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久しぶりに徹の練習試合を観に来た日曜日。会場となる体育館にはたくさんのチームが集まっていて、何かの大会かと思ってしまうほどだった。1試合目を終えた青城が観覧席に引き上げてきて、徹と岩泉がこちらに寄って来てくれる。
「お疲れ様。チーム数多いね…今日は何試合するの?」
「さぁ…時間が許す限りじゃない?」
「うわぁ…」
「何ちょっと引いてんだよ。つーか白鳥沢も来てんぞ。あっちはいいのかよ」
「七瀬が白鳥沢の応援なんてするわけないでしょ岩ちゃんバカなの!?」
あっち、と そう言った岩泉が顎で示した方に目をやれば 奥のコートで我が校バレー部がまさに試合をしているところで、自分の学校の応援は良いのかと 岩泉は気を利かせてくれたのだとすぐに分かる。私より先に反論した徹の脇腹に岩泉の容赦ない蹴りが入るのを見ながら、今日は青城の応援に来たから良いの、とそんな台詞を返す。その言葉に嘘はない。今日は青城の、徹の応援のためにここに来たのであって、うちの学校も来ていることも 体育館に入るまで知りもしなかったのだから。けれどそれはこの場に来た目的に過ぎなくて、同級生達のもとへ挨拶にさえ行かない理由にはならない。分かっている、私はただ――。
「七瀬さん、お久しぶりです!」
名前を呼ばれてハッと振り返れば、金田一と その少し後ろで軽く頭を下げる国見が居た。同じ中学に通っていた彼らは、徹の彼女というだけで バレー部員でもないのに度々試合に顔を出す私に対しても、中学時代からこうして挨拶をしてくれる可愛い後輩達だ。彼ら、と言ってもそれは主に金田一の方で、国見は彼の後ろで面倒臭そうに会釈するだけではあるけれど。何だかんだでこうして金田一と一緒に来てくれるあたり、充分に可愛気がある。
「見てたよ、二人とも頑張ってるね。すごいすごい」
バレーの強豪である青葉城西で、1年生ながら主力として活躍していた2人の姿に驚いたのは本心だ。私よりずっと背の高い彼らの頭を、少し背伸びしてよしよしと撫でてやる。金田一は照れて困ったようにしながらも大人しくしてくれるけれど、国見にはすぐに逃げられてしまった。む、可愛くない。そんなことを思ったところで、国見と入れ替わるように花巻くんがこちらへと近付いてくる。
「つーか七瀬まだ及川と付き合ってんの?そろそろ別れて俺にすれば?」
「毎度毎度マッキーは失礼だな!彼氏の前で堂々と口説かないでもらえる!?」
「私、花巻くんのそういうところ結構好きだよ」
「ちょっと七瀬!?」
大げさにショックを受けて狼狽える徹の姿に みんなで笑った束の間の休憩時間。花巻くんの冗談はこうやって受け流せるのに。和やかな雰囲気の中で私の頭に浮かんだのは、そんなことだった。口説き文句のような花巻くんの台詞は 冗談として冗談を返せるのに、あの時の若利くんの言葉はそうじゃなかった。あれは自惚れでもなんでもなく、冗談なんかじゃないと嫌というほど分かったから。だから私は、若利くんとどんな顔で向き合えば良いのか分からない。それが、友人もいる白鳥沢に挨拶さえしに行けない理由。逃げでしかない、と そう言われればそれまでなのだ。
◇
2試合目が終わった後、お手洗いを済ませて観覧席へと戻るその途中。佐倉、と私の名を呼ぶ声がした。大きな音量ではないのに 賑やかなこの場でも聞き取れた、低くて落ち着いた耳触りの良いその声は。振り返った先にいたのは想像通り若利くんに他ならなくて、私の身体は固まってしまった。なんて自意識過剰なのだろうと、心の内側で苦いものが込み上げた気がした。
