黒子のバスケ
次の日はあいにくの雨。
気分ダダ下がりの中、机にうなだれていると上から声が掛かる。
「七世さん」
「んー?」
目線だけを上に向けると見慣れた奴の姿が。
「こんにちわ」
「・・・どーも」
そこにいたのは黒子だった。
雨の憂鬱さから、いつも以上に怠い表情を向けると案の定、指摘された。
「いつにも増して怠そうですね」
「雨だからねー。で、なんか用?」
「はい。実はお願いがあってきました」
「お願い?」
「バスケ部のマネージャー、やってくれませんか?」
体勢を変えず話を聞こうとしたが、予想だにしない単語が出てきて思わず体を起こしてしまう。
「・・・・」
「お願いします」
「(何を言い出すかと思えば・・・)なんで?」
「先輩達がマネージャーが欲しいと言っていたので」
「2年生で女の人いなかった?マネージャーじゃないの?」
「あの人はカントクです」
「まじか・・・」
状況と反して感心してしまった。部活勧誘の時に見かけた女生徒はカントクなのかと。
「だめですか?」
「マネージャーやる気はない。他あたりな」
「まだバスケが嫌いですか?」
「・・・部活自体入るつもりないの」
クロの言葉に一瞬、動きが止まるも言葉を紡いだ。
「そうですか。なら、また来ます」
彼はそれだけ言って、自分のクラスへ戻ってしまった。
「・・・は?」
―一切嚙み合ってないし、話聞いてた?アイツ?
また来ます、否定も肯定もできない自分の真意を見透かされているようだった。
***
―黒子side
仮入部の次の日、七世さんのいるクラスへと赴く。今日は生憎の雨。きっと彼女は机に項垂れているに違いない。
・・・ほら、やっぱり。
席へと向かい、声を掛けた。
「七世さん」
「んー?」
目線だけをこっちに向けた表情は怠そうだった。相変わらずだ。
「こんにちわ」
「・・・どーも」
「いつにも増して怠そうですね」
「雨だからねー。で、なんか用?」
「はい。実はお願いがあってきました」
「お願い?」
「バスケ部のマネージャー、やってくれませんか?」
体勢を変えない彼女に話を持ち掛けると、予想外だったのか体を起こした。
「・・・・」
無言を貫く気の彼女にもう一押しと言葉を紡ぐ。
「お願いします」
「(何を言い出すかと思えば・・・)なんで?」
「先輩達がマネージャーが欲しいと言っていたので」
「2年生で女の人いなかった?マネージャーじゃないの?」
どこかで見たのだろう、女子の先輩がいることを知っていた。
「あの人はカントクです」
「まじか・・・」
「だめですか?」
イマイチちゃんとした答えが返ってこない。YESかNOか質問を変えて聞いた。
「マネージャーやる気はない。他あたりな」
けれど返ってきた答えは即答でNOだった。なんとなく分かってはいた。やっぱり未だに・・・。
「まだバスケが嫌いですか?」
「・・・部活自体入るつもりないの」
それなりの理由をつけてきたけど、僕の言葉に一瞬、動きが止まったのを見逃さなかった。
やっぱりまだ・・・そういうことなんだろう。だから名もないこの高校に来た、僕とは違う理由で。彼等から離れるかのように。
―だったら、今度は僕の番だ。
「そうですか。なら、また来ます」
それだけ言い残して、僕は自分のクラスへ戻った。
きっと今頃、話が嚙み合っていないことにイライラしている。彼女はそういう人だ。
これからは七世さんとの勧誘のバトルが始まるのだと意気込んだ。
***
放課後まで雨は止まず、いつもの練習メニューに入っているロードを削ってしまったため、練習時間が大幅に余ってしまった。
リコと日向で話し合い、1年生の実力を見ようと1年対2年のミニゲームをやることになった。
去年、1年だけで決勝リーグに行った2年生を相手に、緊張の面持ちの1年生だが火神だけは違った。
「ビビるとこじゃねー。相手は弱いより強い方がいいに決まってんだろ!」
1年生が彼の言葉に勇気を貰い、ミニゲームが始まる。
試合開始のジャンプボールでは、火神の長身と跳躍力により1年ボール。そして、あっという間に火神がダンクシュートを決めた。
「うわぁ、マジか今のダンク」
「スゲェ!!!」
彼の気迫に誰もが言葉を失った。
「・・・(想像以上だわ・・・!!あんな粗削りなセンス任せのプレイでこの破壊力・・・!!)」
「とんでもねーなオイ・・・(即戦力どこらかマジで化け物だ・・・!!)」
試合は着々と進んで行くが、ほとんど火神1人の得点。だが、その状況に反して彼のストレスは溜まっていた。
「スティール!?またアイツだ!」
