リリカル・スピカ
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目が合うってことは、佐倉も影山を見てるっつーことだろ。眠ろうとベッドに入ってからも昼休みに言われたその言葉が頭の中でグルグルと何度も駆け巡り、意識しないようにしても色んなことを考えてしまった。田中が言うように私は、影山を見ているのだろうか。私が影山を見ていたとして、じゃあ影山は?目が合うと言うことは、向こうもこちらを見ているという事は間違いないわけで。それならどうして影山と目が合うのだろう。
結局そんなことを考えてしまっていたら答えが出るはずもないのに、田中のせいで あまり良く眠れないまま朝を迎えてしまった。
頭も身体も重たい。だけど学校には行かなければならない。今日がたまたま朝練がない日で良かった。そんなことを考えながらノロノロと準備をして、いつもより何倍も重い足取りで登校する。
(なんでこういう日に限って体育があるかなぁ…!)
しかも、暑苦しいほどの好天の下 グラウンドでの授業。今日の体調で直射日光を浴びながら活動するのは辛いなぁなんて思うけれど、授業なのだから仕方がない。気合いを入れて頑張ろう。
そんな思いで挑んだ午前中最後の授業。友達に顔色が悪いと言われたけれど、不思議と気分の悪さなどはない。だから意外と大丈夫なのだと普通に授業を受けていた、のに。
30分も経たないうちに 突然ぐにゃりと視界が歪んだ。目は開いているはずなのに目の前が黒く染まっていく。平衡感覚がなくなり脚の力が抜けて、気が付いた時には膝から崩れ落ちるように地面に座り込んでいた。七瀬!と 友達が心配そうに私を呼ぶ声と、ざわざわと周りが騒がしくなった音が 随分と遠くから聞こえたような気がした。ガンガンと頭の中で脈打つような感覚がする。
「おーい、誰かバレー部……お、縁下、ちょっと来てくれ!」
先生のその声が 少し離れた場所で授業をしていた男子たちの方に向けられたもので、体育は隣のクラスと合同授業である為そこに含まれている縁下が呼ばれたのだと理解できたけれど、落ち着いてきたとは言えまだグラグラと揺れる視界に身動きが取れない。
「え、佐倉 大丈夫?おぶる?」
駆け寄ってきた縁下の心配そうな声に、大丈夫だから、と なんて事ないように立ち上がったら見事にふらついてしまって、縁下が咄嗟に腕を掴んで支えてくれた。支えられたまま、またゆっくりと地面に座り込めば 呆れたようなため息が聞こえる。
「保健室 連れてくから。そのために俺が呼ばれたんだし」
「私、潔子さんみたいにスリムじゃないから重たいよ」
「重くても筋トレになるから大丈夫」
「それはフォロー?追い討ち?」
「佐倉の体重が何キロでも関係ないってこと」
こちらに背中を向けてしゃがんでくれた縁下に、ごめんと一言謝ってから その背中に乗り掛かる。よっ、と立ち上がった縁下はふらつくことなく平然と歩き始めて、決して身体が大きい方ではないはずなのに男の子ってすごいなぁ、なんてそんなことを考えた。「あんまり下らない事で悩むなよ」ゆらゆらと歩調に合わせて揺れるのが心地よくて、ぼんやりと微睡み始めた意識の中で そんな声が聞こえた。「下らない事なのかな」あまり回転していない頭で ほとんど無意識のうちに返した言葉に、縁下は あー、と 言葉を詰まらせる。
「下らないってのは違うか…分かり切ってることで悩むなよ」
「何それ…分かり切ってたら悩まないし…ていうか悩んでないし」
はいはい、と軽く返事をする縁下の声は何だか楽しそうに聞こえて釈然としない。けれど突っかかる気力もなくて、そのことには触れないで受け流すことを選んだ。
程なくして到着した保健室には「教諭 出張のため不在」の張り紙があったけれど、私はただの寝不足でしかないので先生がいてもいなくても寝られれば問題ない。縁下にそう言えば、了解の返事をして無人の保健室に入り ベッドの上に下ろしてくれた。
「大地さんには言っておくから、部活も無理するなよ」
「ちょっと休めば治るから、言わなくていいよ」
「じゃあさっさと寝てろ。寝不足なんだろ」
