純白の不在証明

 ずっと、どこかでわかっていた気がする。
 この結婚は、彼にとって“正しい選択”ではあっても、“選びたいもの”ではないかもしれないって。
 家柄も釣り合っていた。幼なじみで、両親同士の関係も良好。年齢も仕事も将来設計も、何もかも問題がない。並べれば並べるほど、綺麗に整った結婚だった。
 四季くんも、否定はしなかった。穏やかだったし、誠実だったし、私を雑に扱うこともなかった。けれど同時に、どうしても埋まらない空白みたいなものがあった。

 私を見ているのに、どこか遠い。 隣に立っているのに、一歩だけ違う場所にいる。
 そんな感覚。

 それでも、進む人だと思ってた。最後まで、正しく“選んだ”フリをして。
 でも、違ったんだね。

 * * *

 三澄悠里。
 大学で、四季くんと歩いているのをよく見かけた。友達とは呼びづらい、繊細な距離で。
 四季くんは基本的に、他人との距離感を崩さない。優しいけれど踏み込ませないし、自分から踏み込みもしない。誰に対しても一定で、だからこそ安心感がある人だった。

 でも、三澄さんといる時だけ、少し違った。

 無防備、とまでは言わない。けれど、ちゃんと気を抜いていた。
会話の間が自然で、沈黙に意味がなくて、取り繕う必要のない相手といる時の顔をしていた。
 あの人といる時だけ、四季くんは「普通」になれていたんだろう。
 誰かの息子でもなく、誰かの婚約者でもなく、一人の人間として。
 けど、私はああいう顔を、最後まで見られなかった気がする。

 たぶん、あの人は巻き込まれただけなんだろう。四季くんに、強引に手を引かれて。
 選ばされたんじゃなくて、選ばれてしまった側。
「……でも、四季くんに“逃げる”って選択肢を与えたのは、三澄さんでしょ」
 その場にいないあの人に、ひっそりと呟く。
 誰かをそこまで動かすって、簡単なことじゃない。
 ましてや、あの四季くんだ。自分の家のことも、自分の立場も、全部分かってる人。
 そんな四季くんに“選ばせる”人なんて、そうそういない。あの人はずっと、選ばされてきた側だったから。
 けど、三澄さんはそんな四季くんに「これがいい」って思わせる相手だった。全てを投げ捨てさせる人だった。

「……ねえ、三澄さん。あなたは相当いい人なんだろうね」
 私の“旦那さん”になりかけた人に、そんな選択肢を与えてしまうくらいには。
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