IF then ELSE
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朝。先日借りた英語教材を返しに職員室の英語教諭の元を訪ね、要件を終えて教室へ向かって廊下を歩いていた。予鈴が鳴る10分前。登校している生徒の数も増えて 廊下はザワザワと騒がしいけれど、この騒がしさは嫌いじゃない。
「佐倉」
教室のドアを潜ろうとしたところで後ろから名前を呼ばれた。大きな音量ではないのに 賑やかな廊下でも聞き取れた、低くて落ち着いた耳触りの良いその声に振り返れば、そこには その声で想像した通り牛島くんが立っていた。背の高い牛島くんは目立つから 私は何度も校内で彼を見かけたことはあったけれど、こうしてしっかりと間近に対面するのはこれが初めてだ。妙な緊張感のようなものを抱きながら おはようと挨拶をすれば、ああ、と短い返事が返される。表情の変化も少ない彼から発せられるその言葉は冷たいもののようにも聞こえるけれど、どうしてだろう、今の私には決してそうじゃないと断言できる。
「本当にうちの生徒だったんだな」
「うん、そうだよ。…意外?」
「いや…なぜ今まで気が付かなかったのかと思っただけだ」
「…?」
「あん?若利と佐倉?なんだよ珍しい組み合わせだな」
「あ、瀬見くん。おはよう」
「おーす」
牛島くんの言葉に首を傾げたところで、同じクラスでバレー部員でもある瀬見英太くんが現れた。彼は私と牛島くんを不思議そうに見遣るけれど、私たちを珍しい組み合わせだと言った瀬見くんの言い分は的を得ている。何せ校内で私たちが並ぶのはこれが初めてであり、間違っても“よく見る光景”ではないのだ。ちょっとね、なんて 説明の仕方も分からず誤魔化すような言葉を発した私とは裏腹に、牛島くんは「道で会った」なんて あまりにも簡潔すぎる説明をするから、思わず小さく吹き出すように笑ってしまった。
そんな私に牛島くんは無礼だと怒るわけでもなく、どうした、なんて不思議そうに言うから余計に可笑しくなってしまう。くすくすと笑う私に、瀬見くんが苦笑いを浮かべながら声を掛けた。
「悪いな佐倉、若利はこういう奴だ」
「ううん、なんか いい意味でイメージと違っただけ」
私のイメージしていた“牛島若利”は、徹が憎むほどに嫌っている人で、圧倒的な強さを持っていて、ポーカーフェイスで、口数も多くなくて、それ故きっと冷ややかな人なのだろうと思っていた。けれど実際に言葉を交わしてみれば どうだろう。とても真っ直ぐで、きっと嫌味や皮肉が通じない人なのだろうと思う。影山と似たタイプなのかもしれない。思い浮かんだ後輩と重なる部分が多くて、口元が緩んだ。そこで ふと顔を上げれば、牛島くんとしっかり目が合いドキリとする。先ほどから何となく感じていた視線は、気の所為じゃなかった。思わず吹き出してしまったあたりから、彼はずっと私を見ている。逃げることが許されないような、その真っ直ぐな眼で。
「どうかした?」
「ああ、やっと笑ったな」
「……!」
それで頭に思い浮かんだのは、先日彼に言われた言葉。私はいつも困った顔をしていて、笑った顔を見てみたいと思っている、と 確かに牛島くんは言っていた。きっと、それに対しての“やっと”という表現なのだろう。
気恥ずかしくて息が詰まるような感覚になる私の隣で、瀬見くんが へぇ、と悪戯っぽく笑った。そうかそうか、なるほどな。一人で納得したようにうんうんと頷く瀬見くんに不思議そうな視線を向けているのは牛島くんも同じで、私たち2人は置き去りにされているようだ。牛島くんと顔を合わせて首を傾げた。
「おい佐倉、若利って呼んでみろよ」
「へ?」
「“牛島くん”じゃなくて“若利”」
「わ、若利、くん?」
