リリカル・スピカ
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影山と並んで帰途を歩く。会話は特にないけれど、ふしぎと居心地の悪さは感じない。だけど先程からドキドキと早鐘を打つ心臓の音が、隣を歩く影山に聞こえてしまうのではないかと ただそれだけが心配だった。「… 七瀬さんは」そう言って歩みを止めた影山に釣られるように足を止め、隣を見上げれば影山と視線が絡む。逸らせなくなるような、逃げたくなるような、惹き込まれるような、真っ直ぐな瞳。
「怖いって言ってましたけど、どういう意味ですか?」
投げかけられたのは、きっと純粋な疑問だったのだろう。あの日、私は“怖い”と言った。“彼が”ではない。彼が私に向ける感情が“自分の期待するものではないこと”が。推測でしかない話、可能性の話でしかないことを理由に 私は影山の前から逃げ出した。呆れられて当然の行いだったはずなのに、それでも彼は尚もこうして真っ直ぐに私と向き合ってくれようとしている。影山は眩しいね。思わず私の口から零れたのはそんな言葉で、当の本人は意味が分からないと言いたげに首を傾げた。
「影山は、怖いと思うことない?」
「…?」
「期待して、だけど事実が期待と違っていたらどうしようって」
「……俺には よく分かりません」
「だよね」
返された言葉はなんとも彼らしくて、思わず笑ってしまった。それはきっと影山には無縁な感覚なのだ。悪い意味ではなくて、彼はこうして真っ直ぐにぶつかっていけるから。分からないからと一人で恐れるのではなく、真意を問う強さがある影山には縁のない話だろう。
それを「あなたには分からない」と言いたいわけではなくて、そんな彼を相手に一方的に押し付けたあの日の自分を情けなく思うだけ。だからせめて、今度は逃げずに向き合いたい。
「ずっと考えてたの。影山は私のことどう思ってるのかなって」
「…! 俺は、」
「期待してたんだよね、無意識に。それに気付いたら、怖くなった」
「……俺は、どうしたら他の人たちと同じになれるか考えてました」
「え?」
「七瀬さんは 誰かに触れられても笑うのに、俺に対してだけはそうじゃない」
例えば、大地さんや旭さんが頭を撫でてくれるとか。孝支くんが何の気なしにハグするとか。田中や西谷がふざけて肩を組むこととか。縁下に負ぶって運ばれたとか。危険回避のため月島に肩を抱かれたとか。そういう時に私はきっと、何かを意識することもなく笑っていたのだろう。でも、相手が影山だったらどうだろう。身体の近さに呼吸が止まり、心臓が暴れ出し、思考は停止する。とても笑える状態ではない。でもそれは負の感情からではなくて、影山が特別だから。だけど私はそれを口にしたことはなくて、私の心情を知る由もない影山にとって、それは果たしてどう見えていたのだろう。そう考えれば チクリと胸が痛んだ。
伝えたい事を口にする恥ずかしさ。それに負けて誤魔化してしまいたくなる。察してはくれないかと思いたくなるけれど、向き合いたいと思ったばかりでもある。今、ここで言わないと もう二度と伝えられない気がした。
「…影山は違うの。みんなとは、違う」
なんて不器用で拙いことば。それでも影山は、急かすわけでもなく、問い詰めるわけでもなく、じっと耳を傾けて待ってくれる。これじゃあ どっちが先輩か分からないな。そんなことを考えたら少し気持ちが楽になった気がするけれど、次の言葉が出てこない。こんなにも伝えたいと思うのに、どんな言葉を選べばいいのかが分からない。
言葉にしたい、間違えたくない、伝えたい、言葉が出てこない。ぐるぐると思考を巡らせるばかりで口ごもる私の頭上から、七瀬さん、と影山の声が聞こえた。顔を上げれば視線が交わり、何年も前から変わらない強い瞳を 綺麗だと思った。
「俺は、七瀬さんが好きです。誰にも触らせたくないぐらい」
まっすぐな、ことば。耳に届いた影山の声は、いつもよりずっと甘く響いた気がして思わず目を伏せた。一瞬で顔に熱が集まったのが分かったし、どんな顔でどんな言葉を返したらいいのか分からないけれど。その言葉以上に欲しかったものなんて何もない。
影山は、出会った時からいつでも真っ直ぐだった。良くも悪くも素直で、裏表がなくて、彼の言葉はただただ真っ直ぐ心に届く。だから私には影山が眩しすぎて、少し怖くて、そして誰よりも愛おしい。この気持ちを伝えたら、君はどんな顔をするだろう。
まだ照れを捨てきれない私は視線を下げたまま、影山の左手の指先を きゅっと握る。その瞬間、彼が僅かに息を飲んだのが分かった。きっと、この心を伝えるのに余計な思考など必要ないのだ。
「…恥ずかしいから、一回しか言わないよ」
私の声は 少し震えていた。恥ずかしいのか、怖いのか、自分でもよく分からないけれど。誰よりも眩しい君に、溢れ出す愛しさの全てを伝えたい。上手く言葉に出来そうにないけれど、どうか 聞いてほしい。
