恋という言葉は似合わなくて

 私となぎさんが進学した高校は、ブレザータイプのジェンダーレス制服だった。
 スカートかスラックスか、リボンかネクタイかを自由に選べる制服だったが、私となぎさんは「どっち選んだかは当日の秘密ね!」と約束し、お互いがどちらを選んだのか知らないまま入学式を迎えた。
 その入学式の日、また同じクラスになったなぎさんは、教室で私を見つけるなり叫んだ。
「しーちゃんが、男子になってる!」

 男子になったというと、とんでもない語弊がある。
 制服がスラックスとネクタイで、メガネを細いリムのものにして、髪の毛をバッサリ切っただけである。
「しーちゃん、髪の毛何センチ切ったの!? 短くない!? バレー部の女子より短いよ!?」
「横は耳が見えるくらい、後ろは刈り上げにならないギリギリ。あと、比較対象にバレー部の女子を出さないの。失礼だから」
「どうしよう。私が知ってる、メガネかけてなくておさげ髪のしーちゃんが消えた……」
「メガネなしでおさげだったのは小学校低学年までだよ」
「それはそうなんだけど、女子校だったら王子ポジでモテまくる女子のビジュじゃんか。イケメンになっちゃってるよ普通に」
「どうもありがとう」
 なんでこんな見た目になったのかと言われたら、単純に昔からボーイッシュな格好が好きだったからだ。
 なぎさんの私服みたいな可愛い系の服は似合わなくて、シンプルな服の中でも特に性別を選ばないユニセックスの服が似合った。そして、高校の制服を買うときに身長を測ってみたら、メンズのMサイズを着られるくらいには背が伸びていた。
 おまけに、なぎさんが先輩に振られた。先輩に好きな人ができたらしい。

 やることは、1つだった。

「今のしーちゃん、軽率に『可愛い』とか言ったらアウトだよな……。しーちゃん助けて、今の私には君を褒める語彙がない」
「別に『可愛い』でいいじゃん。なぎさんにそういうこと言われるの嬉しいよ」
 体の調子はバグるけど、という本音は隠し、ただ「君に」褒められたいという願望をなんとなく滲ませて、笑う。はっきり出ていてもそれはそれでいい、と思いながら。
「待ってしーちゃん、今のビジュで微笑まないで。やばいから」
「何がやばいの」
「推しに、私の推しに似てる……。怪盗アスカに似てる……」
 そう言うと、なぎさんは顔を両手で覆ってしゃがみ込み、ぶつぶつと「尊い」とか「やばい」とか呟きだした。推し活に縁のない私からしたら状況がよくわからないが、さっきまで騒いでいた女子が急にしゃがみ込んだという事実で、こちらに周りの視線が集まっていることだけはよく理解した。
 仕方がないので私もしゃがみ、なぎさんの左手首を掴んで、顔の片側だけ見せてもらった。若干頬が赤い。思わず、笑みが溢れた。
「……怪盗アスカって、なぎさんの最推しだっけ?」
「そう。私がマンガにハマるきっかけを作って、限界オタクにさせた人」
「ほんとに挙動が限界来てる人のそれだもんね……。そんなに似てる?」
「あとで調べてみたらわかる。やばいよ」
 マジで似てるから、となぎさん。とりあえず立てば、と手を引っ張って立たせてやると、振る舞いが紳士だ、アスカさんになってる、とまた騒ぎ出す。

 ——アスカさんになったところで、どうにもならないのだが。
5/8ページ