1話
帝光中学校バスケットボール部。
部員数は100を越え、 全中3連覇を誇る超強豪校。
その輝かしい歴史の中でも特に【 最強】 と呼ばれ無敗を誇った10人に一人の天才が、5人同時にいた世代は【キセキの世代】と言われている。が、【キセキの世代】には奇妙な噂があった。誰も知らない。試合記録もない。にも関わらず、天才5人が一目置いていた選手がもう一人。幻の6人目がいたと―
***
― 春
今日は誠凛高校の入学式。
いつもは静かな敷地内も、今日は部活勧誘のため、正門からずらりとそれぞれのブースが並んでいた。
さらには各部活が新入生勧誘のため、5メートル進むのに10分はかかりそうなほどの人だかりができていた。誠凛高校は2年生が1期生の新設校。つまり今日入学したあたし達が初の後輩となる。
そして、その人だかりの波に乗るように、あたしは大きな欠伸を1つしながら登校していた。
さほど歩くと、男子バスケ部のブースが目に入る。そこには男子生徒1人、女子生徒1人が座っている。マネージャーと部員だろうか?
歩きながら横目で2人を見遣ると、男子生徒が机に突っ伏し叫びだした。
「こえ~!!あれで高1!?」
「てゆーか首根っこ掴まれて帰ってきた理由が知りたいわ・・・」
彼に呆れた様子の女子生徒。2人目線の先には、190cmはあるだろう赤い髪をした長身の男子生徒が。バスケ部か?しかもあれで同級生とは。
でかいなぁ、なんて気怠い表情を浮かべ呑気なことを考えながら、バスケ部の前を通り過ぎて行った。
「1枚入部届集め忘れてるっㇲよ」
「え?」
「黒子・・・テツヤ・・・帝光・・・バスケ部出身!?」
「えぇ!?あの有名な!?」
「しかも今年1年ってことは”キセキの世代”の!?」
「うわーなんでそんな金の卵の顔忘れたんだ私!!」
「さっきの奴はアメリカ帰りだし・・・今年の1年やばい!?」
***
今日は1年生を交えての初めての部活。
「よーし、全員揃ったな?1年はそっちな」
「なぁ、あのマネージャー可愛くねー?」
「2年だろ?けど確かに!もうちょい色気があれば・・・」
「だアホー、違うよ」
「ぁいて!」
並ぶ1年生のこそこそ話に主将の日向順平がど突くと、マネージャーかと思われる女子生徒が口を開いた。
「男子バスケ部カントク、相田リコです」
「えぇ~!?」
よろしく!と仁王立ちする彼女。監督という言葉に1年生は皆、驚きを隠せなかった。
自己紹介を済ませたリコの口から、とんでもない言葉が放たれる。
「じゃあまずは・・・シャツを脱げ!!」
「「「えええ~!?」」」
困惑する1年生は、躊躇いながらもその場の雰囲気に圧され次々にシャツを脱ぎ始める。全員が脱ぎ終わると、言い出しっぺのリコはマジマジとその体を眺め始めた。
一体何の意味があるのか、全く分からない1年生たちは互いに顔を見合わせる。その様子を見兼ねた日向が彼らに説明をする。
「彼女、体を見れば身体能力が全部数値で見えるんだ」
その言葉通り、彼女の口からは的確な指摘が発せられていた。1年生らは更に驚きで目を丸くする。
そして例のアメリカ帰りの火神大我の前で立ち止まると彼女の口が止まった。
「なんだよ?さみーんだけど」
「(なにこれ!?すべての数値がズバ抜けてる・・・こんなの高1男子の数値じゃない!!しかも伸びしろが視えないなんて・・・これは・・・・天賦の才能!!)」
「カントク!いつまでボーっとしてんだよ!」
「ごめんっっ、で、えっと・・・」
ぼんやりと彼を見つめていたリコは、日向の言葉にハッとし涎を拭く。
「全員視たっしょ。火神でラスト」
「あっそう?・・・れ?・・・黒子くんてこの中いる?」
「あ!そうだ、帝光中の・・・」
「え!?帝光ってあの帝光!?」
体育館が驚きで包まれる中、当人の姿が見えない。
「黒子!黒子いるー!?」
「(あれー?あんな強豪にいたんなら視りゃすぐ分かると思ったんだけど・・・)今日は休みみたいね。いーよじゃあ、練習始めるよう!」
反応が無く誰もが休みだと思った瞬間―
「あの・・・スミマセン。黒子はボクです」
「・・・きゃぁぁあ!?」
練習を始めようとした彼女の前に、突然男の子が現れた。
「うわぁ何?・・・うおっっ!?ダレ?」
「いつからいたの!?」
「最初からいました」
「ウソォ!!?」
リコが驚いたことで周りも彼の存在に気付く。
「(目の前にいて気づかなかった・・・!?・・・え!?今、黒子って言った!?ええ!?てゆーかカゲ薄っすっっ!!)」
彼女が驚きで言葉を詰まらせていると部員の1人が口を開いた。
「・・・え?じゃあつまりコイツが!?キセキの世代の!?」
「まさかレギュラーじゃ・・・」
「それはねーだろ。ねぇ黒子くん」
日向の問い掛けに誰もが同意見だったようで、周りはうんうんと頷く。
「・・・?試合には出てましたけど・・・」
「だよなー・・・うん?」
「え?・・・え!?」
「「「ええええー!?」」」
思ってもみなかった回答に、体育館に叫び声が響き渡る。
―信じらんねぇー!!!