私が言葉を発した直後に身体を掻き抱かれ、触れ合う影山の体温が心地よくて この熱に浮かされていたいと思った。彼の背中に腕を回してそっと触れ、言葉に出来ない想いも伝わりますようにと 祈るように目を閉じる。
「怖いって言ってましたけど、どういう意味ですか?」
投げかけられたのは、きっと純粋な疑問だったのだろう。あの日、私は“怖い”と言った。“彼が”ではない。彼が私に向ける感情が“自分の期待するものではないこと”が。推測でしかない話、可能性の話でしかないことを理由に 私は影山の前から逃げ出した。呆れられて当然の行いだったはずなのに、それでも彼は尚もこうして真っ直ぐに私と向き合ってくれようとしている。影山は眩しいね。思わず私の口から零れたのはそんな言葉で、当の本人は意味が分からないと言いたげに首を傾げた。
「影山は、怖いと思うことない?」
「…?」
「期待して、だけど事実が期待と違っていたらどうしようって」
「……俺には よく分かりません」
「だよね」
返された言葉はなんとも彼らしくて、思わず笑ってしまった。それはきっと影山には無縁な感覚なのだ。悪い意味ではなくて、彼はこうして真っ直ぐにぶつかっていけるから。分からないからと一人で恐れるのではなく、真意を問う強さがある影山には縁のない話だろう。
それを「あなたには分からない」と言いたいわけではなくて、そんな彼を相手に一方的に押し付けたあの日の自分を情けなく思うだけ。だからせめて、今度は逃げずに向き合いたい。
「ずっと考えてたの。影山は私のことどう思ってるのかなって」
「…! 俺は、」
「期待してたんだよね、無意識に。それに気付いたら、怖くなった」
「……俺は、どうしたら他の人たちと同じになれるか考えてました」
「え?」
「七瀬さんは 誰かに触れられても笑うのに、俺に対してだけはそうじゃない」
例えば、大地さんや旭さんが頭を撫でてくれるとか。孝支くんが何の気なしにハグするとか。田中や西谷がふざけて肩を組むこととか。縁下に負ぶって運ばれたとか。危険回避のため月島に肩を抱かれたとか。そういう時に私はきっと、何かを意識することもなく笑っていたのだろう。でも、相手が影山だったらどうだろう。身体の近さに呼吸が止まり、心臓が暴れ出し、思考は停止する。とても笑える状態ではない。でもそれは負の感情からではなくて、影山が特別だから。だけど私はそれを口にしたことはなくて、私の心情を知る由もない影山にとって、それは果たしてどう見えていたのだろう。そう考えれば チクリと胸が痛んだ。
伝えたい事を口にする恥ずかしさ。それに負けて誤魔化してしまいたくなる。察してはくれないかと思いたくなるけれど、向き合いたいと思ったばかりでもある。今、ここで言わないと もう二度と伝えられない気がした。
「…影山は違うの。みんなとは、違う」
なんて不器用で拙いことば。それでも影山は、急かすわけでもなく、問い詰めるわけでもなく、じっと耳を傾けて待ってくれる。これじゃあ どっちが先輩か分からないな。そんなことを考えたら少し気持ちが楽になった気がするけれど、次の言葉が出てこない。こんなにも伝えたいと思うのに、どんな言葉を選べばいいのかが分からない。
言葉にしたい、間違えたくない、伝えたい、言葉が出てこない。ぐるぐると思考を巡らせるばかりで口ごもる私の頭上から、七瀬さん、と影山の声が聞こえた。顔を上げれば視線が交わり、何年も前から変わらない強い瞳を 綺麗だと思った。
「俺は、七瀬さんが好きです。誰にも触らせたくないぐらい」
まっすぐな、ことば。耳に届いた影山の声は、いつもよりずっと甘く響いた気がして思わず目を伏せた。一瞬で顔に熱が集まったのが分かったし、どんな顔でどんな言葉を返したらいいのか分からないけれど。その言葉以上に欲しかったものなんて何もない。
影山は、出会った時からいつでも真っ直ぐだった。良くも悪くも素直で、裏表がなくて、彼の言葉はただただ真っ直ぐ心に届く。だから私には影山が眩しすぎて、少し怖くて、そして誰よりも愛おしい。この気持ちを伝えたら、君はどんな顔をするだろう。
まだ照れを捨てきれない私は視線を下げたまま、影山の左手の指先を きゅっと握る。その瞬間、彼が僅かに息を飲んだのが分かった。きっと、この心を伝えるのに余計な思考など必要ないのだ。
「…恥ずかしいから、一回しか言わないよ」
私の声は 少し震えていた。恥ずかしいのか、怖いのか、自分でもよく分からないけれど。誰よりも眩しい君に、溢れ出す愛しさの全てを伝えたい。上手く言葉に出来そうにないけれど、どうか 聞いてほしい。
私が言葉を発した直後に身体を掻き抱かれ、触れ合う影山の体温が心地よくて この熱に浮かされていたいと思った。彼の背中に腕を回してそっと触れ、言葉に出来ない想いも伝わりますようにと 祈るように目を閉じる。
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