1章
葬儀の担当責任者である葬儀コーディネーターの元、サポート役として立ち回るのが葬儀アシスタントである。香織里はここ、葬儀会社あいメモリーに入社し、短めの研修を受けた後はアシスタントとして働いていた。サポートするコーディネーターは、もちろん一歩だ。だが、サポートするよりも、サポートされる方が多い。一歩には迷惑をかけてばかりだった。
前職も、迷惑をかけてばかりで辞めた。事務仕事をしていた。普通にできて当たり前のことが、香織里にはできなかった。それでも辞めずにいたのは、他にできる仕事はないと思っていたからだ。そんな中で言い渡された転勤。転勤先でも失敗ばかりで、結局、退職してしまった。
香織里は独身である。他に打ち込むことがないので、働いていないといけないような気がし、退職後すぐに働けそうな場所を探した。求人サイトで見つけたのが、葬儀会社あいメモリーだった。人が選びそうにない仕事なら、すぐに採用されるだろう。そういう軽い気持ちで面接を受けた。
面接をしてくれたのは、社長だった。中肉中背の男だ。松本平次と名乗った社長は、朗らかな声で香織里の緊張をほぐしてくれた。
「僕はね、別れることは、生きることだと思っているんだ。故人を見送るのと同時に、遺された者がこれからを生きるために葬儀をする。それがあいメモリー。そのお手伝いをしてくれる人を求めているんだ。香織里さんはどう思う?」
平次は香織里にそう言った。生きるため。その言葉を聞いて、香織里は考えた。
香織里はこの社会で生きるために、繋がりが欲しくて、どこかに所属したかった。だが、そんな気持ちでは働けないことが、社長の言葉から感じた。
葬儀は故人の人生において、最後の式だ。当たり前のことを香織里は忘れていた。
できるだろうか。人生の最期に携わる仕事など。失敗は許されない。
質問にすぐ答えられなかった香織里に、平次は笑いながら言った。
「ごめんごめん。若い人にはまだ分からないだろうね。考えたこともないと思う。でも、ここで働いていたら、分かるかもしれない。うちに一人、若いコーディネーターがいるんだ。彼と一緒に働いてみたらいい。隣町にある別館で一ヶ月、研修をしてもらって、それからここでアシスタントとして働いてもらいたい」
思ったよりあっさり採用されてしまった。
それから香織里には制服が渡された。パンツスタイルのスーツである。襟に紫のラインが入っていた。式の時には首に黒のスカーフを巻くよう指示され、一ヶ月、隣町にある別館で励んだ。内容としては式の準備、進行の手伝い、片付けだったので、そこまではなんとかこなすことができた。
前の仕事よりも、手応えはあった。自分でも、できることがあると感じたから、そのままこの会社で頑張ろうという気持ちになれた。多分、できる。そんな自信を持って、本館、営業所、ショップがある本社に来た。
「福原一歩。コーディネーターです。よろしく」
その短い挨拶から、アシスタントとしての仕事が始まった。自分の上司が年下だと聞いて驚いたのも束の間、仕事量に香織里は目を回しそうになった。
手配することが多いのだ。遺体の安置をするにも手配がいるし、その他様々な業者に予約することがある。死亡届など書類の準備と提出もあいメモリーは請け負っている。僧侶の手配、式のプランニング、準備、進行、片付け――やることは沢山あった。
一歩はコーディネーターとして長く勤めているらしく、何事も完璧にこなしていた。ヘマをするのは香織里の方ばかりだ。
いくらメモを取っても、頭から抜け落ちてしまう。その度に、一歩からは冷たい視線を送られ、香織里は申し訳ない気持ちでいっぱいになっている。
前職も、迷惑をかけてばかりで辞めた。事務仕事をしていた。普通にできて当たり前のことが、香織里にはできなかった。それでも辞めずにいたのは、他にできる仕事はないと思っていたからだ。そんな中で言い渡された転勤。転勤先でも失敗ばかりで、結局、退職してしまった。
香織里は独身である。他に打ち込むことがないので、働いていないといけないような気がし、退職後すぐに働けそうな場所を探した。求人サイトで見つけたのが、葬儀会社あいメモリーだった。人が選びそうにない仕事なら、すぐに採用されるだろう。そういう軽い気持ちで面接を受けた。
面接をしてくれたのは、社長だった。中肉中背の男だ。松本平次と名乗った社長は、朗らかな声で香織里の緊張をほぐしてくれた。
「僕はね、別れることは、生きることだと思っているんだ。故人を見送るのと同時に、遺された者がこれからを生きるために葬儀をする。それがあいメモリー。そのお手伝いをしてくれる人を求めているんだ。香織里さんはどう思う?」
平次は香織里にそう言った。生きるため。その言葉を聞いて、香織里は考えた。
香織里はこの社会で生きるために、繋がりが欲しくて、どこかに所属したかった。だが、そんな気持ちでは働けないことが、社長の言葉から感じた。
葬儀は故人の人生において、最後の式だ。当たり前のことを香織里は忘れていた。
できるだろうか。人生の最期に携わる仕事など。失敗は許されない。
質問にすぐ答えられなかった香織里に、平次は笑いながら言った。
「ごめんごめん。若い人にはまだ分からないだろうね。考えたこともないと思う。でも、ここで働いていたら、分かるかもしれない。うちに一人、若いコーディネーターがいるんだ。彼と一緒に働いてみたらいい。隣町にある別館で一ヶ月、研修をしてもらって、それからここでアシスタントとして働いてもらいたい」
思ったよりあっさり採用されてしまった。
それから香織里には制服が渡された。パンツスタイルのスーツである。襟に紫のラインが入っていた。式の時には首に黒のスカーフを巻くよう指示され、一ヶ月、隣町にある別館で励んだ。内容としては式の準備、進行の手伝い、片付けだったので、そこまではなんとかこなすことができた。
前の仕事よりも、手応えはあった。自分でも、できることがあると感じたから、そのままこの会社で頑張ろうという気持ちになれた。多分、できる。そんな自信を持って、本館、営業所、ショップがある本社に来た。
「福原一歩。コーディネーターです。よろしく」
その短い挨拶から、アシスタントとしての仕事が始まった。自分の上司が年下だと聞いて驚いたのも束の間、仕事量に香織里は目を回しそうになった。
手配することが多いのだ。遺体の安置をするにも手配がいるし、その他様々な業者に予約することがある。死亡届など書類の準備と提出もあいメモリーは請け負っている。僧侶の手配、式のプランニング、準備、進行、片付け――やることは沢山あった。
一歩はコーディネーターとして長く勤めているらしく、何事も完璧にこなしていた。ヘマをするのは香織里の方ばかりだ。
いくらメモを取っても、頭から抜け落ちてしまう。その度に、一歩からは冷たい視線を送られ、香織里は申し訳ない気持ちでいっぱいになっている。