脈絡もなく告げられた提案に 何の意味があるのだろうと不思議に思いながらも、いいからほら、と 瀬見くんが楽しそうに急かすから、戸惑いながらも言われたままにその呼び名を口にする。様子を窺うように見上げた先の牛島くんは驚いたように目を見開いて固まっていて、瀬見くんの誘導であったとはいえ 無遠慮な馴れ馴れしいやつだと思われてしまっただろうか。或いは不快な思いをさせてしまっただろうか。そんな不安が沸き起こり謝罪を口にしようかと思ったところで、私より先に声を発したのは瀬見くんだった。
「どうだ、若利」
「――ああ、いいな。悪くない」
目を細めた牛島くんの口元が緩やかに弧を描いて、ふっと柔らかい吐息が溢れた。わらった。そう思うと同時に彼の笑顔から目を離せなくて、今度は私の方が固まってしまう。普段は相手にどこか近寄り難ささえ抱かせる牛島くんだけど、笑顔はなんて事のない年相応の青年のものでドキリとする。こんな顔も、するんだ。牛島くんを見上げたままの私の隣で、瀬見くんは悪戯が成功した子供の用に満足気な笑顔を浮かべている。どうして君がそんなに楽しそうなの、なんて 浮かんだ疑問は何となく口にしないことにした。
「佐倉って彼氏いた?」
「え?あ、まぁ、一応…」
「及川がそうだ」
「あぁ!? 青城のかよ!? そりゃまた面倒臭ぇ…」
脈絡のない質問の後で瀬見くんは何かを考えるような素振りをしながらブツブツと文句を言っていたけれど、まぁ仕方ねぇな、とすぐに顔を上げる。「いいか佐倉、“若利”だぞ!」釘をさすようにそう言って先に教室に入って行ってしまった瀬見くんの背中を見送った。これからも若利くんと呼べ、と そう意味だろう。理由はよく分からないけれど、瀬見くんはどうしても私にファーストネームを呼ばせたいらしい。だけどそれは私が決めることではなくて、本人の意思というものもあるわけで。ちらりと視線だけを持ち上げれば、牛島くんと目が合った。
「…若利くん、で いいの?」
「ああ、俺は構わない」
瀬見の考えていることは分からないがな、と そう言う彼の口元は緩やかな弧を描いていた。若利くん。確認するようにもう一度呟いた私に向けられる視線はとても優しいもので、きゅっと心臓が鳴った気がした。それから ぽん、と 若利くんの大きな手が頭に乗せられて それ以上は何も言わずに教室へと向かって廊下を歩み始めた大きな背中を、ただただ馬鹿みたいに見つめる。
(―――それは、ずるいと思う…!)
呆然と立ち尽くし、誰に対するわけでもなく 誤魔化すように自分の前髪に触れた。若利くんと同じクラスになったことのない私にとっては、学校での彼の印象なんて廊下で見かけた時ぐらいのもので。それでも彼が女子生徒と関わっている姿はなかなか想像できなくて。そんな彼が、何の躊躇いもなく、こんなにも自然に、異性である私に触れるなど どうして想像できただろう。完全に、不意打ちだ。謂わばこれは奇襲であって、虚を衝かれたわけで、だからこんなにも心臓が煩いのだと、言い訳のように自分に言い聞かせていた。
◇
「あれ、七瀬チャン帰り?」
いつの間にか“若利くん”という呼び方に慣れてきた或る日の放課後。下校しようと下足ホールを出て歩いていると、私を呼ぶそんな声が聞こえてきた。振り向けば渡り廊下に、ジャージ姿の天童と若利くんの姿がある。これから部活に向かうのだろう。天童から投げかけられた質問に肯定の返事をすれば、そっか、とさほど興味がなさそうな言葉が返って来る。けれどすぐに あ、と何かを思い付いたような声を出した天童は、すごく楽しそうな笑顔を浮かべた。
「七瀬チャンこの後の予定は?」
「うん?特に何もないけど」
「じゃあちょっと練習見ていきなよ」
「へ?」
唐突な天童のお誘いに間抜けな声が出る。バレーボールは、好きだ。徹と付き合うようになってから私にとって間違いなく一番身近なスポーツであり、ルールだって大体わかるし、練習を見ているだけで楽しいと思うぐらいには好きだ。けれど、かと言ってそれが 文字通り部外者である私が、用もなく練習を見に行く理由になるとは思えない。だから首を傾げて天童を見上げた。
