a crossing point
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それから数日間は、平和に過ぎた。
森屋さんから話しかけられることもなければ、何か仕組まれたようなこともなく
二宮さんともいつも通り一緒に仕事をした
そして金曜日になると1週間の最終日だからかみんなリラックスモードで仕事を進めていた
今週は長かったな
ほんの約1週間前に祐の浮気を知ったなんて
時間の流れの早さがうまく掴めない。
それから松潤に告白されて、
二宮さんとキスをして
仕事で失敗して
平和な日々だったのに目まぐるしく起こる出来事に、少し疲れてしまった
「井川、ちょっと外出しなきゃいけなくなったから代わりに人事部に土日の休日勤務の申請出してきて」
「あ、はい」
先輩に頼まれる。
人事部か…
森屋さん、いるかな
あんまり顔を合わせたくないな
先輩から申請書を受け取ってフロアを出る
二宮さんをちらっと見ると、櫻井課長と話し込んでいた
「お疲れ様です。プロジェクト室の休日出勤申請をもってきました」
「あ、井川さん。お疲れ様です。確認しますね」
ついてない。
森屋さんが対応してくれるなんて
森屋さんはにっこり笑って、席を立ってこちらに来る。
女子から見ても眩しいくらいのキラキラオーラが出ていて、すでに負けた気持ちになる
「ありがとうございます。お願いします」
申請書を手渡すと、森屋さんは確認を始めた
「えっと、大丈夫そうですね。あとはこちらで処理しておきます」
もし森屋さんが一連の出来事を仕組んでいたとしたら
この申請もなかったことにされる?
そんなこと起こったらチーム内の信頼を確実に失う。
「…井川さん?怖い顔してますよ?申請書、そんなに憎いですか?」
ふふふっと笑い声が聞こえて、ハッとする。
手渡した紙を見つめていたらしい。
「あっ、いえ、何でもないです」
「ちゃんと処理しておきますから。ご安心ください」
森屋さんはもう一度にこっと笑った
早くこの場から立ち去ろう。
身が持たない。
「ありがとうございます。では失礼します」
「あっ、井川さん、いま時間あります?」
「はい?少しなら…」
「次の会議の件でちょっとお話したいことがあるので、打ち合わせいいですか?」
思わぬ展開になりそうな予感がした
「こちらへどうぞ」
森屋さんに招かれて、個室の打ち合わせルームに入る
周りの音を遮る完全個室、というか最早密室で
促されて奥の壁の方の椅子に座る
「お忙しいところごめんなさい」
「いえ、次の会議の件ですか?」
「まぁ、それもあるんですけど…こちらを確認していただけます?」
森屋さんに1枚の紙を提示される
読み進めると、息が止まりそうになる
「これって…」
「井川さんのために作成しました」
森屋さんはまたにっこり笑う
対して私は、衝撃とショックと動揺で言葉すら出てこない
「ここにサインしていただけます?」
森屋さんはボールペンを差し出して私の前に置いた
目の前にある紙は、『異動申出書』だった
社員が異動を希望する際、提出するもので
転勤可、希望部署など細かく記入できる
紙には、転勤可に○がついているし
希望部署には研究開発センターと書いてあった
研究開発センターって…去年の夏に完成したばかりの、関東の外れにある大きな施設だ
「で、できないです」
状況が飲めず、声が震える
「そうですか…じゃあ、懲戒解雇にします?」
「どういう意味ですか?」
森屋さんはふふっと笑って口を開く
「明日の朝、とあるIDで会社の機密情報が流出するみたいなんです。
…あれっ、井川さんってプロジェクトメンバーでしたよね?次年度以降のホールディングス体制って、まだ報道発表してないですよね?あれー?おかしいな?人件費、原価、営業経費、利益率…そういう一連の情報が、プロジェクト室の一人から競合会社数社に渡されるって聞いたんですけど…?」
「わ、私はそんなこと何も知らないです」
「うんうん、心配いらないですよ!自動的に流出するようシステム設定してるみたいなんで!」
森屋さんはうふふ、と口元をてで押さえて笑う
情報流出?なにそれ?
