純白の不在証明

「絢乃!」
 また呼ばれて、私は顔を上げる。
「式は……どうするの」
 母の声は、さっきよりずっと小さくなっていた。親族たちも、スタッフも疲れ切った顔をしている。これ以上どんな言葉を選べばいいのかわからないのだろう。
 当然だ。もうどうにもならないことは、誰の目にも明らかだから。

 私はゆっくり立ち上がる。ドレスの裾を軽く整えて、鏡の中の自分を見る。
 時間をかけて整えられた髪。丁寧に引かれたメイク。祝福されるためだけに存在するみたいな白。
 私は今、完璧に「花嫁」の姿をしている。
 なのに、新郎だけがいない。

「どうするもなにも、中止でいいでしょ」
 あっさりと言うと、母は言葉を失ったみたいに固まった。
 泣き崩れると思っていたのかもしれない。責め立てると思っていたのかもしれない。
 でも、そんな気力は不思議となかった。
 終わったんだ、と思った。ただそれだけだった。

 * * *

 少しだけ、窓の外を見る。よく晴れている。
 こんな日に逃げるなんて、最悪だ。けれど四季くんらしい、とも思ってしまう。

 あの人は、どこまで行ったのだろう。
 高速道路か、新幹線か、それともただ適当な電車か。逃げる場所も何も考えずに飛び乗ったのかもしれない。
 選び取った誰かを連れて、それでもいいと思ってる顔で。

 その顔を、少しだけ見てみたかった気もする。

「……行ってらっしゃい、四季くん」

 選ばれなかった側としての終わりは、思っていたよりも穏やかで。
 そして少しだけ、優しかった。

Fin.
3/3ページ