「しっかりしろー!!」
その原因は、パスがいつも黒子で取られてしまうところにあった。
「(意味深なこと喋ってた割にクソの役にも立ちゃしねぇ・・・ザコのくせに口だけ達者っつーのが・・・)一番イラつくんだよ!!」
火神は溜まったストレスをぶつけるように再びダンクを噛ました。
「もう火神止まんねー!!」
「・・・わけにはいかねーなー」
「そろそろ大人しくしてもらおうか!」
1年チームが押している中、2年生にスイッチが入る。
「火神に3人も!?」
火神がボールを持った瞬間、3人が一斉に彼のマークにつく。さらにボールを持っていない状態でも2人がマークしていた。
火神の動きを封じたことにより2年生の反撃が開始する。一時は勝っていた点数も徐々に追い抜かれ、ついにはダブルスコアとなっていた。圧倒的な2年生の強さに1年生の戦意は喪失気味。
「やっぱり強い・・・」
「てゆーか勝てるわけなかったし・・・」
「もういいよ・・・」
何気ない一言がカンに触ったのか、その1年生の胸倉を火神が思い切り掴み上げた。
「・・・もういいって・・・なんだそれオイ!!」
「落ち着いてください」
そんな彼を止めたのは、黒子の膝カックンだった。コート内でモメる火神と黒子。
「なんかモメてんぞ」
その様子に2年生は呆れ気味。
「黒子か・・・そーいやいたな~」
「(審判の私も途中から忘れてた・・・。んん!?あれ?マジでいつからだっけ!?・・・まさか)」
リコはホイッスルを銜えながら、黒子の存在感にいつから意識を反らしていたのか動揺し始める。
「すいません。適当にパスもらえませんか」
「は?」
試合が再開され残り3分となったところで、黒子はチームの子にボソッとパスを出すよう要求する。
そして後半戦―
その一言から奇怪な事が起こり始めた。
開始早々に、パスされたボールの向きが変わり、1年生チームのシュートがあっさり決まったのだ。
「・・・え」
「・・・なっ、入っ・・・ええ!?今どーやってパス通った!?」
「わかんねえ見逃した!!」
何が起こったのか分からず、みんな戸惑う。
そしてその奇怪な事は、1回で止まることはなくー
「どーなってんだ一体!!?」
「気が付くとパス通って決まってる!?」
この現象にリコは黒子の様子をじっと眺める。そして彼が一体何をしているのか理解した。
―存在感のなさを利用してパスの中継役に!?しかもボールに触ってる時間が極端に短い!!・・・じゃ、彼はまさか・・・元のカゲの薄さを・・・もっと薄めたってとこ~!?・・・ミスディレクション・・・人の意識の誘導・・・。ミスディレクションによって自分ではなく、ボールや他のプレイヤーなどに相手の意識を誘導する・・・―つまり彼は試合中【カゲが薄い】というよりも、もっと正確に表現すると・・・自分以外を見るように仕向けている・・・。
「(元帝光中のレギュラーでパス回しに特化した見えない選手・・・!!噂は知ってたけど実在するなんて・・・!!【キセキの世代】幻の6人目!!)」
その事実にリコの開いた口は塞がらなかった。
見えないパスは勢いを増し、1年生チームのシュートが次々得点となっていく。いつしか1点差までにこぎ着けていた。
そして、この局面で黒子の手にボールが渡る。
ドライブでゴールまで一直線、そのままシュートし誰もが入ると確信した・・・が、ボールはリングに当たりゴールから外れる。
ここで外すかと呆然とする中、そのリバウンドを火神がダンクでしっかりとゴールに押し入れた。
「・・・だから弱ぇ奴はムカつくんだよ。ちゃんと決めろタコ!!!」
ミニゲームは1年生の白星で幕を閉じた。
味方となれば頼もしい限りということのようだ。
下校時刻を知らせるチャイムが鳴り、リコから合図が出される。
「みんなサクッと片付けてー」
1年生らが片付けを始めると、日向が黒子のもとへ行く。
「黒子、マネージャーの件、どうだ?引き受けてくれそうか?」
「それが断られました」
「・・・やっぱり」
予想通りの答えに日向だけではなく、近くにいたコガもため息を零す。
「まぁ仕方ないか。また来年に・・・」
「もうちょっと待ってくれませんか?きっとやってくれると思うのので・・・」
「きっとって・・・何を根拠に」
「なんとなくです」
根拠のない自信を持つ黒子を不思議に感じながら、そんなんで本当に大丈夫なのだろうかという不安と、何故そこまでしてその子にこだわるのか疑問を抱きながら、顔を見合わせる日向とコガだった。
気分ダダ下がりの中、机にうなだれていると上から声が掛かる。
