好みのタイプ
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月に何回か、真島さんとご飯を一緒に行くようになった頃に。同僚からや後輩の子から「好きな人できたの?」「彼氏できたんですか?」と聞かれる事が多くなった。
答えは曖昧に返してるけど、その曖昧な返事がどうやら好い人いると思われたらしい。自分では変わったようにはあまり感じないんだけど。あの課長が…全然仕事を頼まなくなったのだ。
同僚曰く。独身で、プライベート充実してなさそうな人に仕事頼む事が多いらしい。私は格好の餌食となっていたようだ。
気づくの遅いよーって同僚からの言葉に「そうだ、ね」と、思わず本音が出てしまった。
──────────
今日は、韓来で焼肉。真島さんと2人ではなく真島組の方々も一緒だと連絡が来ていた。
真島組の皆さんとご飯に行くのは初めてだから少し緊張する…!
待ち合わせ時間少し前に、韓来の前に到着した。真島さんいつも私より早く到着してるけど、今日は私の方が早かったみたい…。でも、お店に電気が付いておらず真っ暗だった。
あれ?場所勘違いしちゃったかな?と、メールで確認しようとすると、走って来た人に声をかけられた。
「あの!旭さん、ですか?」
「はい」
「良かった。俺、真島組の西田っていいます」
「あ…初めまして。旭ゆうひです」
「すみません、今日韓来の予定だったんですが定休日だったみたいで…急遽場所変わったのでご案内します!」
西田さんは、また「すみません」と謝り。
本当は親父が迎えに来る予定だったんですが、親父今手が離せなくて…。と、本当に申し訳無さそうに謝られた。
気にしないでください。今日真島組のみなさんに会えると聞いて楽しみにしてたんです。と、返すも。また「すみません」と返されてしまった。
──────────
西田さんの後を着いて歩いてたどり着いた先はキャバクラだった。
「ぇー…と…」
「すみません!ここしか大人数受け入れてくれる所が無くて!」
「あー…なるほど…」
「いつも親父と旭さんが行くようなお店じゃなくなってしまって、申し訳ないです!」
西田さんに平謝りされる。確かに、真島さんとキャバクラは来た事はないし。他の人とも無ければ、一人で来た事もない。
真島さんとのご飯は本当に嬉しいが。まさかキャバクラになるとは思ってもなくて…固まる。
「…今日は、私帰った方が良いか、な…?」
「ええ!!そんな!親父、待ってますから!」
ね!と、必死な西田さんの勢いに負けて、渋々キャバクラへ入店する。
「はぁ…。じゃあ、ちょっとだけ…」
今日は真島組貸切との事で、他のお客さんはいないと聞かされるも。既にお酒が入り、出来上がってキャバ嬢にちょっかい出している組員の方々が目に入る。
見たことがない世界に、おっかなびっくりな状態で案内された奥の席に通された。
西田さんからメニューを受け取り、飲み物を注文しようとするが…
「あの、西田さん…」
「はい?」
「値段が、書いてないんですが…」
「ああ。今日は親父の奢りみたいなんで、気にしないで頼んで大丈夫ッスよ」
「でも…」
「大丈夫ッス!親父からも気にしないように。と、念を押しておくよう言われてるんで!」
じゃあ…と、メニューを見るけど場の雰囲気に慣れないからか全然頭に入って来ない。
悩んだ末に、生ビールを頼んで西田さんがボーイへ注文してくれた。
「少し席外しますね」
と、西田さんが離れてから。改めて店内を見渡す。
ここがキャバクラか…。キラキラ、チカチカしてる。煌びやかなキャバ嬢の姿を見て、自分の足元を見る。
パンツスーツに、ローファー。パンプスなんて入社式以来履いてない。足に合うレディースサイズが無くて、パンプスで数歩歩いただけで悲鳴を上げてしまうくらい歩けなくなってしまうので、きちんとした時以外は我慢せずメンズの靴を履く事が習慣になってしまっている。