「若利くん…」
「観覧席に佐倉が見えた気がしたが、見間違いではなかったようだな」
「え…?」
「不思議とお前は俺の目に留まる」
なんて事ないように言われた言葉に、熱が顔へと集まってくる。どうしてこの人は、こんな事を恥ずかしげも無く言えてしまうんだろう。この言葉に、深い意味など無ければ良いと思う。私の自惚れであれば良いと思う。けれど先日のあの言葉があって、若利くんの性格があって、特別な意味がないと思える理由がない。私は、どうすれば良いんだろう。あなたの気持ちには答えられないと言えば良いのだろうか。けれど、若利くんに何かを求められた訳でもないのに、それは私が言えることなのだろうか。そんな事を考える自分が遣る瀬無くて、申し訳なくて、なんだか泣きたくなった。
不自然に俯いて顔を隠すように前髪に触れた私に、若利くんの不思議そうな視線が向けられる。
「…?どうした、佐倉」
「ど、どうもしてない!大丈夫だから、」
「顔が赤いだろう。体育館は熱が篭る。暑いなら風通しの良い場所に…、!」
顔を赤くした私が 館内の熱気に当てられたと思い心配してくれたのだろう。私の顔を覗き込もうとする若利くんから必死に逃げるけれど、隠そうと顔の前に掲げた両腕も手首を掴まれ こじ開けられる。曝されたのは、赤らんだまま僅かに涙さえ浮かんだ情けない顔。こんな不恰好な表情、異性に見せて良いはずがないけれど 両手の自由さえ封じされている今は、顔を逸らして「見ないで」と弱々しく請うことしかできない。
呼吸が止まったように目を見開く若利くんは、一体何を思っていたのだろう。「あの、…?」眉を下げて窺うようにちらりと視線だけを持ち上げたところで、背後から足音が聞こえてきた。
「おーい七瀬…」
「!」
さいあくだ、と 思った。顔だけ振り向いた先に見えたのは 私を探しに来たであろう徹で、私を視界に捉えた瞬間に徹はその場に固まってしまった。無理もないと思う。私が一緒にいたのは徹が誰よりも嫌う牛島若利で、その彼が私の両手を掴んでいるのだから。
けれど一瞬で我に返った徹はすぐにこちらへ駆け寄って来て、若利くんから奪い取るように私の身体を抱き寄せた。徹の横顔を見上げ、びくりと身体が強張る。徹は、怒っている。私が今まで見たことがない程に。
「勝手に触ってんじゃねーよ…!」
「…佐倉は体調が悪そうだ。あまり付き合わせるなよ」
それだけ言い残して立ち去る若利くんの背中を見送り、ほっと安堵の息を吐く。彼が立ち去ったことへの安堵ではなく、徹と若利くんを取り巻く息苦しい雰囲気から解放されたことへの安堵感だ。私の肩の力が抜けたことに気が付いた徹が私の顔を覗き込む。先ほどよりは幾分か落ち着いたようではあるけれど、まだ普段の徹と比べれば怒気を孕んだ刺々しい雰囲気で 少し萎縮してしまう。
「具合悪い?」
「え、ううん!大丈夫だよ」
「そう…じゃあ、ちょっと来て」
それだけ言うと、徹は私の左手を掴んでずんずんと歩き出す。「待って徹、試合は!?」「次は控えが出るから俺たちは待機で休憩」短い会話が済んだところで体育館の裏側に出れば、そこは随分と静かな場所に感じられた。いくつものコートで行われている試合の音が、壁で隔たった内側から聞こえてくる。他に誰の姿も見えないそこで立ち止まった徹が こちらを振り返る。その表情は、怒っているのだと明白だった。
「それを伝えに行こうと思ったんだけど。……あれ、なに?」
「なに、って…?」
「どうして牛島と一緒にいたのかって聞いてるの」
