とめどなく桜
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誰かを好きになることに明確な理由が必要だというのなら、“格好良いと思ってしまった”。私の理由はそれで充分だ。
性格が悪くて、友達だって倉持ぐらいしかいないはずで、確かに見た目は悪くないし野球も上手いけれど。それだけ、のはずだった。そんなヤツを好きになる理由なんておおよそ思い付かないと思っていたのに。
私はいつの間にか、御幸一也というこの男を好いてしまっていたらしい。
「御幸」
高島先生からの伝言を主将である彼に伝えるために訪れた教室に不在だったその姿を見つけ、パタパタと駆け寄った。別に、倉持に伝えたことと同じ内容を告げるだけなのだから、わざわざ私が直接 御幸に伝えなければならない理由はない。倉持の申し出を受け入れて、伝言をお願いしたって構わなかった。けれど、私は。自分が思っている以上に、御幸と話せる口実を喜んでいるのかもしれない。
だから責任を果たす意味でも 先生から言付けられた内容を、漏れの無いように丁寧に伝える。
「…だって」
「ん、了解。ありがとな」
伝え終えて確認するように彼の顔を見上げた私の頭を、僅かに表情を緩めた御幸がグシャグシャと撫でた。何の躊躇いもなく、何を気にするわけでもなく、彼は私に触れる。それが私にとってどういう意味を持つのかなんて、きっと考えたこともないのだろう。
「御幸ってさ、私のこと時々 子供扱いするよね」
「そうか?」
「こういうの。頭撫でられて喜ぶ年齢じゃないんだけど」
不満げな素振りを浮かべて視線を逸らしてそう言えば、悪りぃ悪りぃ、と 大して悪びれた様子もなく御幸は言う。そんな彼に、私は小さくため息を吐いた。
私が御幸に触れられるたびに、どんな思いで平静を装っているのか知りもしないのだろうか。それとも、性格の悪い御幸のことだ。私の想いなんて実はお見通しで、その上で取り繕う私を面白がって触れているのだろうか。考えれば考えるほどどちらも有り得そうで、この疑問に答えなど出ない。
「じゃあ、伝えたからね」
「待てよ」
休み時間ももう終わる。用件ももう終えた。くるりと身体を反転させて自分の教室へ戻ろうと足を踏み出した私の二の腕を、制止の言葉と共に御幸が掴んだ。引き戻された身体と、一歩距離を詰めた御幸。背中が、御幸に触れてしまいそうなほどに近い距離。
「七瀬ちゃん今日の髪型可愛いね」
「っ…!」
耳元で、囁くように鼓膜を震わせる御幸の声に心臓が跳ねる。こんなに近くで、こんなに優しい声を聞かされたら おかしくなりそうだ。
だけど私は知っている。こういう時の御幸の声も、言葉も、決して口説き文句ではないと言うことを。
「おだてても課題は見せないからね!」
「なんだ、バレてんのか。残念」
へらりと笑った御幸は 惜しげもなくパッと私から手を離し、一歩退がって距離を取る。これで私たちの距離は元通り。それを寂しく思うのは、きっと私だけなのだ。
「最初から諦めないで、まずは自分で努力しなさい」
「相変わらず佐倉は厳しいねぇ」
カラカラと笑う御幸に じゃあねと言葉を残して、今度こそ背を向けて自分の教室へと歩き始める。御幸はもう、私を引き留めない。
冷静に対応できていただろうか。顔が赤くなったりしていなかっただろうか。いつも自分だけ余裕綽綽で、簡単に私の間合いに入ってくる御幸が憎い。都合の良い時だけ名前を呼んで、甘い言葉を囁く御幸が腹立たしい。だけどそれらに簡単に動じてしまいそうになる程度に私は、御幸のことが好きなのだ。
「…ほんとむかつく」
耳元に触れながら漏らしたその言葉が、誰かに届くことはない。
性格が悪くて、友達だって倉持ぐらいしかいないはずで、確かに見た目は悪くないし野球も上手いけれど。それだけ、のはずだった。そんなヤツを好きになる理由なんておおよそ思い付かないと思っていたのに。
私はいつの間にか、御幸一也というこの男を好いてしまっていたらしい。
「御幸」
高島先生からの伝言を主将である彼に伝えるために訪れた教室に不在だったその姿を見つけ、パタパタと駆け寄った。別に、倉持に伝えたことと同じ内容を告げるだけなのだから、わざわざ私が直接 御幸に伝えなければならない理由はない。倉持の申し出を受け入れて、伝言をお願いしたって構わなかった。けれど、私は。自分が思っている以上に、御幸と話せる口実を喜んでいるのかもしれない。
だから責任を果たす意味でも 先生から言付けられた内容を、漏れの無いように丁寧に伝える。
「…だって」
「ん、了解。ありがとな」
伝え終えて確認するように彼の顔を見上げた私の頭を、僅かに表情を緩めた御幸がグシャグシャと撫でた。何の躊躇いもなく、何を気にするわけでもなく、彼は私に触れる。それが私にとってどういう意味を持つのかなんて、きっと考えたこともないのだろう。
「御幸ってさ、私のこと時々 子供扱いするよね」
「そうか?」
「こういうの。頭撫でられて喜ぶ年齢じゃないんだけど」
不満げな素振りを浮かべて視線を逸らしてそう言えば、悪りぃ悪りぃ、と 大して悪びれた様子もなく御幸は言う。そんな彼に、私は小さくため息を吐いた。
私が御幸に触れられるたびに、どんな思いで平静を装っているのか知りもしないのだろうか。それとも、性格の悪い御幸のことだ。私の想いなんて実はお見通しで、その上で取り繕う私を面白がって触れているのだろうか。考えれば考えるほどどちらも有り得そうで、この疑問に答えなど出ない。
「じゃあ、伝えたからね」
「待てよ」
休み時間ももう終わる。用件ももう終えた。くるりと身体を反転させて自分の教室へ戻ろうと足を踏み出した私の二の腕を、制止の言葉と共に御幸が掴んだ。引き戻された身体と、一歩距離を詰めた御幸。背中が、御幸に触れてしまいそうなほどに近い距離。
「七瀬ちゃん今日の髪型可愛いね」
「っ…!」
耳元で、囁くように鼓膜を震わせる御幸の声に心臓が跳ねる。こんなに近くで、こんなに優しい声を聞かされたら おかしくなりそうだ。
だけど私は知っている。こういう時の御幸の声も、言葉も、決して口説き文句ではないと言うことを。
「おだてても課題は見せないからね!」
「なんだ、バレてんのか。残念」
へらりと笑った御幸は 惜しげもなくパッと私から手を離し、一歩退がって距離を取る。これで私たちの距離は元通り。それを寂しく思うのは、きっと私だけなのだ。
「最初から諦めないで、まずは自分で努力しなさい」
「相変わらず佐倉は厳しいねぇ」
カラカラと笑う御幸に じゃあねと言葉を残して、今度こそ背を向けて自分の教室へと歩き始める。御幸はもう、私を引き留めない。
冷静に対応できていただろうか。顔が赤くなったりしていなかっただろうか。いつも自分だけ余裕綽綽で、簡単に私の間合いに入ってくる御幸が憎い。都合の良い時だけ名前を呼んで、甘い言葉を囁く御幸が腹立たしい。だけどそれらに簡単に動じてしまいそうになる程度に私は、御幸のことが好きなのだ。
「…ほんとむかつく」
耳元に触れながら漏らしたその言葉が、誰かに届くことはない。