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眠れない夜。

「大君、大君は私のどこがすき?」
「お前をすきでいることに理由がいるのか?」
「だって気になるんだもん」
季節は冬。寒さが身に染みる。明美は赤のチェック柄マフラーを巻いてベージュのコートを着込んでいる。妹がプレゼントでくれたと語っていた薄ピンクのヒールをコツコツ鳴らせながら俺の横をついてくる。
クリスマスも近いせいか街は人で溢れかえっていた。どこもかしこもカップルばかり。鬱陶しい。といいたいところだが俺にも明美がいる。人のことをいえたもんじゃない。
「あっ、大君いま私のこと考えたでしょ」
「なぜそう思った?」
「大君ポーカーフェイスだけど私のことを考えてる時は私のいないほうを見るくせがあるのよ。私がいないどこか遠くのほう」
「お前に俺の考えを読み取れるようになるとはな」
「バカにしないでよ〜!」
頬を膨らませてムスッと不機嫌そうにいう。しかし、その顔もすぐに戻り「あ、大君!クリスマスツリー!」とイルミネーションのクリスマスツリーを指さす。周囲にはイルミネーションを楽しむ人だかり。
ふと、馬鹿なことを考えてしまう。
俺はあんな平和な暮らしを送る人々と共にいていいのだろうか。組織のため、と罪のない人間をこの左手で何人殺してきただろうか。他人からいわせれば俺はただの“殺人鬼”に過ぎない。
(なにを馬鹿なことを…。その程度のことわかっていながらFBIになったのだろう。すべては家族のためにと)
いつもそう言い聞かせてきた。大したことはない。
「大君…?どうしたの?」
「…いや、なんでもない」
「また任務のこと?そんなに考えて込まなくても大丈夫だよ。大君は組織の中でもすごいスナイパーなんだから!」
「公の場で物騒なことをいうな」
俺は荒く明美の頭をくしゃっと撫でた。
「わゎっ!」と声をあげ頭を抑える。
「とりあえず、クリスマスツリーを見に行くんだろ」
「う、うん!」
明美はドジなところがある。なにもないところでつまづく。うっかり料理に使う調味料を入れ間違える。だから組織内でもコードネームを貰えないのだろう。
「大君、あのね」
「なんだ」
「私、大君の役に立ってるのかなって思うの」
「突然どうしたんだ」
「大君は一人でもなんでも出来るしうっかりしてるなにも出来ない私とは違うから。必要なかったらいってね」
なにをいいたいのかさっぱりわからない。明美はなにがいいたいんだ。突然なにをいい出す。明美の行動はいつも手に負えない。
「おい、明美。なにを…」
つぎの瞬間。コートのポケットに隠し持っていた。小型ナイフを取り出した。

自害する気だ。

あの光景が蘇る。ビルの屋上。壁にもたれて自分の左胸に銃口を向ける男。リボルバーを握りしめる。背後から足音が聞こえる。リボルバーから手を離した瞬間。

パァン。

銃声が鳴った。生ぬるいものが顔をつく。
赤くべっとりした生ぬるい液体。男の血液が飛び散った。

「明美!」

「さようなら、大君」

安らかに眠るような顔をして小型ナイフを首元にあて、手前へと勢いよく引いた。
視界が揺れる。脳が揺れているようだった。
目の奥がじんじん痛む。開いた口が閉まらない。言葉が出ない。また、また、

大切な人を殺してしまった。
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