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彼女を初めて見かけたのは、バッティングセンターだった。
「今日もかっ飛ばすでー!」
バットを肩に乗せ意気揚々と店の中に入り、いつも通りの超上級者コースへ向かおうとすると店の中がいつもと違い賑わっていた。
何かあったのかと店の中を見渡すと1人の女に視線が集まっていた。
女の客は元々少ない上にスーツ姿、超上級者コースのバッターボックスに立っているので抜群に目立っていた。
「おい。女が超上級者コースにいるぞ」
「野球部だった俺らだってなかなか当たるわけないんだ。無理無理」
「まあ、面白そうだから見てみろよ」
真島は野次馬達から少し離れて彼女の様子を見る事にした。スーツの女は深呼吸をし、バットを構えてボールを待つ。1球目は見送り、2球目はバットを動かすものの見送っていた。
「おいおい、バット振らないとボールには当たんねーよ」
「へへ、あまりの速さにビビっちゃったんじゃねーの?1番早いコースだもんなー」
野次馬達が騒ぎ出した3球目にカキッと音がしてバットにボールがかすった音が聞こえた。野次馬は一瞬黙ったが、まぐれまぐれ!お姉ちゃん当たってラッキーだったな!と再び声を荒げている。
彼女は、バットの当てた箇所を確認し口角を上げてボールが飛んでくる方へ顔を向き直す。
4球目が飛んで来るとカッキーンと良い音がし、ホームランが出た。
野次馬達の口は大きく空いたまま、彼女が全てのボールを打ち終えるまで閉じられる事はなかった。
真島は彼女の様子を終始見入っていた。
野球のホームとちゃうな…テニスか?
バット上から下に降って当てている。動体視力と打点の位置調節しながらボールを打っているようだ。
「ヒヒ!やるやないか!オモロいな!」
ボールを撃ち終わってバッターボックスから出て来ると、野次馬達は黙っていたものの注目されていた事が分かったらしく。そそくさと店を出ようとしていた。
「おい、ねーちゃん」真島が声をかけると
「お、お騒がせしました!!」
真島の顔を見ずに走って行ってしまった。
「ヒヒ!やっぱりオモロいなー!また会えそうな気するわ」
彼女を見送り、固まって動かない野次馬達をどかし、彼女の使っていた超上級者コースへと入った。
「オモロいねーちゃんには悪いけど、記録は塗り替えさせてもらうでー!」
バッターボックスに入り、全てのボールをホームランで打ち返し。ご満悦で、店を出た。
バッティングセンターから2ヶ月経った─
真島はあの後もバッティングセンターへ何回か足を運ぶが、なかなか彼女に会えなかった。
また会えそうな気したんやけどなー。と、ぼんやり思いながら神室町を歩いているとスーツの女が段ボールを持って歩いているのを遠目で見かけた。
テニス打ちのねーちゃんやないか!
すぐに駆け寄ろうとすると、彼女に足を引っ掛けて転ばせている男たちに目に入り。足早になる。
男たちの大きい声は嫌でも聞こえて来た。
ワザと転ばしといて言いがかりか…羽虫のやりそうなこっちゃ…
彼女は大丈夫だろうか?泣いていたりしていないだろうか?真島の心配を余所に彼女からは淡々とした受け答えの言葉を聞こえてきた。
「ご心配おかけして申し訳ありません。通行の方に迷惑にならないように気をつけて運びますので、どうか足をどかしてもらえませんか?」
普通の女なら泣きそうな場面だが、後ろ姿でも泣いていたり我慢した様子は見られず。凛としている姿に見入ってしまい、真島の足が止まった。
「そーだよ、最初っからそうゆう態度だったら俺たちだって気分悪くならないよ、なー?」
「へっへっへっへっ!」
「俺らの気分良くなるまで、おねーさんに相手してもらおーか!」
「申し訳ありません。至急会社へ戻らないといけませんので…」
「ああ?!だったら、この落とし前どーしてくれるんだぁ!?」
羽虫の声に、我に返り。彼女の元へと再び足を運んでいく。羽虫たちにも分かるように、ゆっくりと足音を立てて。
「ねぇーちゃん大丈夫か?」
「…ゲッ!」「お、おい!ヤベーッて!!」
男たちの表情がどんどんと青ざめており、少しずつ後退りをしているようだが、どんどん近づいていく。
この紙は、ねーちゃんのか?転んでしもたんか?大丈夫か?質問し、彼女の顔を覗き込むと頬や顎にかすり傷を見つけて羽虫たちへ怒りをぶつける。
「ぁ…ゃ…」
「あ?!なんや?聞こえんで?さっきまで大きな声出して、このねーちゃんに怒鳴ってたやろ?」
男の襟元を黒い手袋で鷲掴み、違うか?と顔を近づけて睨みつける。
襟元を捕まれた男は言葉にならない悲鳴を上げ、後の男たちは「俺ら関係無いんで!!」と、逃げようと背を向けた瞬間に襟元を捕んでいた男を投げ飛ばし逃げた男たちの背中に命中させた。