「七世さん」
「んー?」
目線だけを上に向けると見慣れた奴の姿が。
「こんにちわ」
「・・・どーも」
そこにいたのは黒子だった。
雨の憂鬱さから、いつも以上に怠い表情を向けると案の定、指摘された。
「いつにも増して怠そうですね」
「雨だからねー。で、なんか用?」
「はい。実はお願いがあってきました」
「お願い?」
「バスケ部のマネージャー、やってくれませんか?」
体勢を変えず話を聞こうとしたが、予想だにしない単語が出てきて思わず体を起こしてしまう。
「・・・・」
「お願いします」
「(何を言い出すかと思えば・・・)なんで?」
「先輩達がマネージャーが欲しいと言っていたので」
「2年生で女の人いなかった?マネージャーじゃないの?」
「あの人はカントクです」
「まじか・・・」
状況と反して感心してしまった。部活勧誘の時に見かけた女生徒はカントクなのかと。
「だめですか?」
「マネージャーやる気はない。他あたりな」
「まだバスケが嫌いですか?」
「・・・部活自体入るつもりないの」
クロの言葉に一瞬、動きが止まるも言葉を紡いだ。
「そうですか。なら、また来ます」
彼はそれだけ言って、自分のクラスへ戻ってしまった。
「・・・は?」
―一切嚙み合ってないし、話聞いてた?アイツ?
また来ます、否定も肯定もできない自分の真意を見透かされているようだった。
***
―黒子side
仮入部の次の日、七世さんのいるクラスへと赴く。今日は生憎の雨。きっと彼女は机に項垂れているに違いない。
・・・ほら、やっぱり。
席へと向かい、声を掛けた。
「七世さん」
「んー?」
目線だけをこっちに向けた表情は怠そうだった。相変わらずだ。
「こんにちわ」
「・・・どーも」
「いつにも増して怠そうですね」
「雨だからねー。で、なんか用?」
「はい。実はお願いがあってきました」
「お願い?」
「バスケ部のマネージャー、やってくれませんか?」
体勢を変えない彼女に話を持ち掛けると、予想外だったのか体を起こした。
「・・・・」
無言を貫く気の彼女にもう一押しと言葉を紡ぐ。
「お願いします」
「(何を言い出すかと思えば・・・)なんで?」
「先輩達がマネージャーが欲しいと言っていたので」
「2年生で女の人いなかった?マネージャーじゃないの?」
どこかで見たのだろう、女子の先輩がいることを知っていた。
「あの人はカントクです」
「まじか・・・」
「だめですか?」
イマイチちゃんとした答えが返ってこない。YESかNOか質問を変えて聞いた。
「マネージャーやる気はない。他あたりな」
けれど返ってきた答えは即答でNOだった。なんとなく分かってはいた。やっぱり未だに・・・。
「まだバスケが嫌いですか?」
「・・・部活自体入るつもりないの」
それなりの理由をつけてきたけど、僕の言葉に一瞬、動きが止まったのを見逃さなかった。
やっぱりまだ・・・そういうことなんだろう。だから名もないこの高校に来た、僕とは違う理由で。彼等から離れるかのように。
―だったら、今度は僕の番だ。
「そうですか。なら、また来ます」
それだけ言い残して、僕は自分のクラスへ戻った。
きっと今頃、話が嚙み合っていないことにイライラしている。彼女はそういう人だ。
これからは七世さんとの勧誘のバトルが始まるのだと意気込んだ。
***
放課後まで雨は止まず、いつもの練習メニューに入っているロードを削ってしまったため、練習時間が大幅に余ってしまった。
リコと日向で話し合い、1年生の実力を見ようと1年対2年のミニゲームをやることになった。
去年、1年だけで決勝リーグに行った2年生を相手に、緊張の面持ちの1年生だが火神だけは違った。
「ビビるとこじゃねー。相手は弱いより強い方がいいに決まってんだろ!」
1年生が彼の言葉に勇気を貰い、ミニゲームが始まる。
試合開始のジャンプボールでは、火神の長身と跳躍力により1年ボール。そして、あっという間に火神がダンクシュートを決めた。
「うわぁ、マジか今のダンク」
「スゲェ!!!」
彼の気迫に誰もが言葉を失った。
「・・・(想像以上だわ・・・!!あんな粗削りなセンス任せのプレイでこの破壊力・・・!!)」
「とんでもねーなオイ・・・(即戦力どこらかマジで化け物だ・・・!!)」
試合は着々と進んで行くが、ほとんど火神1人の得点。だが、その状況に反して彼のストレスは溜まっていた。
「スティール!?またアイツだ!」
「しっかりしろー!!」
その原因は、パスがいつも黒子で取られてしまうところにあった。
