Short story
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体育館に業者の清掃が入るとかで放課後の部活が休みになっているその日、下校前に部室へ訪れると予想外にも同級生の姿があった。それも、1人ではなく6人も。
「…あれ、みんな何してるの?」
今日って練習休みだよね、と 誰に対するわけでもなく問えば、お菓子取りに来たらみんな居てさーなんて 敦がゆるゆると答えてくれた。みんな何となく部室に来てしまったという感じなのだろうか。あなた達って何だかんだで仲良しだよね。なんとなく微笑ましくてそう言えば、真ちゃんが心外だとでも言いたげに眉を寄せたから その分かりやすさに笑ってしまった。
「七瀬っちはどうしたんスか?」
「朝練の時にジャージ忘れちゃってさ。……さつきは?」
「知らねー。休みの日ぐらい、あいつも予定あんだろ」
何気なく漏らした私の疑問に、大輝がどうでも良さそうにしながらも答えてくれる。男子人気は当然ながら 同性の友達も多い彼女なのだから、部活が休みとなればお誘いも多いことだろう。それもそっか、と 納得の返事を返す。
そんなやり取りをしながら 棚に置き去りにしてしまっていたジャージが入った手提げ袋を手に取り「じゃあ私は帰るね」そう言おうと振り返れば、みんなカバンを肩に提げて帰宅準備万端の状態になっていた。へ、と間抜けな声が漏れたのは正常な反応だと思う。だって、さっきまで誰もそんな素振り全然見せてなかったのだから。
「えーっと…みんなも帰るの?」
「オレは明日のラッキーアイテムを取りに来ただけなのだよ」
「体育館が使えねーんじゃ 自主練もできねぇし」
「オレは七瀬っちと帰ろうと思って」
不満そうに言う真ちゃんと大輝、ブンブンと振り回す尻尾の幻覚が見えてきそうな涼太、それから まうい棒を片手に欠伸を漏らす敦に、何も言わず静かに部室を出ようとする征ちゃんとテツ君。みんなバラバラなのに時々、妙な団結力を見せるから笑ってしまう。それなら、せっかくだし一緒に帰ろう。そう言えば 涼太以外からの返事は肯定も否定もなかったけれど、みんな揃って部室を出てきたあたり 賛成という解釈でいいのだろう。本当に扱いの難しい面々だと思うけれど、こういうところは微笑ましいとも思う。素直じゃない人間が混ざっているから絶対に口には出さないけれど。
部室棟からぞろぞろと移動して校門を出たところで ちらりと隣を見上げ、ずっと気になっていたことを口にした。
「敦がさっきから食べてるそれ何?」
「んー?まうい棒の新作だってー」
「何味なんスか?」
「豚骨トマト」
「豚骨なの?トマトなの?」
「七瀬ちん食べてみる?」
意外といけるよ、と向けられた まうい棒をじっと見つめた。“怖いもの見たさ”とか“興味本位”とか、そういうのってあると思う。口元に差し出されたそれに、恐る恐るかじり付く。あ、意外といける、そんな感想を抱いたのと「あーあ」なんていう敦の声が降ってきたのは同時だった。首を傾げて見上げた先の敦はニヤリと意地悪な笑みを浮かべながら、私がかじったばかりのまうい棒を サクッと軽い音を立てて口に含む。
「間接キスだね」
「……!?」
告げられた一言に、言葉を失った。まさか、敦の口からそんなセリフが出てくるなんて。予想もしていなかった事態にどんな言葉を返したらいいのかも分からずに、声も出せない口をぱくぱくと開閉させることしかできない。そんな私を背後から誰かが抱きしめて、敦から遠ざけるように身体を引かれた。誰か、なんて こんな事する人は1人しか知らないけれど。
「ちょっと!オレの七瀬っちに何してんスか!!」
涼太はまるで私を隠すようにして、敦を見上げて吠えている。オレのって、誰がよ。突っ込む気にもならず、涼太の腕に大人しく収まりながら やれやれと溜息を吐いた。