見に覚えのない話だし、私だったら絶対にそんなことしない。
「井川さん、今なら選べるんです。この異動申出書にサインしてもらえたら、情報流出のシステム設定は解除できます」
「研究開発センターなんて…まだプロジェクトは終わってないのに、そんな異動希望出せません」
「まだわからないんですか?このままだと、犯罪者になるかもしれませんよ?」
犯罪者、という恐ろしい言葉が動揺を加速させる。
どうすべきなんだろう
どうしたらこの状況を好転させられる?
考えなきゃ、考えなきゃ
「情報流出まであと数時間なんです。もうすぐ定時ですね…今日は定時アップデーなんでシステム担当の人も、私も、帰らなきゃいけませんね」
森屋さんは、またにっこり笑う
「…なんで、こんなこと仕組むんですか」
「決まってるじゃないですか。邪魔だからですよ」
「…私が何かしましたか?」
「…知らないと思うのですが…プロジェクトで二宮さんのパートナーになるのは私のはずだったんです」
森屋さんは静かな、怒りを含んだような口調で話し始める
「どういうことですか」
「最初は私のプロジェクト入りが内定してたんです。二宮さんがプロジェクトメンバーに入ることが決まって、私も希望を出して、選ばれるように努力して」
森屋さんは下を向いて、ゆっくり話を続ける
「私のはずだったのに…努力したんですよ?上司に推薦してもらえるように仕事がんばって、勉強して、結果を残して…でも突然あなたに変更になった」
ゆっくりと目線を上げて、鋭い目付きでこちらを見る。
森屋さん以外の声は聞こえない。
この密室に逃げ場はない。
「…私、前に二宮さんに助けてもらったんです。西東京支社だった頃、私の上司が激しいパワハラ体質で、若手に指導という名目でひどい当たり方をされてばかりで」
西東京支社…確かに前に二宮さんがいたところだ
「もう会社辞めようかなって弱気になって落ち込んでるとき、二宮さんが助けてくれたんです」
「二宮さん、が…?」
「私みたいな若手、捨てるほどいるし周りの人も我関せずなスタンスだったのに、負けるなって励ましてくれて、匿名でパワハラを労務部に密告してくれて、上司は降格、異動になりました。二宮さんは私を救ってくれたんです」
「…そんな過去があったとは言え、こんなことして許されるんですか?」
「今回のプロジェクトは二宮さんへの恩返しができるチャンスだったんです!」
森屋さんの大きな声が部屋に響く
「二宮さんに何も返せてません…今回のプロジェクトだって、あなたが決まって仕事を進めてくれるならそれだけでよかった…なのにプライベートまで踏み込んでますよね?それは許せないです」
…森屋さんの思いが本当なら
森屋さんの目には、私の最近の二宮さんとの距離感は痛いくらい辛く写ったのかもしれない
でも…でも、こんなこと、許されるはずない
「…二宮さんのこと、特別な思いがあるってよくわかりました。距離が近すぎて嫌な思いをさせたなら謝ります。でも、私にとっても譲れない仕事なんです」
森屋さんはふっと笑った
「特別、なんて思いじゃないですよ。二宮さんは私の全てなんです。今までも、これからも。」
森屋さんの目にうっすら涙が見える
森屋さんの思いが、痛いくらい伝わる。
「あなたはどうなんですか、井川さん?