呆れたように息を吐いた縁下に 小突くように額を押され、その力に逆らわず どさりベッドに倒れ込む。「はぁい。……ありがとね」素直に返事をして、ぽつりと最後にお礼を述べる。なんだか気恥ずかしいけれど、迷惑をかけたのだからお礼を言うのは人として当然だろう。呟くような声だったと思うけれど、縁下にはちゃんと届いていたらしい。気にするなとそう言って保健室を出ていく背中を見送りながら、やっぱり縁下はいいやつだな、なんて 分かり切っていたことを思う。するとすぐに瞼が重たくなってきて、その眠気に抗うこともせず私は意識を手放した。
◇
それからどれぐらい眠っていたのだろう。ふわりと意識が浮上して、目を開く。時間を確認しようと上半身を起こしてたところで、枕元に制服が置かれていることに気が付いた。制服の上には「大人しく寝てろ!」と何とも男らしい筆跡で書かれたメモが乗せてあって、同じクラスの西谷によるものだと理解する。いつの間に届けてくれたんだろう、全然気が付かなかったな。後でお礼を言おうと心に決め、スカートのポケットから携帯を取り出して時間を確認すれば、まだお昼休みだ。随分と長い時間寝ていたような気がするけれど、それだけ熟睡していたということだろうか。いくらか身体は軽くなったから とりあえず着替えだけして、それからもう少しだけ休もう。そう思って制服に手を伸ばした。
シャツのボタンを止め、着替えが終わったとほぼ同時に ガラリとドアが開く音が聞こえた。そして急ぐような足音が近付いてきて、ベッドを仕切るカーテンの向こうで止まる。
「七瀬さん!」
「……え?」
「開けて大丈夫ですか?」
聞こえた声に間抜けな声が漏れた。だって、この声、この呼び方って。軽くパニックに陥った私は え、とか あ、とか まともな返事をできないでいて「七瀬さん?開けますよ」怪訝そうな声で断りが入ってから、ゆっくりとカーテンが開けられる。そしてそこから顔を出したのは、想像通りの人物だった。
「か、影山…?え、どうしたの…?」
「縁下さんに、七瀬さんが倒れたって聞いて」
「は…?」
「大丈夫そうで良かったです」
ほっと 心底安心したように息を吐いた影山から目が離せなくなる。そう言えば、つい先ほど姿を見せた時の影山の呼吸は 乱れると言う程ではないけど確かに少し速くて。縁下に聞いて、慌てて来てくれたのかと思うと きゅうっと心臓に痛みが走った。胸が、いたい。私の体調は自分で思ってる以上に良くないのかもしれない。
結局そんなことを考えてしまっていたら答えが出るはずもないのに、田中のせいで あまり良く眠れないまま朝を迎えてしまった。
頭も身体も重たい。だけど学校には行かなければならない。今日がたまたま朝練がない日で良かった。そんなことを考えながらノロノロと準備をして、いつもより何倍も重い足取りで登校する。
(なんでこういう日に限って体育があるかなぁ…!)
しかも、暑苦しいほどの好天の下 グラウンドでの授業。今日の体調で直射日光を浴びながら活動するのは辛いなぁなんて思うけれど、授業なのだから仕方がない。気合いを入れて頑張ろう。
そんな思いで挑んだ午前中最後の授業。友達に顔色が悪いと言われたけれど、不思議と気分の悪さなどはない。だから意外と大丈夫なのだと普通に授業を受けていた、のに。
30分も経たないうちに 突然ぐにゃりと視界が歪んだ。目は開いているはずなのに目の前が黒く染まっていく。平衡感覚がなくなり脚の力が抜けて、気が付いた時には膝から崩れ落ちるように地面に座り込んでいた。七瀬!と 友達が心配そうに私を呼ぶ声と、ざわざわと周りが騒がしくなった音が 随分と遠くから聞こえたような気がした。ガンガンと頭の中で脈打つような感覚がする。
「おーい、誰かバレー部……お、縁下、ちょっと来てくれ!」
先生のその声が 少し離れた場所で授業をしていた男子たちの方に向けられたもので、体育は隣のクラスと合同授業である為そこに含まれている縁下が呼ばれたのだと理解できたけれど、落ち着いてきたとは言えまだグラグラと揺れる視界に身動きが取れない。
「え、佐倉 大丈夫?おぶる?」
駆け寄ってきた縁下の心配そうな声に、大丈夫だから、と なんて事ないように立ち上がったら見事にふらついてしまって、縁下が咄嗟に腕を掴んで支えてくれた。支えられたまま、またゆっくりと地面に座り込めば 呆れたようなため息が聞こえる。
