I got my feelings back
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「すみませんお待たせしました…!」
「遅い。これが打ち合わせだったら課長にチクってるから」
「…はい、ほんとすみませんでした」
出張から帰ってきた週末、二宮さんの誕生日とやらに付き合わされたのは二宮さんが前にお世話になったという他部の部長のホームパーティーだった
厚い雲が空を覆っていて
梅雨らしいじめじめ感が肌にあたる
「えーっと人事部長でしたっけ?」
「そう。お世話になってんの」
「休日でしかも誕生日に顔だすなんてサラリーマンの鏡ですね」
「でしょ。少しは見習いなさい」
スタスタと歩く二宮さんに遅れを取らないよう早足で歩く
一応、ホームパーティーということもあってか、二宮さんはジャケットを着ていて
会社ではすでにクールビズ期間に入ってて
男性はシャツのみでジャケット不要なのもあって
いつもと違う雰囲気にドキッとする
「…なに」
「あ、いえなんでもないです」
じっと見ていたところがばれてしまった
そして今度は二宮さんの視線を感じた
「…なんですか」
「馬子にも衣装」
そう言ってククク、と笑った
一応、目上の人のパーティーという名のつく集まりということもあって、クローゼットの奥から引っ張ってきた半袖のブラックワンピースを着てきた
二宮さんの耳が赤い
それなりに好評価なのかな
「ニヤニヤすんな」
「はーい」
梅雨ということもあって、厚い雲で覆れた空はすこし薄暗い
そして湿度も高くて湿った空気が充満している
「こっち」
二宮さんが顎で示したタワーマンションのエントランスに向かう
「…部長クラスになるとこんな豪邸住めるんですね」
引っ越しの準備中の私には大きなインパクトだ
エントランスで高層階の部屋のインターホンを押して、鍵を開けてもらう
エレベーターまでの空間もラグジュアリーな家具や装飾品が目につく
「お前の引っ越し先どこだっけ?」
「あ、その件なんですが…諸事情あって二宮さんのマンションになりそうです」
「ふーん。良かったじゃん」
二宮さんはニヤニヤしていた
「諸事情って?耐震性の不備とか、入居者募集終了とか?」
「なんで知ってるんですか」
「なんででしょうね」
まさか、裏で手を引く訳ないよね?と思い悩んでいると
「別にしてませんよ、耐震性不備の指摘とか」
「絶対してますね…」
「あ、友だちが家探してたのよ。紹介しといた。たぶんお前が内覧したとこ」
「…お陰さまで二宮さんと同じマンションですね」
そこまでして私を同じマンションに誘導したかったのか、と思うと完敗だ
「…よろしくお願いします」
なんとも言えない気持ちを押し殺したところで、
目的のフロアに到着する。
エレベーターを降りた正面で大きなドアが目に付く
「ここ、ですか?すごい立派…」
見渡すとフロアにはこの一戸だけなのか、
他にドアらしきものは見当たらない
「適当に飲んで食べて帰りましょ」
二宮さんはそう言ってドアを開けた
「おーい、二宮」
二宮さんが振り向く
パーティーも社内の人が多いみたいだけど、
本社勤務の人ばかりで数ヵ月前に本社に来た私には知らない人ばかりだった
「ごめん、ちょっと外すわ」
二宮さんが呼ばれた方に向かう
二宮さん、顔広いな…
まぁ今のポジションもいろんな人と関わるところだし、そうなるよな
キラキラした飲み物や流行りのフードが所狭しと並ぶ
年上の人が多いのか、中堅~ベテランの人がよく目につく
仕事の話で盛り上がっているらしい
少し、外の空気を吸おう
ベランダに出ると、厚い雲から日差しが少し見えていた
眺め…良すぎてこの景色の価値がよくわからない
シャンパンを片手に遠くを見る
この、大都会でほんの一握りの勝ち組は
ほしいものを手にしてるんだな…
この会社は学生時代の就活中に事業内容は然り、働く人や事業の成長性に感銘を受けて入社を決めた
仕事は楽しいしやりがいもある
ダサいかもしれないけど愛社精神だってきっと人一倍ある
結果を残したいし、これから続くキャリアをこの会社で少しずつ歩いていきたい
お金持ちになりたいわけじゃない。
正しいかはわからないけど
目の前にある仕事が
私の存在価値だって思っている
…ただ、ほんの少しの虚無感が
ほんとにこれでいいのかって聞いてくる
仕事に向き合えればそれでいい。
