とめどなく桜
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「佐倉先輩とどういう関係なんですか」
いつだったか、沢村にそんな事を言われた。どうと聞かれても、ただの同級生だとか、部員とマネージャーだとか、そんな答えを返した気はするけど はっきり言ってあまり記憶には残っていない。
けれどそんな俺の答えに対して「佐倉先輩に対してだけ態度が違うと思ったけど気のせいか」と、独り言のように呟いた沢村の言葉だけは妙に耳に残っている。
「佐倉先輩みたいな美人がこんな男を選ぶわけないよなー!」
「なに、お前は佐倉みたいなのがタイプなんだ?」
「ちがっ…ただの一般論でしょーが!」
妙にヤケになって怒る沢村を揶揄ううちに終わったそんな話題を、俺と沢村以外に誰が聞いていたのか定かじゃないけれど、お前らみんな知らないだろ。佐倉は俺に惚れてんだぜ。
なんて そんな事を自分から言う気もないし、言ったところできっと誰も信じないだろう―――倉持以外は。
「御幸」
休み時間、教室へと戻ろうと廊下を歩いていると前方から名前を呼ばれる。高すぎず、低すぎず、ざわついている廊下ですんなりと耳に入るその声に視線を上げれば、想像通りの人物がこちらへ小走りで駆け寄って来た。
「おー、佐倉」
「高島先生から伝言なんだけど」
俺の目の前で足を止め、ハキハキと用件を紡ぐその声に耳を傾けながら、チラリと視線を向けたのは彼女の向こう側。俺のクラスの出入り口、こちらに駆け寄ってくる前に佐倉が居たのであろうその場所には倉持がいて、ああ、倉持と話していたのかと ぼんやりと頭が理解する。
「…だって」
「ん、了解。ありがとな」
たしかに用件を伝え聞いた俺は、確認するようにこちらを見上げた佐倉に礼を述べて、その艶やかな黒髪をぐしゃぐしゃと撫でる。女子にすれば背が高い方の佐倉の頭が決して俺にとって“撫でやすい位置”にあるわけではない。けれど時々、無性に、あるいは無意識に、こうして彼女に触れていることがある。邪な心理が働いているわけではない。己に好意を寄せているであろう彼女を、ぞんざいに扱っても良いと思っているわけでもない。ただ、何の他意もなく俺は佐倉に触れている。無意識に湧き上がるこの衝動を表す言葉を、俺はまだ知らない。
「御幸ってさ、私のこと時々 子供扱いするよね」
頭を撫でられて喜ぶ歳ではないと、不満そうに言う佐倉に軽い謝罪をする。傲る気も、弄ぶ気もないけれど、佐倉は自分に気があるという絶対的な自信があった。それなのに佐倉は こうして不意に触れても動じてる様子は見せないし、俺がどんな距離感で接しても態度を変えない。だから、だろうか。
「じゃあ、伝えたからね」
「待てよ」
俺が持つ絶対的な自信に、揺るぎのない根拠を添えたくなる瞬間がある。用件を済ませて惜しげもなく立ち去ろうとする佐倉の腕を掴んで引き寄せて、背後からその耳元に顔を寄せた。動揺すればいい。赤面してみろよ。そんな思いででき得る限り優しく響くように言葉を紡ぐ。可愛いなんて、他の女子には絶対に口にしないような単語を。
「おだてても課題は見せないからね!」
「なんだ、バレてんのか。残念」
残念だったのは、課題を助けてもらえないことじゃない。俺がどういう仕掛けをしても、佐倉は絶対に釣られないことだ。耳元で囁いても動揺を見せなければ、手を離せしても それを惜しむような素振りは一切見せなかった。いつからか感じていた絶対的な自信は、いつまで経っても根拠がないままだ。
自分で努力しなさい、と そう言って立ち去る彼女の背中を カラカラと笑いながら見送った。
