去りし秋陽、決意の道

とある山奥の村に双子の兄弟がいた。兄の律治りつはるは信心深く、実家を継ぐ為に猛勉強の日々。弟の律彰りつあきつあきは作家を志望しており、いつかは都に行こうと思っていた。周囲はあまりよく思っていないが、律治は彼の小説を好んで読んでいた。

ある日、創作の楽しさを律治にも教えたいと思った律彰は、何でもいいからひとつの物語を作ってほしいと頼む。仕方なく作ることになった律治は苦戦しながらもなんとか完成させた。その小説を読んだ律彰は初めてにしてはよく出来ていると褒めるが、もしかしたら自分より評価されるのでは?と心中では焦っていた。それ以降創作の話は一切しなくなった。

時は流れ、都へ行く日が決まり準備をしていた律彰だったが旅立つ前日、突然姿を消す。その翌日に変わり果てた姿で発見され、事故死と処理された。
どう見ても事故とは思えない傷跡に疑問を抱く律治は、調べていく内に、律彰を良く思っていなかった村人達によって消されてしまった…という真実に辿り着く。失望した律治。一度は律彰の元へ逝くことを考えたものの、自分がいなくなると律彰が生きた証が消滅してしまうと気付き思いとどまる。だが故郷や家族、村人達を以前のようには愛せず、他人不信になってしまった。

少し時間が経ち、大学に行く為に都へと旅立つ律治だが、生前の律彰が教えてくれた創作の楽しさを思い出し、村人達に内緒で小説を書いていたのだ。彼が叶えたかった夢を果たす為に、律彰が使っていた「十六夜リツ」の名を借りて物書きになることを決める。
1/3ページ