恋という言葉は似合わなくて

 入学式を終えて家に帰る途中、私となぎさんは桜のある公園に立ち寄った。お花見してみたい、というなぎさんの気まぐれに、なんとなく振り回されたくなった。
「なぎさん、中学校での目標は?」
 春の太陽の優しい日差しが当たるベンチに座って、私はなぎさんに聞いた。
「目標? なんだろうな……。しーちゃんはなんかある?」
「私は勉強かな。難しくなるだろうし、頑張らないと」
「それはそうだよね。でも、うちはそれより部活頑張りたいかも。バドミントン」
「またペア組んで続けるの? 少年団のときはダブルスでやってたんだよね?」
「どうしよっかな〜。まあ、シングルスもやってみたいところではある」
 なぎさんはそう言いながら、前に抱えていたリュックについたキーホルダーを触る。バドミントンのラケットとシャトルのモチーフがついたそれが、カチャカチャと音を鳴らす。たまに日の光が反射してきて、眩しかった。
「しーちゃん、うち、もう1個中学校で頑張りたいことあったわ」
 そして、ぬるい風で桜の花びらが数枚舞うのを見ていた私に、なぎさんは思い出したように言った。
「中学生のうちに、1回くらい恋愛したい。彼氏欲しい」
「……うん」
「憧れるじゃん。体育祭で告白されるのとか、文化祭で一緒に盛り上がるのとか。なので、彼氏を作ります!」
 なぎさんはそう意気込んで、恋愛相談よろしくね! と私に言った。
「……まあ、私でよければいくらでも」
「ありがとうしーちゃん!」
 私が言葉に詰まりかけたことには気づかず、なぎさんが嬉しそうに笑う。
 ぬるくて仕方がなかったはずの風が、やけに冷たく感じた。
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