に、そう…。自分が納得いく言い訳を考え、もう涙も枯れ果てた目は水で顔を洗った時に沁みて結構痛かった。鏡で顔を見たらパンパンに腫れている。
「ブッサイク…」
ポツリと呟いて、髪の毛を乾かし部屋着に着替えて目元を冷やしながらまたベッドへ寝転んだ。
夕方になったら、スーツをクリーニングに出しに行こう。眼鏡かけて、マスクすればきっと目立たないはず…。
鞄の中でまたバイブが鳴った。携帯を見る余裕はまだ無い。ごめんなさい。と、呟いき。目を閉じて今は目の腫れを引かせる事に集中をさせた。
──────────
夕方に財布とスーツを持ってクリーニング店へ出かけた。まだ顔も目も腫れている。週明けまでに何とかいつも通りにしたい。
クリーニング屋のオバチャンは何か言いたげだが、察してくれたようでスーツの受付を進めてくれている。
待っている間に、レジ前のチラシが目に入った。じーっとチラシを見てるのに気がついたオバチャンが奥からそのチラシを持ってきてくれて、どうぞ。と、渡してくれた。
直ぐに家に帰るつもりだったけど、クリーニング店の後にチラシのお店へと足を運んで「今からお願いできますか?」と、チラシを見せて入店した。
──────────
帰宅して、鞄の中の携帯を見る。着信履歴には沢山の真島吾朗の名前。
…心配させてしまったんだな。誰にも何も言わないで出て来ちゃったんだもんな…。
メッセージアプリを開くと同じく沢山の真島さんからのメッセージが届いていた。
真島吾朗:大丈夫か?今どこや?
真島吾朗:具合悪くなったんか?
真島吾朗:無事に帰れたんか?
最後のメッセージは、私が目元を冷やしてる時に届いたようで「何かあったんか?」と、書かれていた。
言えるわけがない…。
真島さんが気にかけてくれる文章から、優しさが伝わってくる。胸がジワジワと痛んできて、また悲しみの感情に包まれそうになる。頭を横に振ってから、返信を打ち始めた。
ご心配、ご迷惑をおかけして
申し訳ありませんでした:ゆうひ
呑むペースが早かったみたいで…悪酔いしてしまい
誰にも声かけられず帰って来てしまいました:ゆうひ
今、やっとメッセージ打てるぐらいになりました。
またこれから休みます。おやすみなさい:ゆうひ
ふぅーっと息を吐くとまた携帯のバイブが震えた。
真島吾朗:一緒におれなくてすまんな
真島吾朗:体調良くなったら、またメシ行こな
と、送られてきたが…そっと、アプリを閉じた。