靴に合わせて自ずとボーイッシュな服装を選びがちだし。唯一、女性らしいといえば、髪が長い事ぐらい。
そういえば、真島さんに髪の毛綺麗やなーって、いつだか褒めて貰った時は本当に嬉しかったな。と、考えていたら注文したいた生ビールが届いた。居酒屋で出てくるようなジョッキではなく、品の良いグラスに入った生ビールはとても高そうに見える。
届いた生ビールを呑まずに眺めていると西田さんが戻って来た。
「親父に旭さん到着した事伝えて来ました」
「そうだったんですか」
「親父、喜んでましたよ」
「真島さんは、今どちらにいるんですか?」
「あー…。親父はあそこに…」
西田さんが指を指す方を見ると、少し高めの位置にある豪華な席にキャバ嬢達の姿が見える。
「えー…と?」
キャバ嬢達の中央に真島さんが鎮座していた。
あ… …
店内のBGMで今まで聴こえてなかったが、キャバ嬢達が「真島さん」「吾朗ちゃん」と甘えた声で話しかけているようだ。
真島さんの表情は見えないが…なんだか画になる光景に少し見入ってしまった。きっと、美女に囲まれて、喜んでいるんだろうな…と、思えてきた。
「…王様、みたいですね」
「親父っスからね」
苦笑いで感想を伝えると、西田さんも苦笑いで返って来た。
西田さんに、呑んでください。おつまみもなかなかいけますよ!と言われて、生ビールをひと口飲んだ所に「西田くーん」と、キャバ嬢の子が1人やって来た。
「あ、ウララちゃん」
ウララちゃんと呼ばれたキャバ嬢は、小柄でとても可愛い。ピンクのドレスを品良く着こなしていた。ウララちゃんは私に微笑んでから、軽く会釈して西田さんの隣に座った。ウララちゃんが座った瞬間に彼女の香水だろうか?甘い香りがふわりと舞った。
「ね、ね。西田くん。吾朗ちゃんの事で聞きたい事があるんだけどー?」
「なんすか?」
ウララちゃんは、甘く可愛い声で西田さんへ質問した。
「吾朗ちゃんの、好みのタイプ教えて?」
生ビールをまた呑もうと、口に含んだ時に聞こえてきた内容に驚いて。思わずゴクリ、と音を鳴らして生ビールを食道へ流した。
「親父の好みのタイプっスかー…」
西田さんは、うーん…と。考えている。
「知ってるんでしょー」
教えてよー!っと、西田さんの腕に絡み付いてウララちゃんはせがんでいる。
「あー…強いやつっスかね」
「むう。それは、桐生ちゃんの事でしょ?」
「桐生の叔父貴と喧嘩、親父好きッスからねー」
「そーじゃなくて、異性の!女性の好みタイプよ」
ウララちゃんが少し大きな声を出すと、俺知ってまっせ!と、マイクを持ったモヒカンの男の人が話しかけて来た。
「南くん本当?」
ウララちゃんは、南さんって人に近づいて目を輝かせている。
「親父の好みのタイプは… 」
お姫様みたいな人─
「へー!」ウララちゃんは、唇に人差し指を当てて「私、頑張っちゃおーかなー」と、柔らかく少し意地悪な表情をして南さんにお礼を伝えて「吾朗ちゃーん」と甘い声を出して去っていた。
私は今嵐が去ったかのような感覚で、さっきの話を思い出す。
真島さんの好みのタイプは、お姫様みたいな人──
おひめさまみたいなひと
お ひ め さ ま み た い な ひ と
頭の中をその言葉がループする
毒林檎を食べて眠りについたり
糸車の針で指を刺してやっぱり眠りについたり
硝子の靴を片方落としてカボチャの馬車に乗ったり
人魚だったり
読書好きで野獣と恋に落ちたり
魔法の長い髪の毛の持ち主だったり
氷のお城を作れたりできる…
あの、お姫様?──
一通り考えが巡った後に、残った生ビールを飲み干す。
西田さんが何やら困った顔しながら、ウララちゃんの事だか南さんの事だか、真島さんの事を話てくれてるが全然話が入ってこない。
「…すみません、お手洗いに行って来ます」
西田さんに断ってから、荷物を持ってお手洗いへと向かった。