「保健室 連れてくから。そのために俺が呼ばれたんだし」
「私、潔子さんみたいにスリムじゃないから重たいよ」
「重くても筋トレになるから大丈夫」
「それはフォロー?追い討ち?」
「佐倉の体重が何キロでも関係ないってこと」
こちらに背中を向けてしゃがんでくれた縁下に、ごめんと一言謝ってから その背中に乗り掛かる。よっ、と立ち上がった縁下はふらつくことなく平然と歩き始めて、決して身体が大きい方ではないはずなのに男の子ってすごいなぁ、なんてそんなことを考えた。「あんまり下らない事で悩むなよ」ゆらゆらと歩調に合わせて揺れるのが心地よくて、ぼんやりと微睡み始めた意識の中で そんな声が聞こえた。「下らない事なのかな」あまり回転していない頭で ほとんど無意識のうちに返した言葉に、縁下は あー、と 言葉を詰まらせる。
「下らないってのは違うか…分かり切ってることで悩むなよ」
「何それ…分かり切ってたら悩まないし…ていうか悩んでないし」
はいはい、と軽く返事をする縁下の声は何だか楽しそうに聞こえて釈然としない。けれど突っかかる気力もなくて、そのことには触れないで受け流すことを選んだ。
程なくして到着した保健室には「教諭 出張のため不在」の張り紙があったけれど、私はただの寝不足でしかないので先生がいてもいなくても寝られれば問題ない。縁下にそう言えば、了解の返事をして無人の保健室に入り ベッドの上に下ろしてくれた。
「大地さんには言っておくから、部活も無理するなよ」
「ちょっと休めば治るから、言わなくていいよ」
「じゃあさっさと寝てろ。寝不足なんだろ」
呆れたように息を吐いた縁下に 小突くように額を押され、その力に逆らわず どさりベッドに倒れ込む。「はぁい。……ありがとね」素直に返事をして、ぽつりと最後にお礼を述べる。なんだか気恥ずかしいけれど、迷惑をかけたのだからお礼を言うのは人として当然だろう。呟くような声だったと思うけれど、縁下にはちゃんと届いていたらしい。気にするなとそう言って保健室を出ていく背中を見送りながら、やっぱり縁下はいいやつだな、なんて 分かり切っていたことを思う。するとすぐに瞼が重たくなってきて、その眠気に抗うこともせず私は意識を手放した。
◇
それからどれぐらい眠っていたのだろう。ふわりと意識が浮上して、目を開く。時間を確認しようと上半身を起こしてたところで、枕元に制服が置かれていることに気が付いた。制服の上には「大人しく寝てろ!」と何とも男らしい筆跡で書かれたメモが乗せてあって、同じクラスの西谷によるものだと理解する。いつの間に届けてくれたんだろう、全然気が付かなかったな。後でお礼を言おうと心に決め、スカートのポケットから携帯を取り出して時間を確認すれば、まだお昼休みだ。随分と長い時間寝ていたような気がするけれど、それだけ熟睡していたということだろうか。いくらか身体は軽くなったから とりあえず着替えだけして、それからもう少しだけ休もう。そう思って制服に手を伸ばした。
シャツのボタンを止め、着替えが終わったとほぼ同時に ガラリとドアが開く音が聞こえた。そして急ぐような足音が近付いてきて、ベッドを仕切るカーテンの向こうで止まる。
「七瀬さん!」
「……え?」
「開けて大丈夫ですか?」
聞こえた声に間抜けな声が漏れた。だって、この声、この呼び方って。軽くパニックに陥った私は え、とか あ、とか まともな返事をできないでいて「七瀬さん?開けますよ」怪訝そうな声で断りが入ってから、ゆっくりとカーテンが開けられる。そしてそこから顔を出したのは、想像通りの人物だった。
「か、影山…?え、どうしたの…?」
「縁下さんに、七瀬さんが倒れたって聞いて」
「は…?」
「大丈夫そうで良かったです」
ほっと 心底安心したように息を吐いた影山から目が離せなくなる。そう言えば、つい先ほど姿を見せた時の影山の呼吸は 乱れると言う程ではないけど確かに少し速くて。縁下に聞いて、慌てて来てくれたのかと思うと きゅうっと心臓に痛みが走った。胸が、いたい。私の体調は自分で思ってる以上に良くないのかもしれない。