リリカル・スピカ
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昼休みの教室で数個の机を突き合わせて作った島での食事を終え、やいやいと雑談を繰り広げていた。飲み物を買いに行くという西谷と成田を見送りながら、私は空になったお弁当箱を巾着袋に仕舞う。
そう、今日の昼食はバレー部の同級生たちと共に食べていた。この状況に至った理由は割愛するけれど、今日は諸々の事情が重なり結果的にこうなっただけだで、決して普段から一緒に昼食を食べているわけではない。私たちは仲が良い方だとは思うから、こうやって部活中以外に集まって昼食をとるのも新鮮で楽しかったと思う。他愛もない雑談をしながら人知れず いつもとは少し違う昼休みに満足していると、そういえば、とおもむろに縁下が切り出した。
「最近、部活中に佐倉が難しい顔してることが多い気がするけど」
「え、うそ」
「あー分かる分かる」
「何かあった?」
縁下の言葉に木下も同調して、私は一体 部活中にどんな顔をしてるのだろうかと不安になる。縁下や木下がいう“難しい顔”というのは、先日 月島に言われた“深刻な顔”ときっと同じ意味で、あれ、部活中に私はそんなに顔に出ているのだろうか。もっとちゃんと練習に集中しなくちゃ。そう思えば苦笑いが漏れたけれど、彼らは純粋に気に掛けてくれているのだと分かるから 苦笑をそのままに口を開いた。
「最近よく影山と目が合う気がして。なんでかなーって」
「なんだぁ?影山は佐倉に惚れてんのか?」
「は?影山だよ?それはないから どうしてかなって話をしてるの」
「だろうなぁ!潔子さんならいざ知らず、佐倉はないな」
「田中あんた覚えてなさいよ…もうテスト前に助けてあげない」
「な…!? お、落ち着け佐倉、言葉の綾だ…!」
カラカラと豪快に笑っていたくせに、私の一言でオロオロと狼狽え始めた田中にベーッと舌を出してやる。私なんか潔子さんと比べることさえ烏滸がましいと思うし、そんなの分かりきっている事だ。だけど改めてハッキリと、しかも田中に言われると腹が立つ。田中とギャーギャー言い合っていると背後から、たしかにな、と よく通る声が聞こえてきた。振り向けば紙パックの牛乳を啜りながら仁王立ちしている西谷がいて、相変わらず立ってるだけでカッコいいな西谷は。
「潔子さんとは違うが、七瀬もいい女だからな!」
「にしのやぁ…!」
「影山が惚れてても不思議じゃねーだろ」
「おお…!さすがノヤッさん、言うことが違うぜ…!」
「どうしよう今キュンとした!西谷の背があと15センチ高かったら惚れてたね」
「七瀬てめぇぇぇ!俺のフォローを返せ!!」
椅子に座っていた私に西谷が飛び掛かってきて、グシャグシャと両手で容赦なく髪を乱される。「やーめーてー!」「うるせぇ!今の発言は聞き捨てならねぇ!」今度は西谷と騒いでいると、つーかよ、と 妙に落ち着いた田中の声が聴こえたから 振り向いて首を傾げた。
「目が合うってことは、佐倉も影山を見てるっつーことだろ」
「……は?」
その発想はなかった。田中の一言にぽかんと呆けることしかできない。たしかに、目が合うという事は お互いが向き合わなければ起こり得ないことで、それはつまり 私も影山を見てるということになる。でもそれは視線を感じて振り向いたら目が合うっていう話で、別に私が影山を見ているわけではない…けど、視線が合っている以上 私も影山の方を向いているという事実には変わりはないのか。
ぐるぐると駆け巡る思考のために時間が止まったような感覚になっていた私の耳に、なぁ、と 成田の控えめな声が届いて意識が戻ってくる。
「佐倉、今日は委員会あるって言ってなかった?」
「…あ!やば!ごめん行ってくる!」
成田に言われて時計を見れば、委員会の会議が始まる3分前だった。勢いよく椅子から立ち上がり、みんなに一言声をかけてから お弁当箱の巾着を手に持ち 大慌てで駆け出した。転ぶなよ、と縁下の声が教室を出る直前に聞こえて、どうしてみんな私が転ぶことを心配するのかと 嘆かわしくなる。みんなの前で転んだことなんてないはずなのに。そんなことを考えながら、会議が行われる教室へと急いだ。
◇
ギリギリで間に合った委員会が終わり、今度はゆっくりとした足取りで教室へと戻っていた。階段を下りて1年階に立ち入ったところで「佐倉先輩!」と私の名前を呼ぶ元気な声が聞こえる。そちらへ目を向けると、生徒の間をすり抜けるように駆け寄ってくる日向の姿が見えた。「あ、日向」「チワッス!」私の傍まで来た日向は挨拶をしてくれるから、おつかれ、と笑顔で返す。
「佐倉先輩が1年階にいるの珍しいですね」
「委員会があってさ、その帰り」
