とめどなく桜
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いつからだろう、無意識のうちにその姿を探すようになっていたのは。いつからだろう、その姿を見つけたら目が追っていたのは。
知っている、そんなもん“最初から”だ。
入学式のあの日、花弁が舞う桜の木の下で一人佇むアイツの姿を、柄にもなく綺麗だと思ったんだ。好みのタイプと言うわけではない。特別美人だとか色気があるとか、そう言うわけでもない。けれどどうしようもなく目を奪われた、それが最初。
そして、それが全て。
お前は俺の全てを奪うのに、何一つとして与えてはくれない。無理矢理にでも奪い去る以外に手に入れられる方法があるのなら、教えてほしいとさえ思う。
「倉持」
耳に障りの良い声が俺を呼ぶ。面倒臭い風を装って振り向けば、期待通りの女がこちらに歩み寄ってくる。確かに浮き立つ心に、俺は今日も気付かないふりをした。おつかれ、と僅かに表情を緩めて 佐倉は俺の前に立つ。触れようと思えば手は届くはずなのに、無闇に触れることなど許されない。これが嘘偽りのない俺とお前の距離。
どうしたよ、なんて 俺はやはり何て事のないように言葉を返す。
「高島先生から伝言」
ハキハキと言葉を紡ぐその形の良い薄い唇に、瞳を縁取る長い睫毛が影を落とす目元に、艶やかな黒い髪に、柔らかそうな頬に、細い肩に、触れたいと思う俺の気などお前は知りもしないだろう。
「…だってさ」
「了解、サンキュー。…御幸には?」
「これから。どこにいるか知ってる?」
「俺が代わりに言っておいてやろうか」
「……私にどういう反応を期待してるわけ?」
じとっと恨めしそうに視線を向けるその表情だって、嫌いじゃない。救いようもないほどに病的だ。
そして俺をここまで病的に落しめた 佐倉は、どうやら御幸に惚れているらしい。あからさまな態度があるわけではないけれど、俺には分かるその理由をあえて言葉にするならば“いつもコイツを見ているから”と言うところだろう。
現に 佐倉は、こういうカマをかけるような俺のからかいに動揺することなんてないけれど、否定した事だって一度としてない。つまり、そういうことなんだろう。現実っつーのは残酷だ。
ハッと 嘲笑に近い息を吐き出したところで、便所にでも行っていたのだろうか、廊下の向こう側からこちらに歩いてくる話題の人物の姿が視界に入る。アイツの存在になんて、コイツはいつまでも気が付かなければ良いのに。そんな馬鹿みたいなことを考えたりもするけれど。
「…噂をすれば。帰ってきたぜ」
「! 御幸」
ありがとう、とたった一瞬だけ俺に向けられる嬉しそうな表情が見たくて、いつだって俺は 佐倉が望む通りなのだ。
その一言だけを残して御幸の元に駆け寄った 佐倉はきっと、俺に告げたことと全く同じ内容を、俺に対するよりもほんの僅かに高いトーンの声で伝えたのだろう。御幸が表情を緩めて、グシャグシャと 佐倉の髪を撫でた。
躊躇いもなくアイツに触れられるお前が、アイツに想われているお前が、俺は憎いほどに羨ましくて仕方がねえよ。
知っている、そんなもん“最初から”だ。
入学式のあの日、花弁が舞う桜の木の下で一人佇むアイツの姿を、柄にもなく綺麗だと思ったんだ。好みのタイプと言うわけではない。特別美人だとか色気があるとか、そう言うわけでもない。けれどどうしようもなく目を奪われた、それが最初。
そして、それが全て。
お前は俺の全てを奪うのに、何一つとして与えてはくれない。無理矢理にでも奪い去る以外に手に入れられる方法があるのなら、教えてほしいとさえ思う。
「倉持」
耳に障りの良い声が俺を呼ぶ。面倒臭い風を装って振り向けば、期待通りの女がこちらに歩み寄ってくる。確かに浮き立つ心に、俺は今日も気付かないふりをした。おつかれ、と僅かに表情を緩めて 佐倉は俺の前に立つ。触れようと思えば手は届くはずなのに、無闇に触れることなど許されない。これが嘘偽りのない俺とお前の距離。
どうしたよ、なんて 俺はやはり何て事のないように言葉を返す。
「高島先生から伝言」
ハキハキと言葉を紡ぐその形の良い薄い唇に、瞳を縁取る長い睫毛が影を落とす目元に、艶やかな黒い髪に、柔らかそうな頬に、細い肩に、触れたいと思う俺の気などお前は知りもしないだろう。
「…だってさ」
「了解、サンキュー。…御幸には?」
「これから。どこにいるか知ってる?」
「俺が代わりに言っておいてやろうか」
「……私にどういう反応を期待してるわけ?」
じとっと恨めしそうに視線を向けるその表情だって、嫌いじゃない。救いようもないほどに病的だ。
そして俺をここまで病的に落しめた 佐倉は、どうやら御幸に惚れているらしい。あからさまな態度があるわけではないけれど、俺には分かるその理由をあえて言葉にするならば“いつもコイツを見ているから”と言うところだろう。
現に 佐倉は、こういうカマをかけるような俺のからかいに動揺することなんてないけれど、否定した事だって一度としてない。つまり、そういうことなんだろう。現実っつーのは残酷だ。
ハッと 嘲笑に近い息を吐き出したところで、便所にでも行っていたのだろうか、廊下の向こう側からこちらに歩いてくる話題の人物の姿が視界に入る。アイツの存在になんて、コイツはいつまでも気が付かなければ良いのに。そんな馬鹿みたいなことを考えたりもするけれど。
「…噂をすれば。帰ってきたぜ」
「! 御幸」
ありがとう、とたった一瞬だけ俺に向けられる嬉しそうな表情が見たくて、いつだって俺は 佐倉が望む通りなのだ。
その一言だけを残して御幸の元に駆け寄った 佐倉はきっと、俺に告げたことと全く同じ内容を、俺に対するよりもほんの僅かに高いトーンの声で伝えたのだろう。御幸が表情を緩めて、グシャグシャと 佐倉の髪を撫でた。
躊躇いもなくアイツに触れられるお前が、アイツに想われているお前が、俺は憎いほどに羨ましくて仕方がねえよ。
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