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月末の華金は生憎の雨だった。
それでも飲み会やら合コンはあるようで、周りの同僚たちは勤しんで作業をしている。私は得に予定はないが…やはり早く帰りたい。書類の束をパソコンへと入力していく。
「旭くん、ちょっといいかな?」
全然良くない。と、心の中で返事をし少し遅れてから「はい」と、しぶしぶ課長のデスクへと向かう。
「すまないが、これ」と、渡された分厚いファイルが両手に乗せられる。
「月曜の朝一で先方へ持っていきたいから、まとめておいといてくれる?」
「…残業代つけときますね」
「終わったら俺の机の上に置いておいてねー」
よろしくーっと軽い返事を言われ、自分のデスクへ戻り。ため息つきながら椅子へ座った。
──────────
定時になると、周りの同僚たちも仕事を頼んだ課長もいなくなった。
…早く終わらせて帰ろう。
パソコンとにらめっこは既に飽きていた。
コーヒーを飲み干し。再び作業を進めて終わったのは夜の21時過ぎていた。
課長のデスクの上にまとめた書類を置き、パソコンの電源を消して、戸締りをする。窓から外を見ると雨はまだ降っているようだ。傘を持って会社を出て駅へと向かう。
今日は、何を食べようか…。それとも、お風呂だけ入って寝てしまおうか…。
ぼんやり考えて歩いていると、先日助けてくれた眼帯の男が傘を差さずに前を歩いているのに気が付いた。
あ… あの人…!
気が付くと同時に早足になり、傘を高く上げて眼帯の男へと傘を差し出して声をかけた。
「こ、こんばんは」
眼帯の男は振り返り、片目を少し大きく見開きゆうひを見た。
「こないだの、ねーちゃんか!」
にぃと笑いかけられて。自分の顔が赤くなるのを感じた。
「だ、だいぶ濡れちゃってますよ?風邪ひいちゃいますよ?」
と、カバンからハンカチを出して眼帯の男へと渡そうとした。
「こんくらいの雨なら大丈夫や」
ハンカチ汚れてまうから仕舞いー。と言われたが、引けなかった。
「でも…」
と、手を伸ばし。眼帯の男へハンカチを渡した。
「…そんなら、傘に入れてくれるか?」
「あ…」
眼帯の男はゆうひから傘を奪って、ゆうひを少し引き寄せた。
「ぁ、の」
嫌か?と聞かれて首を横に振る。
「なら、一緒に行こうか」
これは…相合傘という奴なんだろうか…
どうしたものか、自分から傘を差しだしたまでは良かったのに、相合傘と意識をしてしまうと眼帯の男の顔は見れず、下を向いたまま歩いてしまう。
せっかく会えたのに…せめて名前でも聞きたい!と思っていると。男の方から話しかけてくれた。
「傷の具合はどうや?」
「ぁ、お。おかげ様で大丈夫です!」
顔をやっと上げて男を見上げると、じぃーっと顔を除かれた。
にぃっと笑顔で
「顔の傷は大丈夫そうやな。足の方はどや?」
「足はまだ絆創膏してますけど、お風呂入っても染みるなくなりました」
「そうか、まだ足は治ってないやな…」
「ぇ、や。でも、パンツスーツなんで大丈夫ですよ」
「傷が残ったら大変やで」
と、真剣な顔で見られる。
「ぁ…はぃ」
ちゃんとケアします。と小さく返すと。満足そうに笑顔を向けられる。
どうしよう…この笑顔が、凄い好きだ…
「そういや、ねーちゃんの名前聞いて無かったな?」
「…ぁ」
「俺は、真島や。真島吾朗」
「あ、私は、旭ゆうひです!」
名前教えてくれた!自分の名前名乗れた!と、嬉しくて顔の筋肉が緩んだ。
「ゆうひちゃんか。可愛い名前やな」
お世辞なのは十分承知しているが、真島さんに褒められると、どうしても照れてしまう。
「ゆうひちゃん、やっと笑ってくれたわー」
「へ…?あ、すみません」
ええんや。と言われたと同時にまた少し心と体の距離を縮められた気がした。
──────────
駅に着いて、傘を閉じる。初めての相合傘は緊張したもののとても楽しかった。
「おおきにな。助かったわ」
「いえいえ。先日のお礼ができてなくて。心残りだったので」
「…ほんなら、今度飯でも一緒にいこか?」
真島からのお誘いに一瞬フリーズすると、直ぐに嫌か?と聞かれる。
「嫌じゃないです!全然!」
「ヒヒ!そうか、なら連絡先交換しようか」
真島と連絡先を交換し、駅の改札口まで送ってもらった。帰りの電車の中でスマホのディスプレイを眺める。
「真島吾朗」の文字を見て、頬がまた緩んだ。