「(意味深なこと喋ってた割にクソの役にも立ちゃしねぇ・・・ザコのくせに口だけ達者っつーのが・・・)一番イラつくんだよ!!」
火神は溜まったストレスをぶつけるように再びダンクを噛ました。
「もう火神止まんねー!!」
「・・・わけにはいかねーなー」
「そろそろ大人しくしてもらおうか!」
1年チームが押している中、2年生にスイッチが入る。
「火神に3人も!?」
火神がボールを持った瞬間、3人が一斉に彼のマークにつく。さらにボールを持っていない状態でも2人がマークしていた。
火神の動きを封じたことにより2年生の反撃が開始する。一時は勝っていた点数も徐々に追い抜かれ、ついにはダブルスコアとなっていた。圧倒的な2年生の強さに1年生の戦意は喪失気味。
「やっぱり強い・・・」
「てゆーか勝てるわけなかったし・・・」
「もういいよ・・・」
何気ない一言がカンに触ったのか、その1年生の胸倉を火神が思い切り掴み上げた。
「・・・もういいって・・・なんだそれオイ!!」
「落ち着いてください」
そんな彼を止めたのは、黒子の膝カックンだった。コート内でモメる火神と黒子。
「なんかモメてんぞ」
その様子に2年生は呆れ気味。
「黒子か・・・そーいやいたな~」
「(審判の私も途中から忘れてた・・・。んん!?あれ?マジでいつからだっけ!?・・・まさか)」
リコはホイッスルを銜えながら、黒子の存在感にいつから意識を反らしていたのか動揺し始める。
「すいません。適当にパスもらえませんか」
「は?」
試合が再開され残り3分となったところで、黒子はチームの子にボソッとパスを出すよう要求する。
そして後半戦―
その一言から奇怪な事が起こり始めた。
開始早々に、パスされたボールの向きが変わり、1年生チームのシュートがあっさり決まったのだ。
「・・・え」
「・・・なっ、入っ・・・ええ!?今どーやってパス通った!?」
「わかんねえ見逃した!!」
何が起こったのか分からず、みんな戸惑う。
そしてその奇怪な事は、1回で止まることはなくー
「どーなってんだ一体!!?」
「気が付くとパス通って決まってる!?」
この現象にリコは黒子の様子をじっと眺める。そして彼が一体何をしているのか理解した。
―存在感のなさを利用してパスの中継役に!?しかもボールに触ってる時間が極端に短い!!・・・じゃ、彼はまさか・・・元のカゲの薄さを・・・もっと薄めたってとこ~!?・・・ミスディレクション・・・人の意識の誘導・・・。ミスディレクションによって自分ではなく、ボールや他のプレイヤーなどに相手の意識を誘導する・・・―つまり彼は試合中【カゲが薄い】というよりも、もっと正確に表現すると・・・自分以外を見るように仕向けている・・・。
「(元帝光中のレギュラーでパス回しに特化した見えない選手・・・!!噂は知ってたけど実在するなんて・・・!!【キセキの世代】幻の6人目!!)」
その事実にリコの開いた口は塞がらなかった。
見えないパスは勢いを増し、1年生チームのシュートが次々得点となっていく。いつしか1点差までにこぎ着けていた。
そして、この局面で黒子の手にボールが渡る。
ドライブでゴールまで一直線、そのままシュートし誰もが入ると確信した・・・が、ボールはリングに当たりゴールから外れる。
ここで外すかと呆然とする中、そのリバウンドを火神がダンクでしっかりとゴールに押し入れた。
「・・・だから弱ぇ奴はムカつくんだよ。ちゃんと決めろタコ!!!」
ミニゲームは1年生の白星で幕を閉じた。
味方となれば頼もしい限りということのようだ。
下校時刻を知らせるチャイムが鳴り、リコから合図が出される。
「みんなサクッと片付けてー」
1年生らが片付けを始めると、日向が黒子のもとへ行く。
「黒子、マネージャーの件、どうだ?引き受けてくれそうか?」
「それが断られました」
「・・・やっぱり」
予想通りの答えに日向だけではなく、近くにいたコガもため息を零す。
「まぁ仕方ないか。また来年に・・・」
「もうちょっと待ってくれませんか?きっとやってくれると思うのので・・・」
「きっとって・・・何を根拠に」
「なんとなくです」
根拠のない自信を持つ黒子を不思議に感じながら、そんなんで本当に大丈夫なのだろうかという不安と、何故そこまでしてその子にこだわるのか疑問を抱きながら、顔を見合わせる日向とコガだった。
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