「どうして、って…同じ高校の同級生だよ?会えば会話ぐらいする」
「両手を掴まれながら?」
「――っ!」
責めるように言われた言葉はもっともすぎて、返す言葉もない。
徹は怒っているのだ。けれどそれは、私が同級生の男の子と話をしていたからじゃない。手を掴まれていたからじゃない。私が“牛島若利”と2人きりで、挙句そこに至る理由があったとはいえ触れ合っている状態で会話をしていたからだ。もしあれが瀬見くんや天童であったとすれば、同じ状況を目撃されたとして、徹はここまで怒らない。相手が他ならぬ若利くんだったからだ。
「七瀬は牛島に口説かれてるの?」
「……っ!ち、が…」
違う、と大声で即答すれば良かった。けれど彼に好意を伝えられたという紛れもない事実と、若利くんのあの純粋で真っ直ぐな言葉を“口説かれてる”なんて低俗な言葉で表現していいのかという迷いがあった。若利くんを庇うような、そんな思考を持ち合わせてしまったことが そもそも間違いだったのだろう。
「へぇ…あの牛島がねえ」
「待って、若利くんはそういうのじゃ」
「“若利くん”?」
しまった、と思った時にはもう遅い。無意識のうちに口を突いたのはすっかり定着した彼の呼び名で、だけどこれはきっと徹には聞かせてはいけなかった。徹の口元には薄い笑みが浮かぶけれど、目だけは全然笑ってない。
「随分と親しそうだね。少し前まで面識はないって言ってたのに」
「…どうしてそんなに怒るの。私は徹の彼女なのに、信用ない?」
「本当に分からない?それなら教えてあげる――ただの嫉妬だよ」
何の感情も映さず凪いだ徹の瞳には、確かな熱だけが燃えていた。私の身体を強く壁に押さえつけて、顎を掴まれ強引に持ち上げられる。有無を言わさず乱暴に塞がれた唇は全然徹らしくない。牛島若利という存在は、徹をここまで掻き乱すのだ。自由な呼吸さえも許されない制圧的なそれに、私は彼の背中の服を握りしめることで意識を保つ。
ねぇ徹、私にキスをしているのに、貴方は私を見てくれないね。
「お疲れ様。チーム数多いね…今日は何試合するの?」
「さぁ…時間が許す限りじゃない?」
「うわぁ…」
「何ちょっと引いてんだよ。つーか白鳥沢も来てんぞ。あっちはいいのかよ」
「七瀬が白鳥沢の応援なんてするわけないでしょ岩ちゃんバカなの!?」
あっち、と そう言った岩泉が顎で示した方に目をやれば 奥のコートで我が校バレー部がまさに試合をしているところで、自分の学校の応援は良いのかと 岩泉は気を利かせてくれたのだとすぐに分かる。私より先に反論した徹の脇腹に岩泉の容赦ない蹴りが入るのを見ながら、今日は青城の応援に来たから良いの、とそんな台詞を返す。その言葉に嘘はない。今日は青城の、徹の応援のためにここに来たのであって、うちの学校も来ていることも 体育館に入るまで知りもしなかったのだから。けれどそれはこの場に来た目的に過ぎなくて、同級生達のもとへ挨拶にさえ行かない理由にはならない。分かっている、私はただ――。
「七瀬さん、お久しぶりです!」
名前を呼ばれてハッと振り返れば、金田一と その少し後ろで軽く頭を下げる国見が居た。同じ中学に通っていた彼らは、徹の彼女というだけで バレー部員でもないのに度々試合に顔を出す私に対しても、中学時代からこうして挨拶をしてくれる可愛い後輩達だ。彼ら、と言ってもそれは主に金田一の方で、国見は彼の後ろで面倒臭そうに会釈するだけではあるけれど。何だかんだでこうして金田一と一緒に来てくれるあたり、充分に可愛気がある。
「見てたよ、二人とも頑張ってるね。すごいすごい」