少し不思議そうに言う日向に理由を説明すれば、なるほど、と素直に頷いてくれる。そんな彼の姿をジッと見つめていたら、私の視線に気付いた日向が首を傾げた。
「あ、いや、日向って 潔子さんと話すときは緊張して挙動不審になるでしょ?」
「ぐっ…!」
「でも私相手の時は普通だなぁって」
「そ、それは」
頭の中に浮かんだのは田中に言われた言葉で、何気なくそんな事が口から出てきた。それを聞いた日向は分かりやすく狼狽えはじめて何だか悪いことをしてしまった気がする。別に潔子さんに対する時との態度の違いを責めたいわけではなくて、ただ単純に、日向は私には普通に接してくれてるよなぁと そんな事を考えただけだ。
「ごめんごめん、深い意味はないの。潔子さんは高嶺の花なの分かるもん」
「……?あの、でも佐倉先輩は」
「七瀬さん」
日向が何かを言いかけた時、また別の声が私を呼ぶ。振り向けば先ほどの日向と同様に、生徒たちを掻き分けるように早足でこちらへ向かって来る影山が見えた。背が高いから目立つなぁ なんて、その姿を見ながら そんなことを思った。
「おつかれ、影山」
「チワッス」
「どうかした?」
「いや、七瀬さんが見えたから」
なんて事の無いように言われた言葉に、ポカンと呆けて瞬きをする。それはつまり、私の姿が見えたから ただ挨拶をしに来てくれたということで。影山は時々、こういう可愛いところがあると思う。例えるとすれば、気難しい猫が懐いてくれたみたいな、そんな嬉しさが胸を占めた。
「お前そいうとこ、ほんとスゲェよな」
「あ?お前と どう違うんだよ」
「お、おれは佐倉先輩が1年階に居るのが珍しくてだな」
「じゃあ俺も同じだボゲ」
ギャーギャーとケンカを始めた目の前の2人を見ながら堪らず笑ってしまう。くだらないことでケンカしないの。そう2人を諫めた私の声は笑ってしまっていて震えていたかもしれない。それでも 今にも取っ組み合いでも始めそうな勢いだった影山と日向はピタリと動きを止め、2人そろってこちらに顔を向けたまま じっと視線が注がれる。不思議に思って首を傾げれば、やっぱり、と影山が落ち着きを取り戻した声で言う。
「七瀬さんは笑ってた方がいいです」
その一言で、今度は私の方が動きを止めてしまう番となる。深い意味などないと知りながら、言葉の意味を探ってしまう。なんだか恥ずかしくなって、左手で前髪を押さえるように俯いて顔を隠す。やっぱお前すげぇよな という日向の声は確かに耳に入ったはずなのに、そのまま通り過ぎて行った。
やっぱり、あの日から絶対に何かがおかしい気がする。
そう、今日の昼食はバレー部の同級生たちと共に食べていた。この状況に至った理由は割愛するけれど、今日は諸々の事情が重なり結果的にこうなっただけだで、決して普段から一緒に昼食を食べているわけではない。私たちは仲が良い方だとは思うから、こうやって部活中以外に集まって昼食をとるのも新鮮で楽しかったと思う。他愛もない雑談をしながら人知れず いつもとは少し違う昼休みに満足していると、そういえば、とおもむろに縁下が切り出した。
「最近、部活中に佐倉が難しい顔してることが多い気がするけど」
「え、うそ」
「あー分かる分かる」
「何かあった?」
縁下の言葉に木下も同調して、私は一体 部活中にどんな顔をしてるのだろうかと不安になる。縁下や木下がいう“難しい顔”というのは、先日 月島に言われた“深刻な顔”ときっと同じ意味で、あれ、部活中に私はそんなに顔に出ているのだろうか。もっとちゃんと練習に集中しなくちゃ。そう思えば苦笑いが漏れたけれど、彼らは純粋に気に掛けてくれているのだと分かるから 苦笑をそのままに口を開いた。
「最近よく影山と目が合う気がして。なんでかなーって」
「なんだぁ?影山は佐倉に惚れてんのか?」
「は?影山だよ?それはないから どうしてかなって話をしてるの」
「だろうなぁ!潔子さんならいざ知らず、佐倉はないな」
「田中あんた覚えてなさいよ…もうテスト前に助けてあげない」
「な…!? お、落ち着け佐倉、言葉の綾だ…!」
カラカラと豪快に笑っていたくせに、私の一言でオロオロと狼狽え始めた田中にベーッと舌を出してやる。私なんか潔子さんと比べることさえ烏滸がましいと思うし、そんなの分かりきっている事だ。だけど改めてハッキリと、しかも田中に言われると腹が立つ。田中とギャーギャー言い合っていると背後から、たしかにな、と よく通る声が聞こえてきた。振り向けば紙パックの牛乳を啜りながら仁王立ちしている西谷がいて、相変わらず立ってるだけでカッコいいな西谷は。
「潔子さんとは違うが、七瀬もいい女だからな!」
「にしのやぁ…!」
「影山が惚れてても不思議じゃねーだろ」
「おお…!さすがノヤッさん、言うことが違うぜ…!」