それ以上は望まない。
それでいい…って思ってるはずなのに
なんでかな
二宮さんと仕事できることに
大きな価値を感じてる
祐のときみたいに
誰かの存在価値を感じてしまうと
失ったときが怖いんだよ
だから二宮さんっていう存在を感じない方がいい
『私は一人でも大丈夫』が正解なんだよ
そんな気持ちを飲み込んで私の中から出ていかないようにシャンパンを口に含む
「あれ、井川さん…?」
私の名前を呼ぶ方を振り向くと懐かしい後輩がいた
「加藤くん!…びっくりした!」
加藤くんは下を向いて笑った
…笑い方、変わらないな
「こっちがびっくりしましたよ。お久しぶりです」
加藤くんは赤ワインを手にした手を軽く上げた
「ほんと、久しぶりだね。元気だった?いま何してるの?」
「元気です。今は本社にいますよ。サポートビジネス開発部です」
「えっ、サポ開?それはまた忙しいところに行ったね!さすがですね」
「お陰さまで忙しくさせてもらってます」
キラキラな笑顔が当時のままで
変わらない立ち振舞いにも安心する
加藤くんとは、前職の横浜支店で同じチームだった
同じ歳なんだけど 大学時代に留学してたとかで
卒業が1年遅れてこの会社では私の後輩にあたる
同じチームで同じ目標に向かって
時にはもうダメだ、って時もお互いに励ましながら仕事したな
加藤くんは私にとって良き同僚で、
というかそれ以上に感じることもあったけど
確か加藤くんにはずっと付き合ってる彼女がいて
実を言うと祐を失って初めて
好きかもしれないと思って
でも好きだって思う手前で踏みとどまった人だ
「井川さんは?たしか本社の販売企画でしたよね?」
「それがね、いまプロジェクト推進室なんだ」
「えっ、あの体制見直し専門の?」
「そうそう。なんでだろうね、そっち行けって指示があってさ」
「さすがですね。エリート集めてるって噂聞いてましたもん」
「いやいや、私は微力だよ」
ははは、と付け足す
加藤くんがふっと笑った
「…変わらないですね。その笑い方」
思わず吹き出す
「…私も、加藤くんの笑い方、変わらないなって思ってたよ」
加藤くんと一緒に仕事をして2年程経った頃、加藤くんは他の支店に異動になった
それでも一緒に仕事をした期間はとても濃くて
今目の前にいる当時の頼れるパートナーが
そのままでいてくれて本当によかった、と心から思えた
「そういえばあれから結婚したの?」
「あぁ…実は別れたんです。いろいろあって」
「そうなんだ。残念だったね」
「井川さんは?相変わらず彼氏作らない主義なんですか?」
「彼氏できない私を気遣ってくれてありがと」
加藤くんは昔からこうやって
くすっと笑える反応を楽しむ
頭の回転早いんだよなぁ
「誰とも、なーんにも。フリーのまんまだよ」
前に一度、付き合ってた人が亡くなった、とは伝えたけど
後輩ということもあって、加藤くんは私が祐を失ったことを直接は知らない
周りの人は祐の話題に触れちゃダメだっていい意味で気遣ってくれて
でもその気遣いがまた心をチクチクして
自己嫌悪になったりして
だから加藤くんがフランクに接してくれるところはとてもありがたかった
「お互い、まだまだこれからですね」
「そうだね」
そう言って私たちはグラスに口をつけた
「…あ、本社ってことは同じビルだね。
サポ開って何階?」
「俺は4階です。あんま会わないっすね」
「そうだね、ぜんぜん会わないね」
そんな会話をしていると、二宮さんもベランダに顔を出した
「あ、二宮さん」
「ちょっと捕まってた。…で、誰なのアナタ」
「横浜で一緒だった加藤くんです。いま、お世話になってる二宮さん」
「加藤です。お疲れ様です」
「…どーも」
この、好青年すぎる加藤くんに対して
二宮さんの態度が悪いのは
気のせいかな
「…何の仕事してんの」
「マス向けのサポートサービス開発してます。今日は新井部長と来ました」
「あー、あの頭かったい部長ね」
加藤くんがフフフっと腕で口を押さえて笑う
「的を得てます、それに…」
これから盛り上がりそう、というときに加藤くんが部屋から呼ばれた
「例の頭固い部長に呼ばれたのでここで失礼します」
そう言ってワイングラスを少しトスしていつもの笑顔を見せてくれた
「うん、またね、久々に会えてうれしかったよ」
「…お疲れ」
「あ、井川さん、また今度飲みに行きましょ」
「そだね。またラインするね」
