まっくろくろのおさとういっこ

 なんか珍しいな、って思ったの。
 君が暗い顔っていうか、落ち込んだ顔してるのって。

「もう無理なんだって。彼女に探り入れられてるし、これ以上はもう……」
「なんで? あたしのこと好きなんでしょ? ねえ、なんで『別れる』なんて言うの?」
「いや、だからさ、」
「その子よりあたしの方が何百倍も何千倍も好きでしょ? 理人くん、あたしとずうっといっしょにいてくれるんじゃないの? なんで別れるの? その子と浮気しててもいいからあたしといっしょに――」
「は? 馬鹿じゃねえのお前」
「え?」
「お前だよ、浮気相手は。俺と住んでるのが彼女。お前は単なる遊び相手だよ」

 ……あーあ、また裏切られた。嘘つかれちゃった。
 でも、君はなんにもわかってないよね? あたし、君に青春ぜーんぶあげたんだよ? 君とあたしがいっしょに過ごした時間も、君があたしにくれた思い出も、ぜんぶぜんぶぜんぶぜーんぶ大事にしまってるの。
 あたし、ぜったいその子より君のこと愛してるよ? だから、まだいっしょにいられるよね? あたしと君がはなればなれになっちゃうなんて、そんなのぜったい、ぜーったい嘘。
 あ、わかった! 誰かに無理やりそうやって言わされてるんでしょ? 言わなきゃ大変なことになるって思ったんだもんね? 間違えて言っちゃっただけだもんね? 

 ……違う? 間違ってない?

 じゃあ、この思い出大事にしなきゃ。
 あ、もちろん君にも、あたしのことぜーったい忘れないようにしてあげる!

 ♡ ♡ ♡

「あのね理人、私、最近誰かにつけられてる気がするんだけど……」
「え、ストーカーってこと? なんか心当たりないの?」
「そんなもの全くないよ。あったら警察とかに言ってるし……」
「そりゃそうだよな」
「ねえ、理人は何かない? そういうことされそうな心当たりとか」
「え、何だよ。俺が人から恨みを買って、そいつが腹いせに紬のストーカーになってるとか思ってんの?」
「ちがうちがう! あくまでも可能性の話だよ」
「……でもまあ、別に人から恨まれることをした覚えはないけどな」

 あー、いけないんだ! 嘘ついた!
 ねえねえ、嘘つく前にあたしのこと思い出したでしょ? そうだよね? そうに決まってるよね!
 でも、君の浮気相手ちゃんすっごーい! 紬ちゃんだっけ? 探偵さんみたいだね! あ、でも頭はいいのか。弁護士さんだもんね。 毎日スーツ着てキラキラのひまわりみたいなバッジつけてお出かけしてるよね。すごいなぁ。
 いいないいな、お勉強ができる子ってかっこいいよね。しかも紬ちゃん可愛いし。だから君も「この子と浮気しよう」って思ったのかな?
 わかんないけど、あたし、あの子のことすっごーく嫌い! 嫌い嫌い嫌い! 大嫌い!
 だって、可愛くて頭もよくて太陽が似合ってるんだもん! よく音楽聴いてるけど、あたしみたいに暗い曲ばっかりじゃないんだろうなぁ。明るい歌に「一生懸命生きよう」って言われながらにこにこしながら生きてるんだもんね? いいな、いいな!
 あたし、ああいう歌もすっごーく嫌い! だって、いつだって死にたくて仕方ないんだもん。あんな歌聴きたくない。あたし、あんな太陽みたいな歌似合わないもん。あんな歌みたいににこにこして生きられるわけないんだもん。
 だって、誰もあたしのこと愛してくれないでしょ?
 君の分だって足りないし、やっぱり誰もあたしのこと愛してくれないのかも。
 ねえ、やっぱり浮気なんてしないでよ。あたしだけ愛して。頭から爪先まで、ぜんぶぜーんぶ君の愛で――

「……もう一回聞くけど、理人、ほんとに人に恨まれる心当たりないんだよね?」
「だからないって言ってんだろ」
「とか言いつつ、最近また浮気してない? 繁忙期だからって言って、会社に泊まること多いよね?」
「俺はお前と違って忙しいんだよ」
「いや、でも――」
「前に誓っただろ。二度と浮気なんかしない、俺が間違ってたって」
「……そうだね」
「俺が好きなのはお前だけだから。愛してる」
「うん、私も理人のこと愛してる」

 ……え?

 ……「愛してる」?

 ……え?

 おかしい。
 おかしいよ?
 おかしいおかしいおかしいおかしい!

 なんで!? なんであんな子に「愛してる」なんて言うの!?
 ただの浮気相手でしょ? ほんとに愛してるのはあたしでしょ!? ねえ、なんで!?
 意味わかんない! おかしいよ! 理人くん、いっつもあたしに「愛してる」って――

 ……「愛してる」?
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