ワン・ラスト・ナイト
「うっす」
「うい」
短い挨拶だけ交わして、大学から俺の家までの道のりを一緒に歩き出す。
肩を並べるその距離感は、決して自分たちが親密であることをバレてはいけないという意識の現れで、少し不自然になる。
俺が一人で暮らすアパートのワンルームに入るやいなや、あいつは迷わずベッドに入り込んだ。人のベッドだろと少し呆れつつも、やはり可愛いと思う。
「三澄、なにしてんの。早く来なよ」
招かれている側のはずなのに、あいつの態度は家主より堂々としている。
俺はベッドに上がり、飄々とした態度のあいつに顔を向ける。
あいつと、目が合う。
「ねえ」
「なーに、三澄」
誘うような目で聞き返してくるのが憎たらしい。
「……二人のときくらい下の名前で呼んでよ。悠里って」
拗ねるような言い方になってしまって、俺は少しの恥ずかしさを覚える。
あいつはふっと笑って、俺の頬に触れる。
「悠里」
甘ったるい声が憎い。色っぽく配る視線が憎い。
熱くなっていく己の体温が憎い。
そっと、唇を重ねた。
「四季、好きだよ」
恥ずかしそうに頬を赤く染めるあいつの名前を呼ぶ度に思う。
この瞬間が一生続けばいいのに、って。
* * *
「ねえ、これなに」
見切り品の野菜と特売だった肉と袋麺を適当に炒めた焼きそばを食ったあいつが、棚に置いていた俺のフィルムカメラを勝手に手に取った。
興味津々に見つめるその瞳が可愛くて、同時に危うい。
カメラの扱い方なんてきっと知らないから、興味本位であれこれいじって壊すんじゃないかって心配になる。
「貸して。撮ってあげる」
窓際の壁に寄りかかってこちらを見やるあいつに、シャッターを切る。
すぐ「見せて」なんて言ってくるから、フィルムカメラは現像するまで写真が見られないことを教えてやる。
「え? じゃあ、もし失敗してても確認できないってこと?」
「そうだね。そのまま現像されちゃうね」
「マジ?」
次の瞬間、あいつはいたずらっぽく笑って、俺からカメラを奪った。
「おい、ちょっと」
俺の制止も聞かず、あいつは俺の前に得意げに立ちはだかり、カメラを向ける。
「はい、なんかポーズして」
「えぇ?」
「いいから。早く」
俺は仕方なくピースをした。あいつは一度カシャッとシャッターを鳴らした後で「なんかありきたりだな」なんてディスってくる。だったらシャッターを押す前に言ってほしい。
「なんかもっと面白いポーズしてよ」
「面白いポーズってなに」
「じゃあ、こうやってマッチョってやって」
言われるがまま片腕を上げ、肘を曲げ、拳を握る。あいつは満足そうに笑いながらシャッターを切る。
「いいじゃん! さっきのより全然面白いよ」
「判断基準間違ってない?」
あいつは短く笑って俺に近づいてくる。
かなりの至近距離でシャッターを切られて、俺は思わず動揺してしまう。
「ははっ。変な顔」
その笑顔に魅了されて、引き寄せられて、俺は自分より一回りほど小さいあいつを腕の中に閉じ込めた。
「ふふっ……なに?」
少し照れたようなその声があまりにも甘くて、俺はやっぱりまた「憎たらしい」と思ってしまうのだった。
「うい」
短い挨拶だけ交わして、大学から俺の家までの道のりを一緒に歩き出す。
肩を並べるその距離感は、決して自分たちが親密であることをバレてはいけないという意識の現れで、少し不自然になる。
俺が一人で暮らすアパートのワンルームに入るやいなや、あいつは迷わずベッドに入り込んだ。人のベッドだろと少し呆れつつも、やはり可愛いと思う。
「三澄、なにしてんの。早く来なよ」
招かれている側のはずなのに、あいつの態度は家主より堂々としている。
俺はベッドに上がり、飄々とした態度のあいつに顔を向ける。
あいつと、目が合う。
「ねえ」
「なーに、三澄」
誘うような目で聞き返してくるのが憎たらしい。
「……二人のときくらい下の名前で呼んでよ。悠里って」
拗ねるような言い方になってしまって、俺は少しの恥ずかしさを覚える。
あいつはふっと笑って、俺の頬に触れる。
「悠里」
甘ったるい声が憎い。色っぽく配る視線が憎い。
熱くなっていく己の体温が憎い。
そっと、唇を重ねた。
「四季、好きだよ」
恥ずかしそうに頬を赤く染めるあいつの名前を呼ぶ度に思う。
この瞬間が一生続けばいいのに、って。
* * *
「ねえ、これなに」
見切り品の野菜と特売だった肉と袋麺を適当に炒めた焼きそばを食ったあいつが、棚に置いていた俺のフィルムカメラを勝手に手に取った。
興味津々に見つめるその瞳が可愛くて、同時に危うい。
カメラの扱い方なんてきっと知らないから、興味本位であれこれいじって壊すんじゃないかって心配になる。
「貸して。撮ってあげる」
窓際の壁に寄りかかってこちらを見やるあいつに、シャッターを切る。
すぐ「見せて」なんて言ってくるから、フィルムカメラは現像するまで写真が見られないことを教えてやる。
「え? じゃあ、もし失敗してても確認できないってこと?」
「そうだね。そのまま現像されちゃうね」
「マジ?」
次の瞬間、あいつはいたずらっぽく笑って、俺からカメラを奪った。
「おい、ちょっと」
俺の制止も聞かず、あいつは俺の前に得意げに立ちはだかり、カメラを向ける。
「はい、なんかポーズして」
「えぇ?」
「いいから。早く」
俺は仕方なくピースをした。あいつは一度カシャッとシャッターを鳴らした後で「なんかありきたりだな」なんてディスってくる。だったらシャッターを押す前に言ってほしい。
「なんかもっと面白いポーズしてよ」
「面白いポーズってなに」
「じゃあ、こうやってマッチョってやって」
言われるがまま片腕を上げ、肘を曲げ、拳を握る。あいつは満足そうに笑いながらシャッターを切る。
「いいじゃん! さっきのより全然面白いよ」
「判断基準間違ってない?」
あいつは短く笑って俺に近づいてくる。
かなりの至近距離でシャッターを切られて、俺は思わず動揺してしまう。
「ははっ。変な顔」
その笑顔に魅了されて、引き寄せられて、俺は自分より一回りほど小さいあいつを腕の中に閉じ込めた。
「ふふっ……なに?」
少し照れたようなその声があまりにも甘くて、俺はやっぱりまた「憎たらしい」と思ってしまうのだった。
