1章

「実さんも、フミエさんも、茂さんも、揃って老人ホームで過ごしていたらしい。それから、この三人は火葬式だった。これが三人の共通点だ」
 翌日から、四人の見送り計画が始まった。
 一歩が担当した過去のプランシートを保存していたファイルを広げ、実、フミエ、茂の三人の履歴を見る。
 どれも、担当者名が一歩になっている。福原と記入されていた。
 意思疎通ができる三人は、共通の過去があった。それぞれ利用していた老人ホームは別で、実、フミエは介護付き老後ホーム、茂は盲養護老人ホームを利用していた。三人の中では最も明るい表情をしている実だが、彼は寝たきり状態だったようだ。
 三人の葬儀は簡素化されたものだった。火葬だけ行うもので、一般的には直葬や火葬式と呼ばれるものだ。短時間で終わり、費用はかなり抑えられる。最近増えてきた葬式の形だ。
「全部、遺族の希望だった。もちろん、火葬だけでも、旅立てる人はいる。火葬式が悪いわけじゃない。遺族の希望と、故人の希望が噛み合わなかったんだろう。僕はその間を取り持つことができなかった、ということだ」
 一歩がしきりにプランシートの右端を撫でている。撫でているのは、バツ印だ。三人のプランシートにも、他のプランシート数枚にも、右上の隅にバツ印があった。
「このバツはなんですか?」
「見送れなかったという印。僕の失敗の数」
 やっぱり駄目だったなあ、と呟きながら一歩はプランシートを一枚ずつめくっていく。
 一年でこなした式の数はそこそこあった。その一割ほどにバツ印がついている。
「旅立てないまま時間が経つと、いつの間にかホールからいなくなる。彼らがその後どうなっているのか、僕は全く知らない。その度に、申し訳なく思う。本当なら、故人の想いは、遺族から聞き取るべきだった。火葬式という形式を変えなくとも、故人の想いを汲む式をできたかもしれないのに」
 一歩の顔が曇る。
 落ち込んでいる自分の顔を見ているような気がして、香織里はわざと明るく言った。
「お葬式でお見送りができなかったとしても、もう一度、私たちでお見送りをすればいいと思います。社長もそのように言ってくれましたし」
 香織里は、一歩から三人のプランシートを預かり、一通り眺めた。どれも「簡単に終わらせたい」というメモが残っている。遺族にやり直しを求めることは不可能だ。
 香織里の脳裏に、陽向と喜一がケーキを口にした光景が蘇る。
 プランシートをバインダーに挟んだ。
「私、やりたいことがあります。今度は私の話を聞いてくれませんか」

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