「マネージャーでもないのに迷惑でしょ」
「まさか。若利君て七瀬チャン大好きだし、喜ぶよ」
「………は?」
なんて事のないように天童の口から発せられたのはとんでもない内容で、一瞬にして私の思考は停止してしまった。この男は、なにを言っている。ね、若利君!なんて 軽い調子で天童に同意を求められた若利くんは「ああ、そうだな」なんて、やっぱり なんて事のないように肯定してしまう。誤魔化すことも、動じることも、狼狽えることもなく、一点の曇りもなく。平然としている目の前の2人の様子に 私の方が動揺してしまうけれど、私のこの反応は至って正当で正常だと思う。けれどあまりにも“普段通り”な天童と若利くんに、彼らの発言は冗談でしかないのだと、そう考えるのが当然だろう。動揺を隠しきることはできず、だけど冗談だって分かってるよと伝わるように、へらりと笑みを浮かべる。
「ま…またまたー、若利くんも悪ノリってするんだね、意外」
「いや、冗談の類は得意ではない」
「え…?」
「俺がお前に惹かれているという話は、冗談でも悪ノリでもない事実だ」
向けられる視線は逃げられないほど真っ直ぐで、胸が苦しくなる。呼吸も、時間も、全てが止まってしまった気がした。音をなくした世界の中で、若利くんは危険だという警鐘だけが頭の奥でガンガンと鳴り響いていた。
「佐倉」
教室のドアを潜ろうとしたところで後ろから名前を呼ばれた。大きな音量ではないのに 賑やかな廊下でも聞き取れた、低くて落ち着いた耳触りの良いその声に振り返れば、そこには その声で想像した通り牛島くんが立っていた。背の高い牛島くんは目立つから 私は何度も校内で彼を見かけたことはあったけれど、こうしてしっかりと間近に対面するのはこれが初めてだ。妙な緊張感のようなものを抱きながら おはようと挨拶をすれば、ああ、と短い返事が返される。表情の変化も少ない彼から発せられるその言葉は冷たいもののようにも聞こえるけれど、どうしてだろう、今の私には決してそうじゃないと断言できる。
「本当にうちの生徒だったんだな」
「うん、そうだよ。…意外?」
「いや…なぜ今まで気が付かなかったのかと思っただけだ」
「…?」
「あん?若利と佐倉?なんだよ珍しい組み合わせだな」
「あ、瀬見くん。おはよう」
「おーす」
牛島くんの言葉に首を傾げたところで、同じクラスでバレー部員でもある瀬見英太くんが現れた。彼は私と牛島くんを不思議そうに見遣るけれど、私たちを珍しい組み合わせだと言った瀬見くんの言い分は的を得ている。何せ校内で私たちが並ぶのはこれが初めてであり、間違っても“よく見る光景”ではないのだ。ちょっとね、なんて 説明の仕方も分からず誤魔化すような言葉を発した私とは裏腹に、牛島くんは「道で会った」なんて あまりにも簡潔すぎる説明をするから、思わず小さく吹き出すように笑ってしまった。
そんな私に牛島くんは無礼だと怒るわけでもなく、どうした、なんて不思議そうに言うから余計に可笑しくなってしまう。くすくすと笑う私に、瀬見くんが苦笑いを浮かべながら声を掛けた。
「悪いな佐倉、若利はこういう奴だ」
「ううん、なんか いい意味でイメージと違っただけ」
私のイメージしていた“牛島若利”は、徹が憎むほどに嫌っている人で、圧倒的な強さを持っていて、ポーカーフェイスで、口数も多くなくて、それ故きっと冷ややかな人なのだろうと思っていた。けれど実際に言葉を交わしてみれば どうだろう。とても真っ直ぐで、きっと嫌味や皮肉が通じない人なのだろうと思う。影山と似たタイプなのかもしれない。思い浮かんだ後輩と重なる部分が多くて、口元が緩んだ。そこで ふと顔を上げれば、牛島くんとしっかり目が合いドキリとする。先ほどから何となく感じていた視線は、気の所為じゃなかった。思わず吹き出してしまったあたりから、彼はずっと私を見ている。逃げることが許されないような、その真っ直ぐな眼で。