「ちょっ・・・シャツ脱いで!!」
「え?着ちゃった・・・」
すでにシャツを着てしまった黒子にリコは、また脱ぐよう指示する。火神の時とは違う意味で絶句した。
それは彼の能力値が低すぎるほど低かったのだ。
全てにおいて平均値以下、本当に帝光中のレギュラーだったのかさえ疑われるほどに。
一通り数値を見た後、2年のコガこと小金井慎二が口を開いた。
「でもさぁ、今年はマネージャー欲しかったよなぁ」
「ん?・・・あぁ、まぁそりゃそうだな」
彼の言葉に返したのは副主将である伊月だ。
「できれば可愛い子!!」
「なーに言ってんのよ。出来てまだ2年。大して有名でもないのにマネージャーが集まるわけないでしょ」
「うっ・・・確かに・・・」
もっともなリコの言葉にコガは悩ましい表情をする。すると、その会話にあの彼が入ってきた。
「あの・・・」
「え!?・・・なっなに?」
「マネージャーなら、思い当たる人がいるんですが・・・」
「え?そうなの?可愛い子?どんな子どんな子!?」
「てか、思い当たるって同じ中学か?」
その話にそれぞれ違うところに食いついたコガと日向は、黒子に質問攻めする。
「えっと、可愛いというより綺麗な人です。中学ではバスケ部のマネージャーでした」
「「まじ!?」」
日向とコガは同時に食いつく。
「ただいつも怠そうな顔してます」
「えっ!?なにそれっ!!」
しかし黒子の二言目にコガは少し眉を潜めた。
「頼んでみましょうか?」
「怠そうなのに、やってくれるの?」
「・・・多分」
―なんかあんまり期待できないんだけど!!
今の会話から誰もが、マネージャーを引き受けてくれる子ではない気がした。
「まぁ・・・一応。よろしく頼むよ」
とりあえず声だけは掛けてみてくれと、頭をガシガシ搔きながら日向はお願いした。
部員数は100を越え、 全中3連覇を誇る超強豪校。
その輝かしい歴史の中でも特に【 最強】 と呼ばれ無敗を誇った10人に一人の天才が、5人同時にいた世代は【キセキの世代】と言われている。が、【キセキの世代】には奇妙な噂があった。誰も知らない。試合記録もない。にも関わらず、天才5人が一目置いていた選手がもう一人。幻の6人目がいたと―
***
― 春
今日は誠凛高校の入学式。
いつもは静かな敷地内も、今日は部活勧誘のため、正門からずらりとそれぞれのブースが並んでいた。
さらには各部活が新入生勧誘のため、5メートル進むのに10分はかかりそうなほどの人だかりができていた。誠凛高校は2年生が1期生の新設校。つまり今日入学したあたし達が初の後輩となる。
そして、その人だかりの波に乗るように、あたしは大きな欠伸を1つしながら登校していた。
さほど歩くと、男子バスケ部のブースが目に入る。そこには男子生徒1人、女子生徒1人が座っている。マネージャーと部員だろうか?
