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『だから、なんで資料が出せないんだ!』
大声がイヤホンから漏れているのがわかる。
周りの人たちが一斉にこちらを見る
今の声からすると、例の人事部長だろうとは予測がつくけど
なんで怒っているのかまだ掴めない
『これだから経営企画部さんはよー』
この怒りかた…パフォーマンス?
威嚇?
『こちらが提示してほしい資料のひとつも出せないとは…組織見直してもらいましようかね?』
声も大きければ、態度も大きく、体の大きな人事部長だ
現場はきっとここで聞いている以上に息をのむ状況と簡単に予測できる
ミュートを解除して、声をかける
「すみません、今戻りました。何の資料が必要でしょうか」
二宮さんからの応答がない。
もしかして…怒号を浴びせられているのは櫻井課長と二宮さん…?
『…申し訳ありません。こちらの準備不足です』
櫻井課長の声が聞こえた
『君、資料係の者がいるんだろ?そのイヤホンの先に。何してんだ?』
イヤホン…二宮さんのことだ
私が、席を外してしまったばっかりに
こんな展開になっている…?
心臓がばくばくと鳴りはじめ、目を閉じる。
考えろ、考えろ
どうすべきだろう?
するとイヤホンから声が聞こえた
『あの、その資料でしたら私が持っています』
女性の声だった
この声は…森屋さんだ
『なんだ、君が準備してくれていたのか。助かるよ。さすがだな、人事部の人間は』
がはは、と笑う声が聞こえた
森屋さんがデータをモニタに映す作業をしているのか、少しの沈黙のあと『こちらです』と聞こえた
『そうだこの資料だよ!ありがとう森屋くん』
上機嫌になった人事部長は、資料の説明を始めた
やってしまった
役に立てなかっただけでなく、迷惑までかけてしまった
私、何やってんだろう…
こんな失敗、初めてで心に大きなダメージを受けているのがわかる
…私以上にイヤな思いをしているのは櫻井課長と二宮さんだ
やってしまった。
どんな顔で謝ればいいかわかんないよ
もう一度ミュートを解除する
「二宮さん、申し訳ありませんでした…」
『今は会議に集中しろ』
「はい…」
そのまま会議は人事部のペースで進められた
『じゃあ本日の会議はここまで、ということで』
『すみません、最後にいいですか。先ほどは資料をすぐにお見せできずに申し訳ありませんでした。経営企画部を代表してお詫び申し上げます』
この声は…部長だ
部長まで謝らせるなんて…
わたし、このプロジェクトの一員として失格だ
イヤホンを外して急いで会議室に向かった
会議室の前に着くと、各部長はみんな退室していて
二宮さんと櫻井課長の姿が見えた。
あと一人…森屋さんもいる
「失礼します」
私の声に3人が振り向く
「先ほどは…すみませんでした」
深く頭を下げて謝る
「井川、あとでゆっくり話そう。まずは森屋さんにお礼を言って」
「はい…森屋さん、どうもありがとうございました」
「いえ、お役に立てたのであれば光栄です。井川さん、お忙しいですもんね」
森屋さんはにっこり笑った
「では、私はこれで失礼します。次回の会議日程が決まればまたご連絡ください」
一例して森屋さんは退室した
「…井川。何してた」
いつも優しい櫻井課長の声が低い。
「…来客対応です」
「来客、誰だったの」
「それは…」
二宮さんは、腕を組んで下を向いている
「井川、昨日の資料といい今日の件といい、大事な時期なんだ。しっかりしろ」
「…はい、申し訳ありませんでした」
櫻井課長はため息をひとつついて、「片付けよろしくな」と言って会議室を出た
二宮さんの方を見る。
「二宮さん、すみませんでした」
二宮さんは顔を上げて口角を少し上げた。
「はめられたね」
「…え?」
「来客。いなかったでしょ」
「はい」
「…やっぱりね。あんとき、引き留めたんだけど遅かったか」
「私が席を外すときですか?」
「そ。惜しかったねー」
そういえば、席を離れる瞬間イヤホンから声が聞こえてた
「はめられたって…私がですか?」
「アナタというか我々、というか」
「誰が何の目的で?」
「さぁ…まぁ、目星はついてますけどね」
二宮さんはタブレットの片付けを始めた
慌てて手伝う
「目星、って誰ですか」
「森屋だね」
「森屋…さん?なんで?」
意外な人の言葉に、驚く。
…いや、意外ではないか、二宮さんの近くにいる私が気に入らないのかな
「ひとつだけ伝えておくと」
二宮さんはタブレットを片付ける手を止めて、その手を見つめたまま話す
「アナタは何も悪くないからね」
「…どういうことですか?」
「俺が片付けますんで」
そしてこちらを見てニヤリと笑った
「ただ、気を付けといて、たぶんもいっかい狙われるから」
「えっ…そうなんですか…」
「その時にでもカタをつけましょ」
二宮さんは、笑顔のままだった