そう言って笑顔で手を振って加藤くんの背中を見送った
「遅い。これが打ち合わせだったら課長にチクってるから」
「…はい、ほんとすみませんでした」
出張から帰ってきた週末、二宮さんの誕生日とやらに付き合わされたのは二宮さんが前にお世話になったという他部の部長のホームパーティーだった
厚い雲が空を覆っていて
梅雨らしいじめじめ感が肌にあたる
「えーっと人事部長でしたっけ?」
「そう。お世話になってんの」
「休日でしかも誕生日に顔だすなんてサラリーマンの鏡ですね」
「でしょ。少しは見習いなさい」
スタスタと歩く二宮さんに遅れを取らないよう早足で歩く
一応、ホームパーティーということもあってか、二宮さんはジャケットを着ていて
会社ではすでにクールビズ期間に入ってて
男性はシャツのみでジャケット不要なのもあって
いつもと違う雰囲気にドキッとする
「…なに」
「あ、いえなんでもないです」
じっと見ていたところがばれてしまった
そして今度は二宮さんの視線を感じた
「…なんですか」
「馬子にも衣装」
そう言ってククク、と笑った
一応、目上の人のパーティーという名のつく集まりということもあって、クローゼットの奥から引っ張ってきた半袖のブラックワンピースを着てきた
二宮さんの耳が赤い
それなりに好評価なのかな
「ニヤニヤすんな」
「はーい」
梅雨ということもあって、厚い雲で覆れた空はすこし薄暗い
そして湿度も高くて湿った空気が充満している
「こっち」
二宮さんが顎で示したタワーマンションのエントランスに向かう
「…部長クラスになるとこんな豪邸住めるんですね」
引っ越しの準備中の私には大きなインパクトだ
エントランスで高層階の部屋のインターホンを押して、鍵を開けてもらう
エレベーターまでの空間もラグジュアリーな家具や装飾品が目につく
「お前の引っ越し先どこだっけ?」
「あ、その件なんですが…諸事情あって二宮さんのマンションになりそうです」
「ふーん。良かったじゃん」
二宮さんはニヤニヤしていた
「諸事情って?耐震性の不備とか、入居者募集終了とか?」
「なんで知ってるんですか」
「なんででしょうね」
まさか、裏で手を引く訳ないよね?と思い悩んでいると
「別にしてませんよ、耐震性不備の指摘とか」
「絶対してますね…」
「あ、友だちが家探してたのよ。紹介しといた。たぶんお前が内覧したとこ」
「…お陰さまで二宮さんと同じマンションですね」
そこまでして私を同じマンションに誘導したかったのか、と思うと完敗だ
「…よろしくお願いします」
なんとも言えない気持ちを押し殺したところで、
目的のフロアに到着する。
エレベーターを降りた正面で大きなドアが目に付く
「ここ、ですか?すごい立派…」
見渡すとフロアにはこの一戸だけなのか、
他にドアらしきものは見当たらない
「適当に飲んで食べて帰りましょ」
二宮さんはそう言ってドアを開けた
「おーい、二宮」
二宮さんが振り向く
パーティーも社内の人が多いみたいだけど、
本社勤務の人ばかりで数ヵ月前に本社に来た私には知らない人ばかりだった
「ごめん、ちょっと外すわ」
二宮さんが呼ばれた方に向かう
二宮さん、顔広いな…
まぁ今のポジションもいろんな人と関わるところだし、そうなるよな
キラキラした飲み物や流行りのフードが所狭しと並ぶ
年上の人が多いのか、中堅~ベテランの人がよく目につく
仕事の話で盛り上がっているらしい
少し、外の空気を吸おう
ベランダに出ると、厚い雲から日差しが少し見えていた
眺め…良すぎてこの景色の価値がよくわからない
シャンパンを片手に遠くを見る
この、大都会でほんの一握りの勝ち組は
ほしいものを手にしてるんだな…
この会社は学生時代の就活中に事業内容は然り、働く人や事業の成長性に感銘を受けて入社を決めた
仕事は楽しいしやりがいもある
ダサいかもしれないけど愛社精神だってきっと人一倍ある
結果を残したいし、これから続くキャリアをこの会社で少しずつ歩いていきたい
お金持ちになりたいわけじゃない。
正しいかはわからないけど
目の前にある仕事が
私の存在価値だって思っている
…ただ、ほんの少しの虚無感が
ほんとにこれでいいのかって聞いてくる
仕事に向き合えればそれでいい。
それ以上は望まない。
それでいい…って思ってるはずなのに
なんでかな
二宮さんと仕事できることに
大きな価値を感じてる
祐のときみたいに
