恋という言葉は似合わなくて

 あの出会いから6年間、私たちは親友だった。
 呼び方はしーちゃんとなぎさんに変わっても、関係性が変わることはなく、同じ教室で授業を受け、給食を食べ、2人の好きなキャラクターの話をして、のんびりと過ごしていた。
「しーちゃん、うちらももう中学生だよ」
「だね」
 外で桜が満開になっていた、中学校の入学式の日。私となぎさんはまた、隣の席だった。
 小学校のときから7年連続で同じクラスになった私たちは、新品のセーラー服に袖を通し、胸元に「入学おめでとう」の花をつけて喋っていた。
「うちがしーちゃんに『絵上手だね!』って声かけてからもう6年経ってんだって。やばくない? うちらがセーラー服着る番になっちゃったよ」
「いいじゃん、なぎさんスカート似合うんだから。私はスラックスじゃないと落ち着かないし、スカート似合うほど可愛くないし」
「いやいや、しーちゃんめっちゃ可愛いよ。髪の毛もボブにしてるし、メガネかけてるし、セーラー服似合わない方がおかしいレベルのビジュだからね今」
「ボブとメガネでセーラー服着たら絶対可愛いっていう法則はないでしょ」
 いつものように仲良しの親友のツッコミ役を演じながら、私は密かに胸を高鳴らせる。
 君だって可愛いでしょうよ、なんて言葉を口に出せないまま。

 ——可愛い。

 それはなぎさんの口癖みたいなもので、誰にだって同じテンションで繰り返す一言だった。
 褒めたいけど語彙力が足りないときは基本これでいいのだ、と得意げに言っていたという事実を完璧に理解しているのに、それでもいちいち反応してしまう自分にちょっとだけ嫌気が差す。
「でも、やっぱり似合うよ、なぎさんのセーラー服。小学校の卒業式でも見たけど、それよりずっといい。大人っぽくて、綺麗で」
「何言ってんのしーちゃん。可愛いなぁ。褒めても何も出ないぞ?」
「出さなくていいよ別に。逆に何を出す気なの」
「ポテトチップスとか?」
「いらんわ」
 にまにまと笑いながら私を茶化すなぎさんを、私はいつものように軽くあしらう。それでも引かない彼女に、先生が来たと事実を告げて、冷静な顔をしようと努めて。
 担任は男だった。丁寧にアイロンがかけられてパキッとしたYシャツを着たその人は、挨拶もそこそこに左手でチョークを持ち、黒板に自分の名前と校訓を書き始めた。白色の線を追っていたら、薬指に銀色の輪が輝いているのが目に入った。
 なぎさんは、担任が説明する校訓の意味をメモに取っている。右手で私とおそろいで買った新しいシャープペンシルを持って、左手は頬杖をつきながら。
 その薬指にあるのは逆剥けくらいだった。
「……絆創膏、いる?」
 小声で声をかけた。しーちゃんの絆創膏面白いからほしい、と呟かれて、1枚渡した。
 昨日弟にあげた残りの絆創膏は、青地に電車のキャラクターが描かれた、ひどく子供っぽいもの。可愛さのかけらもなければ、甘さもなかった。
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