なぁ佐倉。俺は一体、お前をどうしたいんだろうな。
いつだったか、沢村にそんな事を言われた。どうと聞かれても、ただの同級生だとか、部員とマネージャーだとか、そんな答えを返した気はするけど はっきり言ってあまり記憶には残っていない。
けれどそんな俺の答えに対して「佐倉先輩に対してだけ態度が違うと思ったけど気のせいか」と、独り言のように呟いた沢村の言葉だけは妙に耳に残っている。
「佐倉先輩みたいな美人がこんな男を選ぶわけないよなー!」
「なに、お前は佐倉みたいなのがタイプなんだ?」
「ちがっ…ただの一般論でしょーが!」
妙にヤケになって怒る沢村を揶揄ううちに終わったそんな話題を、俺と沢村以外に誰が聞いていたのか定かじゃないけれど、お前らみんな知らないだろ。佐倉は俺に惚れてんだぜ。
なんて そんな事を自分から言う気もないし、言ったところできっと誰も信じないだろう―――倉持以外は。
「御幸」
休み時間、教室へと戻ろうと廊下を歩いていると前方から名前を呼ばれる。高すぎず、低すぎず、ざわついている廊下ですんなりと耳に入るその声に視線を上げれば、想像通りの人物がこちらへ小走りで駆け寄って来た。
「おー、佐倉」
「高島先生から伝言なんだけど」
俺の目の前で足を止め、ハキハキと用件を紡ぐその声に耳を傾けながら、チラリと視線を向けたのは彼女の向こう側。俺のクラスの出入り口、こちらに駆け寄ってくる前に佐倉が居たのであろうその場所には倉持がいて、ああ、倉持と話していたのかと ぼんやりと頭が理解する。
「…だって」
「ん、了解。ありがとな」
たしかに用件を伝え聞いた俺は、確認するようにこちらを見上げた佐倉に礼を述べて、その艶やかな黒髪をぐしゃぐしゃと撫でる。女子にすれば背が高い方の佐倉の頭が決して俺にとって“撫でやすい位置”にあるわけではない。けれど時々、無性に、あるいは無意識に、こうして彼女に触れていることがある。邪な心理が働いているわけではない。己に好意を寄せているであろう彼女を、ぞんざいに扱っても良いと思っているわけでもない。ただ、何の他意もなく俺は佐倉に触れている。無意識に湧き上がるこの衝動を表す言葉を、俺はまだ知らない。
「御幸ってさ、私のこと時々 子供扱いするよね」
頭を撫でられて喜ぶ歳ではないと、不満そうに言う佐倉に軽い謝罪をする。傲る気も、弄ぶ気もないけれど、佐倉は自分に気があるという絶対的な自信があった。それなのに佐倉は こうして不意に触れても動じてる様子は見せないし、俺がどんな距離感で接しても態度を変えない。だから、だろうか。
「じゃあ、伝えたからね」
「待てよ」
俺が持つ絶対的な自信に、揺るぎのない根拠を添えたくなる瞬間がある。用件を済ませて惜しげもなく立ち去ろうとする佐倉の腕を掴んで引き寄せて、背後からその耳元に顔を寄せた。動揺すればいい。赤面してみろよ。そんな思いででき得る限り優しく響くように言葉を紡ぐ。可愛いなんて、他の女子には絶対に口にしないような単語を。
「おだてても課題は見せないからね!」
「なんだ、バレてんのか。残念」
残念だったのは、課題を助けてもらえないことじゃない。俺がどういう仕掛けをしても、佐倉は絶対に釣られないことだ。耳元で囁いても動揺を見せなければ、手を離せしても それを惜しむような素振りは一切見せなかった。いつからか感じていた絶対的な自信は、いつまで経っても根拠がないままだ。
自分で努力しなさい、と そう言って立ち去る彼女の背中を カラカラと笑いながら見送った。
なぁ佐倉。俺は一体、お前をどうしたいんだろうな。