誰かの存在価値を感じてしまうと
失ったときが怖いんだよ
だから二宮さんっていう存在を感じない方がいい
『私は一人でも大丈夫』が正解なんだよ
そんな気持ちを飲み込んで私の中から出ていかないようにシャンパンを口に含む
「あれ、井川さん…?」
私の名前を呼ぶ方を振り向くと懐かしい後輩がいた
「加藤くん!…びっくりした!」
加藤くんは下を向いて笑った
…笑い方、変わらないな
「こっちがびっくりしましたよ。お久しぶりです」
加藤くんは赤ワインを手にした手を軽く上げた
「ほんと、久しぶりだね。元気だった?いま何してるの?」
「元気です。今は本社にいますよ。サポートビジネス開発部です」
「えっ、サポ開?それはまた忙しいところに行ったね!さすがですね」
「お陰さまで忙しくさせてもらってます」
キラキラな笑顔が当時のままで
変わらない立ち振舞いにも安心する
加藤くんとは、前職の横浜支店で同じチームだった
同じ歳なんだけど 大学時代に留学してたとかで
卒業が1年遅れてこの会社では私の後輩にあたる
同じチームで同じ目標に向かって
時にはもうダメだ、って時もお互いに励ましながら仕事したな
加藤くんは私にとって良き同僚で、
というかそれ以上に感じることもあったけど
確か加藤くんにはずっと付き合ってる彼女がいて
実を言うと祐を失って初めて
好きかもしれないと思って
でも好きだって思う手前で踏みとどまった人だ
「井川さんは?たしか本社の販売企画でしたよね?」
「それがね、いまプロジェクト推進室なんだ」
「えっ、あの体制見直し専門の?」
「そうそう。なんでだろうね、そっち行けって指示があってさ」
「さすがですね。エリート集めてるって噂聞いてましたもん」
「いやいや、私は微力だよ」
ははは、と付け足す
加藤くんがふっと笑った
「…変わらないですね。その笑い方」
思わず吹き出す
「…私も、加藤くんの笑い方、変わらないなって思ってたよ」
加藤くんと一緒に仕事をして2年程経った頃、加藤くんは他の支店に異動になった
それでも一緒に仕事をした期間はとても濃くて
今目の前にいる当時の頼れるパートナーが
そのままでいてくれて本当によかった、と心から思えた
「そういえばあれから結婚したの?」
「あぁ…実は別れたんです。いろいろあって」
「そうなんだ。残念だったね」
「井川さんは?相変わらず彼氏作らない主義なんですか?」
「彼氏できない私を気遣ってくれてありがと」
加藤くんは昔からこうやって
くすっと笑える反応を楽しむ
頭の回転早いんだよなぁ
「誰とも、なーんにも。フリーのまんまだよ」
前に一度、付き合ってた人が亡くなった、とは伝えたけど
後輩ということもあって、加藤くんは私が祐を失ったことを直接は知らない
周りの人は祐の話題に触れちゃダメだっていい意味で気遣ってくれて
でもその気遣いがまた心をチクチクして
自己嫌悪になったりして
だから加藤くんがフランクに接してくれるところはとてもありがたかった
「お互い、まだまだこれからですね」
「そうだね」
そう言って私たちはグラスに口をつけた
「…あ、本社ってことは同じビルだね。
サポ開って何階?」
「俺は4階です。あんま会わないっすね」
「そうだね、ぜんぜん会わないね」
そんな会話をしていると、二宮さんもベランダに顔を出した
「あ、二宮さん」
「ちょっと捕まってた。…で、誰なのアナタ」
「横浜で一緒だった加藤くんです。いま、お世話になってる二宮さん」
「加藤です。お疲れ様です」
「…どーも」
この、好青年すぎる加藤くんに対して
二宮さんの態度が悪いのは
気のせいかな
「…何の仕事してんの」
「マス向けのサポートサービス開発してます。今日は新井部長と来ました」
「あー、あの頭かったい部長ね」
加藤くんがフフフっと腕で口を押さえて笑う
「的を得てます、それに…」
これから盛り上がりそう、というときに加藤くんが部屋から呼ばれた
「例の頭固い部長に呼ばれたのでここで失礼します」
そう言ってワイングラスを少しトスしていつもの笑顔を見せてくれた
「うん、またね、久々に会えてうれしかったよ」
「…お疲れ」
「あ、井川さん、また今度飲みに行きましょ」
「そだね。またラインするね」
そう言って笑顔で手を振って加藤くんの背中を見送った
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