二宮さんのこと、どう思ってるんですか?」
「私は…」
私は、二宮さんのことどう思ってるんだろう
森屋さんの真剣な思いは理解できた。
二宮さんしか見えてないんだ
私は…松潤の告白に戸惑ったり、
二宮さんが頭を過ったり
その真っ直ぐな思いに、自分の情けなさすら見えてしまう。
答えなきゃ、と思ったとき
ドアが開いた
「はいはいそこまで。森屋チャン、やっちゃいけないことはやっちゃいけないんですよ」
「二宮さん…!!」
森屋さんの驚いた声が部屋にこだました
森屋さんから話しかけられることもなければ、何か仕組まれたようなこともなく
二宮さんともいつも通り一緒に仕事をした
そして金曜日になると1週間の最終日だからかみんなリラックスモードで仕事を進めていた
今週は長かったな
ほんの約1週間前に祐の浮気を知ったなんて
時間の流れの早さがうまく掴めない。
それから松潤に告白されて、
二宮さんとキスをして
仕事で失敗して
平和な日々だったのに目まぐるしく起こる出来事に、少し疲れてしまった
「井川、ちょっと外出しなきゃいけなくなったから代わりに人事部に土日の休日勤務の申請出してきて」
「あ、はい」
先輩に頼まれる。
人事部か…
森屋さん、いるかな
あんまり顔を合わせたくないな
先輩から申請書を受け取ってフロアを出る
二宮さんをちらっと見ると、櫻井課長と話し込んでいた
「お疲れ様です。プロジェクト室の休日出勤申請をもってきました」
「あ、井川さん。お疲れ様です。確認しますね」
ついてない。
森屋さんが対応してくれるなんて
森屋さんはにっこり笑って、席を立ってこちらに来る。
女子から見ても眩しいくらいのキラキラオーラが出ていて、すでに負けた気持ちになる
「ありがとうございます。お願いします」
申請書を手渡すと、森屋さんは確認を始めた
「えっと、大丈夫そうですね。あとはこちらで処理しておきます」
もし森屋さんが一連の出来事を仕組んでいたとしたら
この申請もなかったことにされる?
そんなこと起こったらチーム内の信頼を確実に失う。
「…井川さん?怖い顔してますよ?申請書、そんなに憎いですか?」
ふふふっと笑い声が聞こえて、ハッとする。
手渡した紙を見つめていたらしい。
「あっ、いえ、何でもないです」
「ちゃんと処理しておきますから。ご安心ください」
森屋さんはもう一度にこっと笑った
早くこの場から立ち去ろう。
身が持たない。
「ありがとうございます。では失礼します」
「あっ、井川さん、いま時間あります?」
「はい?少しなら…」
「次の会議の件でちょっとお話したいことがあるので、打ち合わせいいですか?」
思わぬ展開になりそうな予感がした
「こちらへどうぞ」
森屋さんに招かれて、個室の打ち合わせルームに入る
周りの音を遮る完全個室、というか最早密室で
促されて奥の壁の方の椅子に座る
「お忙しいところごめんなさい」
「いえ、次の会議の件ですか?」
「まぁ、それもあるんですけど…こちらを確認していただけます?」
森屋さんに1枚の紙を提示される
読み進めると、息が止まりそうになる
「これって…」
「井川さんのために作成しました」
森屋さんはまたにっこり笑う
対して私は、衝撃とショックと動揺で言葉すら出てこない
「ここにサインしていただけます?」
森屋さんはボールペンを差し出して私の前に置いた
目の前にある紙は、『異動申出書』だった
社員が異動を希望する際、提出するもので
転勤可、希望部署など細かく記入できる
紙には、転勤可に○がついているし
希望部署には研究開発センターと書いてあった
研究開発センターって…去年の夏に完成したばかりの、関東の外れにある大きな施設だ
「で、できないです」
状況が飲めず、声が震える
「そうですか…じゃあ、懲戒解雇にします?」
「どういう意味ですか?」
森屋さんはふふっと笑って口を開く
「明日の朝、とあるIDで会社の機密情報が流出するみたいなんです。
…あれっ、井川さんってプロジェクトメンバーでしたよね?次年度以降のホールディングス体制って、まだ報道発表してないですよね?あれー?おかしいな?人件費、原価、営業経費、利益率…そういう一連の情報が、プロジェクト室の一人から競合会社数社に渡されるって聞いたんですけど…?」
「わ、私はそんなこと何も知らないです」
「うんうん、心配いらないですよ!自動的に流出するようシステム設定してるみたいなんで!」
森屋さんはうふふ、と口元をてで押さえて笑う
情報流出?なにそれ?