すると近付いてきた人影が、黄瀬君、と 涼太の肩を掴む。
「“オレの”ではないです。今すぐ訂正してください」
「え、黒子っちなんか怒ってるんスか?」
「怒ってません。でも聞き捨てなりません」
私の頭上でやいやいと始まった問答に 改めて溜息を吐いて、そっと涼太の腕の中から抜け出した。ちらちと振り返った先の涼太とテツ君の様子に 仲良しだなぁなんて思いながら、少し前を歩く3人に駆け寄った。
「アイツらはいいのかよ?」
「仲良さそうだし、いいんじゃないかな」
後ろから追いついた私に気付いた大輝の問いに肩を竦めながら答えれば、ふーん とさほど興味がなさそうな声が返ってきた。意外にも大輝は こういう気配りができるんだよな、なんてことを思う。本当に意外だけど。
そんなことを考えながらジーっと大輝の横顔を見ていたら、私の視線に気が付いた彼がこちらを振り向いて視線が絡む。そのまま数秒間 見つめ合っていたら、不意に大輝の大きな手が頭に乗せられた。首を傾げるよりも先に その手が私の髪をかき混ぜるみたいに動く。
「え、ちょっと、なに!?」
「七瀬は時々、犬っころみてぇな」
「脈絡もなく すごい失礼だね」
「褒め言葉だろ」
ジトッと睨むような目を向ければ、だから愛でてやってるだろうとでも言いたげに笑った大輝の手はワシャワシャと動き続けている。髪がぐしゃぐしゃじゃないか。今更もう遅いだろうけど、頭の上にある大輝の手首を両手で掴んで 何とかその手の動きを止めた。
「可愛くて愛嬌があるって事でOK?」
「はっ、調子乗んな」
「やー!!」
両手でのホールドをものともせず、大輝の手が私の頭を振り回すように 一段と乱暴に動く。軽い悲鳴を上げながらその手から逃げ出して、乱れた髪を整えながら もう少し前を歩く真ちゃんの側へ寄った。そうすれば「いつでもどこでも騒がしいものだな」と 呆れたような声と視線が降ってきて、苦笑いを返すことしかできない。
「あ、真ちゃん、今度ちょっと化学教えてほしいんだけど」
「甘えるな、佐倉は基本的に優秀なのだから少しぐらい自分で」
「じゃあ征…」
「オレの復習のついでなら構わないのだよ」
ふいっと視線を逸らして眼鏡をブリッジを押し上げながら、私の声を遮って言われたのはその直前とは正反対の言葉で笑ってしまう。本当は優しいくせに、この人は素直じゃなさすぎる。付き合いが長くなってきたから 真ちゃんがそういう性格だということを知っているし、もう慣れてしまったけれど。
「真ちゃんって何だかんだで甘いよね、ありがとう」
「…厳しい方が良ければそうするが?」
「え、ありがとうって言ったじゃん、もっと甘くてもいいぐらいだよ?」
「七瀬」
睨むような視線と共に降ってきた真ちゃんの冷たい声にたじろいでいると、これまで静観を続けていた征の声が私の名前を呼んだ。それと同時に グッと抱き寄せるみたいに肩を引かれ、数歩よろけるように足が動く。その直後、今まで私が立っていた場所を自転車が猛スピードで駆け抜けていってビクリと肩が跳ねた。走り去る自転車を見送ってから 肩を抱かれたまま身体が触れ合う距離にいる征の顔を見上げれば、自転車が去っていった方を見ていた彼は まったく、と深く息を吐いた。
「大丈夫か?」
「あ、うん、ありがとう」
「七瀬はいつまで経っても危なっかしいままだな」
「え、今の私が悪いの?」
「いや、七瀬はそのままでいい」
「…?」
「そのためのオレであり、オレ達だろう?」
征のその言葉の意味はよく分からなかったけれど、いつの間にか肩から離れていた手が私の頬を撫でて、その手が優しくてどきりとする。気恥ずかしくて俯いた私の耳に、結局今日も赤司っちの一人勝ちっスね、なんて ぼやくような涼太の声が聞こえたけれど振り向くことはできなかった。