歩きながら横目で2人を見遣ると、男子生徒が机に突っ伏し叫びだした。
「こえ~!!あれで高1!?」
「てゆーか首根っこ掴まれて帰ってきた理由が知りたいわ・・・」
彼に呆れた様子の女子生徒。2人目線の先には、190cmはあるだろう赤い髪をした長身の男子生徒が。バスケ部か?しかもあれで同級生とは。
でかいなぁ、なんて気怠い表情を浮かべ呑気なことを考えながら、バスケ部の前を通り過ぎて行った。
「1枚入部届集め忘れてるっㇲよ」
「え?」
「黒子・・・テツヤ・・・帝光・・・バスケ部出身!?」
「えぇ!?あの有名な!?」
「しかも今年1年ってことは”キセキの世代”の!?」
「うわーなんでそんな金の卵の顔忘れたんだ私!!」
「さっきの奴はアメリカ帰りだし・・・今年の1年やばい!?」
***
今日は1年生を交えての初めての部活。
「よーし、全員揃ったな?1年はそっちな」
「なぁ、あのマネージャー可愛くねー?」
「2年だろ?けど確かに!もうちょい色気があれば・・・」
「だアホー、違うよ」
「ぁいて!」
並ぶ1年生のこそこそ話に主将の日向順平がど突くと、マネージャーかと思われる女子生徒が口を開いた。
「男子バスケ部カントク、相田リコです」
「えぇ~!?」
よろしく!と仁王立ちする彼女。監督という言葉に1年生は皆、驚きを隠せなかった。
自己紹介を済ませたリコの口から、とんでもない言葉が放たれる。
「じゃあまずは・・・シャツを脱げ!!」
「「「えええ~!?」」」
困惑する1年生は、躊躇いながらもその場の雰囲気に圧され次々にシャツを脱ぎ始める。全員が脱ぎ終わると、言い出しっぺのリコはマジマジとその体を眺め始めた。
一体何の意味があるのか、全く分からない1年生たちは互いに顔を見合わせる。その様子を見兼ねた日向が彼らに説明をする。
「彼女、体を見れば身体能力が全部数値で見えるんだ」
その言葉通り、彼女の口からは的確な指摘が発せられていた。1年生らは更に驚きで目を丸くする。
そして例のアメリカ帰りの火神大我の前で立ち止まると彼女の口が止まった。
「なんだよ?さみーんだけど」
「(なにこれ!?すべての数値がズバ抜けてる・・・こんなの高1男子の数値じゃない!!しかも伸びしろが視えないなんて・・・これは・・・・天賦の才能!!)」
「カントク!いつまでボーっとしてんだよ!」
「ごめんっっ、で、えっと・・・」
ぼんやりと彼を見つめていたリコは、日向の言葉にハッとし涎を拭く。
「全員視たっしょ。火神でラスト」
「あっそう?・・・れ?・・・黒子くんてこの中いる?」
「あ!そうだ、帝光中の・・・」
「え!?帝光ってあの帝光!?」
体育館が驚きで包まれる中、当人の姿が見えない。
「黒子!黒子いるー!?」
「(あれー?あんな強豪にいたんなら視りゃすぐ分かると思ったんだけど・・・)今日は休みみたいね。いーよじゃあ、練習始めるよう!」
反応が無く誰もが休みだと思った瞬間―
「あの・・・スミマセン。黒子はボクです」
「・・・きゃぁぁあ!?」
練習を始めようとした彼女の前に、突然男の子が現れた。
「うわぁ何?・・・うおっっ!?ダレ?」
「いつからいたの!?」
「最初からいました」
「ウソォ!!?」
リコが驚いたことで周りも彼の存在に気付く。
「(目の前にいて気づかなかった・・・!?・・・え!?今、黒子って言った!?ええ!?てゆーかカゲ薄っすっっ!!)」
彼女が驚きで言葉を詰まらせていると部員の1人が口を開いた。
「・・・え?じゃあつまりコイツが!?キセキの世代の!?」
「まさかレギュラーじゃ・・・」
「それはねーだろ。ねぇ黒子くん」
日向の問い掛けに誰もが同意見だったようで、周りはうんうんと頷く。
「・・・?試合には出てましたけど・・・」
「だよなー・・・うん?」
「え?・・・え!?」
「「「ええええー!?」」」
思ってもみなかった回答に、体育館に叫び声が響き渡る。
―信じらんねぇー!!!
「ちょっ・・・シャツ脱いで!!」
「え?着ちゃった・・・」
すでにシャツを着てしまった黒子にリコは、また脱ぐよう指示する。火神の時とは違う意味で絶句した。
それは彼の能力値が低すぎるほど低かったのだ。
全てにおいて平均値以下、本当に帝光中のレギュラーだったのかさえ疑われるほどに。
一通り数値を見た後、2年のコガこと小金井慎二が口を開いた。
「でもさぁ、今年はマネージャー欲しかったよなぁ」
「ん?・・・あぁ、まぁそりゃそうだな」
彼の言葉に返したのは副主将である伊月だ。
「できれば可愛い子!!」
「なーに言ってんのよ。出来てまだ2年。大して有名でもないのにマネージャーが集まるわけないでしょ」
「うっ・・・確かに・・・」
もっともなリコの言葉にコガは悩ましい表情をする。すると、その会話にあの彼が入ってきた。
「あの・・・」
「え!?・・・なっなに?」
「マネージャーなら、思い当たる人がいるんですが・・・」
「え?そうなの?可愛い子?どんな子どんな子!?」
「てか、思い当たるって同じ中学か?」
その話にそれぞれ違うところに食いついたコガと日向は、黒子に質問攻めする。
「えっと、可愛いというより綺麗な人です。中学ではバスケ部のマネージャーでした」
「「まじ!?」」
日向とコガは同時に食いつく。
「ただいつも怠そうな顔してます」
「えっ!?なにそれっ!!」
しかし黒子の二言目にコガは少し眉を潜めた。
「頼んでみましょうか?」
「怠そうなのに、やってくれるの?」
「・・・多分」
―なんかあんまり期待できないんだけど!!
今の会話から誰もが、マネージャーを引き受けてくれる子ではない気がした。
「まぁ・・・一応。よろしく頼むよ」
とりあえず声だけは掛けてみてくれと、頭をガシガシ搔きながら日向はお願いした。