見に覚えのない話だし、私だったら絶対にそんなことしない。
「井川さん、今なら選べるんです。この異動申出書にサインしてもらえたら、情報流出のシステム設定は解除できます」
「研究開発センターなんて…まだプロジェクトは終わってないのに、そんな異動希望出せません」
「まだわからないんですか?このままだと、犯罪者になるかもしれませんよ?」
犯罪者、という恐ろしい言葉が動揺を加速させる。
どうすべきなんだろう
どうしたらこの状況を好転させられる?
考えなきゃ、考えなきゃ
「情報流出まであと数時間なんです。もうすぐ定時ですね…今日は定時アップデーなんでシステム担当の人も、私も、帰らなきゃいけませんね」
森屋さんは、またにっこり笑う
「…なんで、こんなこと仕組むんですか」
「決まってるじゃないですか。邪魔だからですよ」
「…私が何かしましたか?」
「…知らないと思うのですが…プロジェクトで二宮さんのパートナーになるのは私のはずだったんです」
森屋さんは静かな、怒りを含んだような口調で話し始める
「どういうことですか」
「最初は私のプロジェクト入りが内定してたんです。二宮さんがプロジェクトメンバーに入ることが決まって、私も希望を出して、選ばれるように努力して」
森屋さんは下を向いて、ゆっくり話を続ける
「私のはずだったのに…努力したんですよ?上司に推薦してもらえるように仕事がんばって、勉強して、結果を残して…でも突然あなたに変更になった」
ゆっくりと目線を上げて、鋭い目付きでこちらを見る。
森屋さん以外の声は聞こえない。
この密室に逃げ場はない。
「…私、前に二宮さんに助けてもらったんです。西東京支社だった頃、私の上司が激しいパワハラ体質で、若手に指導という名目でひどい当たり方をされてばかりで」
西東京支社…確かに前に二宮さんがいたところだ
「もう会社辞めようかなって弱気になって落ち込んでるとき、二宮さんが助けてくれたんです」
「二宮さん、が…?」
「私みたいな若手、捨てるほどいるし周りの人も我関せずなスタンスだったのに、負けるなって励ましてくれて、匿名でパワハラを労務部に密告してくれて、上司は降格、異動になりました。二宮さんは私を救ってくれたんです」
「…そんな過去があったとは言え、こんなことして許されるんですか?」
「今回のプロジェクトは二宮さんへの恩返しができるチャンスだったんです!」
森屋さんの大きな声が部屋に響く
「二宮さんに何も返せてません…今回のプロジェクトだって、あなたが決まって仕事を進めてくれるならそれだけでよかった…なのにプライベートまで踏み込んでますよね?それは許せないです」
…森屋さんの思いが本当なら
森屋さんの目には、私の最近の二宮さんとの距離感は痛いくらい辛く写ったのかもしれない
でも…でも、こんなこと、許されるはずない
「…二宮さんのこと、特別な思いがあるってよくわかりました。距離が近すぎて嫌な思いをさせたなら謝ります。でも、私にとっても譲れない仕事なんです」
森屋さんはふっと笑った
「特別、なんて思いじゃないですよ。二宮さんは私の全てなんです。今までも、これからも。」
森屋さんの目にうっすら涙が見える
森屋さんの思いが、痛いくらい伝わる。
「あなたはどうなんですか、井川さん?
二宮さんのこと、どう思ってるんですか?」
「私は…」
私は、二宮さんのことどう思ってるんだろう
森屋さんの真剣な思いは理解できた。
二宮さんしか見えてないんだ
私は…松潤の告白に戸惑ったり、
二宮さんが頭を過ったり
その真っ直ぐな思いに、自分の情けなさすら見えてしまう。
答えなきゃ、と思ったとき
ドアが開いた
「はいはいそこまで。森屋チャン、やっちゃいけないことはやっちゃいけないんですよ」
「二宮さん…!!」
森屋さんの驚いた声が部屋にこだました