バレーの強豪である青葉城西で、1年生ながら主力として活躍していた2人の姿に驚いたのは本心だ。私よりずっと背の高い彼らの頭を、少し背伸びしてよしよしと撫でてやる。金田一は照れて困ったようにしながらも大人しくしてくれるけれど、国見にはすぐに逃げられてしまった。む、可愛くない。そんなことを思ったところで、国見と入れ替わるように花巻くんがこちらへと近付いてくる。
「つーか七瀬まだ及川と付き合ってんの?そろそろ別れて俺にすれば?」
「毎度毎度マッキーは失礼だな!彼氏の前で堂々と口説かないでもらえる!?」
「私、花巻くんのそういうところ結構好きだよ」
「ちょっと七瀬!?」
大げさにショックを受けて狼狽える徹の姿に みんなで笑った束の間の休憩時間。花巻くんの冗談はこうやって受け流せるのに。和やかな雰囲気の中で私の頭に浮かんだのは、そんなことだった。口説き文句のような花巻くんの台詞は 冗談として冗談を返せるのに、あの時の若利くんの言葉はそうじゃなかった。あれは自惚れでもなんでもなく、冗談なんかじゃないと嫌というほど分かったから。だから私は、若利くんとどんな顔で向き合えば良いのか分からない。それが、友人もいる白鳥沢に挨拶さえしに行けない理由。逃げでしかない、と そう言われればそれまでなのだ。
◇
2試合目が終わった後、お手洗いを済ませて観覧席へと戻るその途中。佐倉、と私の名を呼ぶ声がした。大きな音量ではないのに 賑やかなこの場でも聞き取れた、低くて落ち着いた耳触りの良いその声は。振り返った先にいたのは想像通り若利くんに他ならなくて、私の身体は固まってしまった。なんて自意識過剰なのだろうと、心の内側で苦いものが込み上げた気がした。
「若利くん…」
「観覧席に佐倉が見えた気がしたが、見間違いではなかったようだな」
「え…?」
「不思議とお前は俺の目に留まる」
なんて事ないように言われた言葉に、熱が顔へと集まってくる。どうしてこの人は、こんな事を恥ずかしげも無く言えてしまうんだろう。この言葉に、深い意味など無ければ良いと思う。私の自惚れであれば良いと思う。けれど先日のあの言葉があって、若利くんの性格があって、特別な意味がないと思える理由がない。私は、どうすれば良いんだろう。あなたの気持ちには答えられないと言えば良いのだろうか。けれど、若利くんに何かを求められた訳でもないのに、それは私が言えることなのだろうか。そんな事を考える自分が遣る瀬無くて、申し訳なくて、なんだか泣きたくなった。
不自然に俯いて顔を隠すように前髪に触れた私に、若利くんの不思議そうな視線が向けられる。
「…?どうした、佐倉」
「ど、どうもしてない!大丈夫だから、」
「顔が赤いだろう。体育館は熱が篭る。暑いなら風通しの良い場所に…、!」
顔を赤くした私が 館内の熱気に当てられたと思い心配してくれたのだろう。私の顔を覗き込もうとする若利くんから必死に逃げるけれど、隠そうと顔の前に掲げた両腕も手首を掴まれ こじ開けられる。曝されたのは、赤らんだまま僅かに涙さえ浮かんだ情けない顔。こんな不恰好な表情、異性に見せて良いはずがないけれど 両手の自由さえ封じされている今は、顔を逸らして「見ないで」と弱々しく請うことしかできない。
呼吸が止まったように目を見開く若利くんは、一体何を思っていたのだろう。「あの、…?」眉を下げて窺うようにちらりと視線だけを持ち上げたところで、背後から足音が聞こえてきた。
「おーい七瀬…」
「!」
さいあくだ、と 思った。顔だけ振り向いた先に見えたのは 私を探しに来たであろう徹で、私を視界に捉えた瞬間に徹はその場に固まってしまった。無理もないと思う。私が一緒にいたのは徹が誰よりも嫌う牛島若利で、その彼が私の両手を掴んでいるのだから。