それでも 何てことのない毎日の、ほんのちょっとした特別の数々を 抱きしめていたいと思う。こんな日がいつまでも続くと信じて疑うこともせず。
「…あれ、みんな何してるの?」
今日って練習休みだよね、と 誰に対するわけでもなく問えば、お菓子取りに来たらみんな居てさーなんて 敦がゆるゆると答えてくれた。みんな何となく部室に来てしまったという感じなのだろうか。あなた達って何だかんだで仲良しだよね。なんとなく微笑ましくてそう言えば、真ちゃんが心外だとでも言いたげに眉を寄せたから その分かりやすさに笑ってしまった。
「七瀬っちはどうしたんスか?」
「朝練の時にジャージ忘れちゃってさ。……さつきは?」
「知らねー。休みの日ぐらい、あいつも予定あんだろ」
何気なく漏らした私の疑問に、大輝がどうでも良さそうにしながらも答えてくれる。男子人気は当然ながら 同性の友達も多い彼女なのだから、部活が休みとなればお誘いも多いことだろう。それもそっか、と 納得の返事を返す。
そんなやり取りをしながら 棚に置き去りにしてしまっていたジャージが入った手提げ袋を手に取り「じゃあ私は帰るね」そう言おうと振り返れば、みんなカバンを肩に提げて帰宅準備万端の状態になっていた。へ、と間抜けな声が漏れたのは正常な反応だと思う。だって、さっきまで誰もそんな素振り全然見せてなかったのだから。
「えーっと…みんなも帰るの?」
「オレは明日のラッキーアイテムを取りに来ただけなのだよ」
「体育館が使えねーんじゃ 自主練もできねぇし」
「オレは七瀬っちと帰ろうと思って」
不満そうに言う真ちゃんと大輝、ブンブンと振り回す尻尾の幻覚が見えてきそうな涼太、それから まうい棒を片手に欠伸を漏らす敦に、何も言わず静かに部室を出ようとする征ちゃんとテツ君。みんなバラバラなのに時々、妙な団結力を見せるから笑ってしまう。それなら、せっかくだし一緒に帰ろう。そう言えば 涼太以外からの返事は肯定も否定もなかったけれど、みんな揃って部室を出てきたあたり 賛成という解釈でいいのだろう。本当に扱いの難しい面々だと思うけれど、こういうところは微笑ましいとも思う。素直じゃない人間が混ざっているから絶対に口には出さないけれど。
部室棟からぞろぞろと移動して校門を出たところで ちらりと隣を見上げ、ずっと気になっていたことを口にした。
「敦がさっきから食べてるそれ何?」
「んー?まうい棒の新作だってー」
「何味なんスか?」
「豚骨トマト」
「豚骨なの?トマトなの?」
「七瀬ちん食べてみる?」
意外といけるよ、と向けられた まうい棒をじっと見つめた。“怖いもの見たさ”とか“興味本位”とか、そういうのってあると思う。口元に差し出されたそれに、恐る恐るかじり付く。あ、意外といける、そんな感想を抱いたのと「あーあ」なんていう敦の声が降ってきたのは同時だった。首を傾げて見上げた先の敦はニヤリと意地悪な笑みを浮かべながら、私がかじったばかりのまうい棒を サクッと軽い音を立てて口に含む。
「間接キスだね」
「……!?」
告げられた一言に、言葉を失った。まさか、敦の口からそんなセリフが出てくるなんて。予想もしていなかった事態にどんな言葉を返したらいいのかも分からずに、声も出せない口をぱくぱくと開閉させることしかできない。そんな私を背後から誰かが抱きしめて、敦から遠ざけるように身体を引かれた。誰か、なんて こんな事する人は1人しか知らないけれど。
「ちょっと!オレの七瀬っちに何してんスか!!」
涼太はまるで私を隠すようにして、敦を見上げて吠えている。オレのって、誰がよ。突っ込む気にもならず、涼太の腕に大人しく収まりながら やれやれと溜息を吐いた。
すると近付いてきた人影が、黄瀬君、と 涼太の肩を掴む。
「“オレの”ではないです。今すぐ訂正してください」
「え、黒子っちなんか怒ってるんスか?」
「怒ってません。でも聞き捨てなりません」