「どうしよう今キュンとした!西谷の背があと15センチ高かったら惚れてたね」
「七瀬てめぇぇぇ!俺のフォローを返せ!!」
椅子に座っていた私に西谷が飛び掛かってきて、グシャグシャと両手で容赦なく髪を乱される。「やーめーてー!」「うるせぇ!今の発言は聞き捨てならねぇ!」今度は西谷と騒いでいると、つーかよ、と 妙に落ち着いた田中の声が聴こえたから 振り向いて首を傾げた。
「目が合うってことは、佐倉も影山を見てるっつーことだろ」
「……は?」
その発想はなかった。田中の一言にぽかんと呆けることしかできない。たしかに、目が合うという事は お互いが向き合わなければ起こり得ないことで、それはつまり 私も影山を見てるということになる。でもそれは視線を感じて振り向いたら目が合うっていう話で、別に私が影山を見ているわけではない…けど、視線が合っている以上 私も影山の方を向いているという事実には変わりはないのか。
ぐるぐると駆け巡る思考のために時間が止まったような感覚になっていた私の耳に、なぁ、と 成田の控えめな声が届いて意識が戻ってくる。
「佐倉、今日は委員会あるって言ってなかった?」
「…あ!やば!ごめん行ってくる!」
成田に言われて時計を見れば、委員会の会議が始まる3分前だった。勢いよく椅子から立ち上がり、みんなに一言声をかけてから お弁当箱の巾着を手に持ち 大慌てで駆け出した。転ぶなよ、と縁下の声が教室を出る直前に聞こえて、どうしてみんな私が転ぶことを心配するのかと 嘆かわしくなる。みんなの前で転んだことなんてないはずなのに。そんなことを考えながら、会議が行われる教室へと急いだ。
◇
ギリギリで間に合った委員会が終わり、今度はゆっくりとした足取りで教室へと戻っていた。階段を下りて1年階に立ち入ったところで「佐倉先輩!」と私の名前を呼ぶ元気な声が聞こえる。そちらへ目を向けると、生徒の間をすり抜けるように駆け寄ってくる日向の姿が見えた。「あ、日向」「チワッス!」私の傍まで来た日向は挨拶をしてくれるから、おつかれ、と笑顔で返す。
「佐倉先輩が1年階にいるの珍しいですね」
「委員会があってさ、その帰り」
少し不思議そうに言う日向に理由を説明すれば、なるほど、と素直に頷いてくれる。そんな彼の姿をジッと見つめていたら、私の視線に気付いた日向が首を傾げた。
「あ、いや、日向って 潔子さんと話すときは緊張して挙動不審になるでしょ?」
「ぐっ…!」
「でも私相手の時は普通だなぁって」
「そ、それは」
頭の中に浮かんだのは田中に言われた言葉で、何気なくそんな事が口から出てきた。それを聞いた日向は分かりやすく狼狽えはじめて何だか悪いことをしてしまった気がする。別に潔子さんに対する時との態度の違いを責めたいわけではなくて、ただ単純に、日向は私には普通に接してくれてるよなぁと そんな事を考えただけだ。
「ごめんごめん、深い意味はないの。潔子さんは高嶺の花なの分かるもん」
「……?あの、でも佐倉先輩は」
「七瀬さん」
日向が何かを言いかけた時、また別の声が私を呼ぶ。振り向けば先ほどの日向と同様に、生徒たちを掻き分けるように早足でこちらへ向かって来る影山が見えた。背が高いから目立つなぁ なんて、その姿を見ながら そんなことを思った。
「おつかれ、影山」
「チワッス」
「どうかした?」
「いや、七瀬さんが見えたから」
なんて事の無いように言われた言葉に、ポカンと呆けて瞬きをする。それはつまり、私の姿が見えたから ただ挨拶をしに来てくれたということで。影山は時々、こういう可愛いところがあると思う。例えるとすれば、気難しい猫が懐いてくれたみたいな、そんな嬉しさが胸を占めた。
「お前そいうとこ、ほんとスゲェよな」
「あ?お前と どう違うんだよ」
「お、おれは佐倉先輩が1年階に居るのが珍しくてだな」
「じゃあ俺も同じだボゲ」
ギャーギャーとケンカを始めた目の前の2人を見ながら堪らず笑ってしまう。くだらないことでケンカしないの。そう2人を諫めた私の声は笑ってしまっていて震えていたかもしれない。それでも 今にも取っ組み合いでも始めそうな勢いだった影山と日向はピタリと動きを止め、2人そろってこちらに顔を向けたまま じっと視線が注がれる。不思議に思って首を傾げれば、やっぱり、と影山が落ち着きを取り戻した声で言う。
「七瀬さんは笑ってた方がいいです」
その一言で、今度は私の方が動きを止めてしまう番となる。深い意味などないと知りながら、言葉の意味を探ってしまう。なんだか恥ずかしくなって、左手で前髪を押さえるように俯いて顔を隠す。やっぱお前すげぇよな という日向の声は確かに耳に入ったはずなのに、そのまま通り過ぎて行った。
やっぱり、あの日から絶対に何かがおかしい気がする。