けれど一瞬で我に返った徹はすぐにこちらへ駆け寄って来て、若利くんから奪い取るように私の身体を抱き寄せた。徹の横顔を見上げ、びくりと身体が強張る。徹は、怒っている。私が今まで見たことがない程に。
「勝手に触ってんじゃねーよ…!」
「…佐倉は体調が悪そうだ。あまり付き合わせるなよ」
それだけ言い残して立ち去る若利くんの背中を見送り、ほっと安堵の息を吐く。彼が立ち去ったことへの安堵ではなく、徹と若利くんを取り巻く息苦しい雰囲気から解放されたことへの安堵感だ。私の肩の力が抜けたことに気が付いた徹が私の顔を覗き込む。先ほどよりは幾分か落ち着いたようではあるけれど、まだ普段の徹と比べれば怒気を孕んだ刺々しい雰囲気で 少し萎縮してしまう。
「具合悪い?」
「え、ううん!大丈夫だよ」
「そう…じゃあ、ちょっと来て」
それだけ言うと、徹は私の左手を掴んでずんずんと歩き出す。「待って徹、試合は!?」「次は控えが出るから俺たちは待機で休憩」短い会話が済んだところで体育館の裏側に出れば、そこは随分と静かな場所に感じられた。いくつものコートで行われている試合の音が、壁で隔たった内側から聞こえてくる。他に誰の姿も見えないそこで立ち止まった徹が こちらを振り返る。その表情は、怒っているのだと明白だった。
「それを伝えに行こうと思ったんだけど。……あれ、なに?」
「なに、って…?」
「どうして牛島と一緒にいたのかって聞いてるの」
「どうして、って…同じ高校の同級生だよ?会えば会話ぐらいする」
「両手を掴まれながら?」
「――っ!」
責めるように言われた言葉はもっともすぎて、返す言葉もない。
徹は怒っているのだ。けれどそれは、私が同級生の男の子と話をしていたからじゃない。手を掴まれていたからじゃない。私が“牛島若利”と2人きりで、挙句そこに至る理由があったとはいえ触れ合っている状態で会話をしていたからだ。もしあれが瀬見くんや天童であったとすれば、同じ状況を目撃されたとして、徹はここまで怒らない。相手が他ならぬ若利くんだったからだ。
「七瀬は牛島に口説かれてるの?」
「……っ!ち、が…」
違う、と大声で即答すれば良かった。けれど彼に好意を伝えられたという紛れもない事実と、若利くんのあの純粋で真っ直ぐな言葉を“口説かれてる”なんて低俗な言葉で表現していいのかという迷いがあった。若利くんを庇うような、そんな思考を持ち合わせてしまったことが そもそも間違いだったのだろう。
「へぇ…あの牛島がねえ」
「待って、若利くんはそういうのじゃ」
「“若利くん”?」
しまった、と思った時にはもう遅い。無意識のうちに口を突いたのはすっかり定着した彼の呼び名で、だけどこれはきっと徹には聞かせてはいけなかった。徹の口元には薄い笑みが浮かぶけれど、目だけは全然笑ってない。
「随分と親しそうだね。少し前まで面識はないって言ってたのに」
「…どうしてそんなに怒るの。私は徹の彼女なのに、信用ない?」
「本当に分からない?それなら教えてあげる――ただの嫉妬だよ」
何の感情も映さず凪いだ徹の瞳には、確かな熱だけが燃えていた。私の身体を強く壁に押さえつけて、顎を掴まれ強引に持ち上げられる。有無を言わさず乱暴に塞がれた唇は全然徹らしくない。牛島若利という存在は、徹をここまで掻き乱すのだ。自由な呼吸さえも許されない制圧的なそれに、私は彼の背中の服を握りしめることで意識を保つ。
ねぇ徹、私にキスをしているのに、貴方は私を見てくれないね。