私の頭上でやいやいと始まった問答に 改めて溜息を吐いて、そっと涼太の腕の中から抜け出した。ちらちと振り返った先の涼太とテツ君の様子に 仲良しだなぁなんて思いながら、少し前を歩く3人に駆け寄った。
「アイツらはいいのかよ?」
「仲良さそうだし、いいんじゃないかな」
後ろから追いついた私に気付いた大輝の問いに肩を竦めながら答えれば、ふーん とさほど興味がなさそうな声が返ってきた。意外にも大輝は こういう気配りができるんだよな、なんてことを思う。本当に意外だけど。
そんなことを考えながらジーっと大輝の横顔を見ていたら、私の視線に気が付いた彼がこちらを振り向いて視線が絡む。そのまま数秒間 見つめ合っていたら、不意に大輝の大きな手が頭に乗せられた。首を傾げるよりも先に その手が私の髪をかき混ぜるみたいに動く。
「え、ちょっと、なに!?」
「七瀬は時々、犬っころみてぇな」
「脈絡もなく すごい失礼だね」
「褒め言葉だろ」
ジトッと睨むような目を向ければ、だから愛でてやってるだろうとでも言いたげに笑った大輝の手はワシャワシャと動き続けている。髪がぐしゃぐしゃじゃないか。今更もう遅いだろうけど、頭の上にある大輝の手首を両手で掴んで 何とかその手の動きを止めた。
「可愛くて愛嬌があるって事でOK?」
「はっ、調子乗んな」
「やー!!」
両手でのホールドをものともせず、大輝の手が私の頭を振り回すように 一段と乱暴に動く。軽い悲鳴を上げながらその手から逃げ出して、乱れた髪を整えながら もう少し前を歩く真ちゃんの側へ寄った。そうすれば「いつでもどこでも騒がしいものだな」と 呆れたような声と視線が降ってきて、苦笑いを返すことしかできない。
「あ、真ちゃん、今度ちょっと化学教えてほしいんだけど」
「甘えるな、佐倉は基本的に優秀なのだから少しぐらい自分で」
「じゃあ征…」
「オレの復習のついでなら構わないのだよ」
ふいっと視線を逸らして眼鏡をブリッジを押し上げながら、私の声を遮って言われたのはその直前とは正反対の言葉で笑ってしまう。本当は優しいくせに、この人は素直じゃなさすぎる。付き合いが長くなってきたから 真ちゃんがそういう性格だということを知っているし、もう慣れてしまったけれど。
「真ちゃんって何だかんだで甘いよね、ありがとう」
「…厳しい方が良ければそうするが?」
「え、ありがとうって言ったじゃん、もっと甘くてもいいぐらいだよ?」
「七瀬」
睨むような視線と共に降ってきた真ちゃんの冷たい声にたじろいでいると、これまで静観を続けていた征の声が私の名前を呼んだ。それと同時に グッと抱き寄せるみたいに肩を引かれ、数歩よろけるように足が動く。その直後、今まで私が立っていた場所を自転車が猛スピードで駆け抜けていってビクリと肩が跳ねた。走り去る自転車を見送ってから 肩を抱かれたまま身体が触れ合う距離にいる征の顔を見上げれば、自転車が去っていった方を見ていた彼は まったく、と深く息を吐いた。
「大丈夫か?」
「あ、うん、ありがとう」
「七瀬はいつまで経っても危なっかしいままだな」
「え、今の私が悪いの?」
「いや、七瀬はそのままでいい」
「…?」
「そのためのオレであり、オレ達だろう?」
征のその言葉の意味はよく分からなかったけれど、いつの間にか肩から離れていた手が私の頬を撫でて、その手が優しくてどきりとする。気恥ずかしくて俯いた私の耳に、結局今日も赤司っちの一人勝ちっスね、なんて ぼやくような涼太の声が聞こえたけれど振り向くことはできなかった。
それでも 何てことのない毎日の、ほんのちょっとした特別の数々を 抱きしめていたいと思う。こんな日がいつまでも続くと信じて疑うこともせず。
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