ドサッと男たちが倒れたのを確認し、カツカツとワザと足音を立てて近づき起きあがろうとしている男たちの目線に合わせてしゃがみ怒りの声を発した。
「俺は嘘が大ッ嫌いなんや」
男たちの悲鳴と謝罪が聞こえたがお構いなしに胸ぐらを掴んだ時に後ろから彼女に声をかけられた。
「ぁ、の…」
「なんや?」
「た、助けて頂きありがとうございます。もう、大丈夫なので…その…」
「大丈夫やないやろ?ねーちゃんの顔傷ついてんで?それに足からも血ぃ出てるし」
「…本当だ」
「せやから、こいつらにも同じように痛い目にあわせんと、な?」
「ひぃぃ!!もうしませんん!!」
「もうしないと言ってるので、その…会社にも戻らないといけないですし」
真島はワザとらしくため息をついた。
「アマアマやな。まあ、ねーちゃんがええなら俺もこれ以上はなーんもせーへんで」と、ニッと笑ってみせた。
「ただし、次似たような事してんの見たら…容赦せーへんで?」と低い声で忠告し、羽虫たちを追い払った。
「助けて頂き、ありがとうございました。」
「ええんや、ちょうど暇やったし。にしても、準備運動にもならんかっなー。」
真島が肩をぐるぐる回していると、彼女がこちらを見て黙っている。怖がらせてなきゃ良いなと、思いながら散らばった書類らしき紙の回収を始めた。
「すみません、後は私一人で大丈夫ですので…」
「二人で回収した方が早いやろ?」
「でも…」
「あ、ほれ。そっちの風で飛ばされてしまうで!」
「…へ?…あ!待ってー!」
書類を追いかけている女の姿を見てフッと笑う。彼女が戻ってくる間に散らばった書類回収を終わらせた。
──────────
「いちよう中身確認してな?」
「ちゃんと全部揃ってます。本当にありがとうございました。」
「かまへんで」
彼女が段ボールを抱えようとしていたので段ボールを片手で持ち上げた。
送って行くと申し出たが断られたが、女の子やから!と、説得するとなんとも言えない困った表情をしていたが押しきると渋々了承してくれた。
「あの、本当にありがとうございました」
「もうお礼の言葉はぎょうさん聞いたからええで!それより何でねーちゃん1人でこないに重い荷物運んでるんや?」
「男性スタッフが今出払ってしまっていて、一番丈夫そうな私が任命されました」
「そら大変やったなー」
「……」
返答に困っている様子を見て。迷惑だったか?と尋ねると、そんな事はない!と、だが彼女の困った表情は変わらない。
「怖いか?」
「え…?」
「そりゃ、そうやなぁ。怖い思いさせて悪かったなー。ああゆうやり方しか俺知らんから、おねーちゃん怖がってんの気ぃつかんくて堪忍な」
「へ?!あ、いえ、確かに怖いとは思いましたけど…私を助ける為の行動だと分かっていたので、大丈夫です。その…」
「そうか」
怖がられてはいない。嘘はついてなさそうだ。
真島は笑顔で返すと彼女の言葉を待った。
返って来た言葉は、女性扱いされた事が今まで無いからどうしたら良いか困っていると…。
確かに、バッティングセンターで見た彼女の姿やこの重い段ボールを1人で抱えて運んでいた事は普通の女なら容易にできないはず。だが、彼女の容姿や姿勢は凛とした美しさがあると初めて見かけた時から感じていた。
今まで彼女の周りにはそれに気が付いていない男たちが多かったのだろう。そんな事を考えたら一瞬ほうけた表情をしてしまったようだ。
「す、すみません!本当いつもこういう力仕事任されるし…たくましいって誉められちゃうし、お兄さんにご迷惑おかけした上に気を使わせてしまって、本当に申し訳ありません!あの、もう会社見えてきたのでここで大丈夫です!」
真島から、段ボールを受け取ろうとしていたが、段ボールを触れないように高く持ち上げた。
「これは重いからアカン」
「でも…」
「ねーちゃんが男慣れしてへんのは分かった。次にこういう状況になったら、笑顔でお礼言ってくれれば男はいちころやで」
「…へ?」
「ねーちゃんの笑った顔が見たいなー、俺」
「あの…」
「ねーちゃんは、困った顔が得意なんやなー?」
困った表情はまだ拭えてないが、笑顔で「ありがとうございます」と返してもらった。
ええ顔やな。と、ニッと笑うと彼女の顔が赤くなるのを見て満足する自分に気がついた。
彼女の職場前に到着し段ボールを優しくと渡した。
「重いから気ぃつけや。ちゃんと傷治療するんやで!跡残ったら大変やからな」と、彼女の頭にポンと手を置き「ほなな」と言ってその場を後にした。
またな。とは言わなかったが。また会える気はしていた。
「今度会うたら、名前聞かんとな」ヒヒっと満足そうに笑い再び神室町を闊歩した。