「どうかした?」
「ああ、やっと笑ったな」
「……!」
それで頭に思い浮かんだのは、先日彼に言われた言葉。私はいつも困った顔をしていて、笑った顔を見てみたいと思っている、と 確かに牛島くんは言っていた。きっと、それに対しての“やっと”という表現なのだろう。
気恥ずかしくて息が詰まるような感覚になる私の隣で、瀬見くんが へぇ、と悪戯っぽく笑った。そうかそうか、なるほどな。一人で納得したようにうんうんと頷く瀬見くんに不思議そうな視線を向けているのは牛島くんも同じで、私たち2人は置き去りにされているようだ。牛島くんと顔を合わせて首を傾げた。
「おい佐倉、若利って呼んでみろよ」
「へ?」
「“牛島くん”じゃなくて“若利”」
「わ、若利、くん?」
脈絡もなく告げられた提案に 何の意味があるのだろうと不思議に思いながらも、いいからほら、と 瀬見くんが楽しそうに急かすから、戸惑いながらも言われたままにその呼び名を口にする。様子を窺うように見上げた先の牛島くんは驚いたように目を見開いて固まっていて、瀬見くんの誘導であったとはいえ 無遠慮な馴れ馴れしいやつだと思われてしまっただろうか。或いは不快な思いをさせてしまっただろうか。そんな不安が沸き起こり謝罪を口にしようかと思ったところで、私より先に声を発したのは瀬見くんだった。
「どうだ、若利」
「――ああ、いいな。悪くない」
目を細めた牛島くんの口元が緩やかに弧を描いて、ふっと柔らかい吐息が溢れた。わらった。そう思うと同時に彼の笑顔から目を離せなくて、今度は私の方が固まってしまう。普段は相手にどこか近寄り難ささえ抱かせる牛島くんだけど、笑顔はなんて事のない年相応の青年のものでドキリとする。こんな顔も、するんだ。牛島くんを見上げたままの私の隣で、瀬見くんは悪戯が成功した子供の用に満足気な笑顔を浮かべている。どうして君がそんなに楽しそうなの、なんて 浮かんだ疑問は何となく口にしないことにした。
「佐倉って彼氏いた?」
「え?あ、まぁ、一応…」
「及川がそうだ」
「あぁ!? 青城のかよ!? そりゃまた面倒臭ぇ…」
脈絡のない質問の後で瀬見くんは何かを考えるような素振りをしながらブツブツと文句を言っていたけれど、まぁ仕方ねぇな、とすぐに顔を上げる。「いいか佐倉、“若利”だぞ!」釘をさすようにそう言って先に教室に入って行ってしまった瀬見くんの背中を見送った。これからも若利くんと呼べ、と そう意味だろう。理由はよく分からないけれど、瀬見くんはどうしても私にファーストネームを呼ばせたいらしい。だけどそれは私が決めることではなくて、本人の意思というものもあるわけで。ちらりと視線だけを持ち上げれば、牛島くんと目が合った。
「…若利くん、で いいの?」
「ああ、俺は構わない」
瀬見の考えていることは分からないがな、と そう言う彼の口元は緩やかな弧を描いていた。若利くん。確認するようにもう一度呟いた私に向けられる視線はとても優しいもので、きゅっと心臓が鳴った気がした。それから ぽん、と 若利くんの大きな手が頭に乗せられて それ以上は何も言わずに教室へと向かって廊下を歩み始めた大きな背中を、ただただ馬鹿みたいに見つめる。
(―――それは、ずるいと思う…!)
呆然と立ち尽くし、誰に対するわけでもなく 誤魔化すように自分の前髪に触れた。若利くんと同じクラスになったことのない私にとっては、学校での彼の印象なんて廊下で見かけた時ぐらいのもので。それでも彼が女子生徒と関わっている姿はなかなか想像できなくて。そんな彼が、何の躊躇いもなく、こんなにも自然に、異性である私に触れるなど どうして想像できただろう。完全に、不意打ちだ。謂わばこれは奇襲であって、虚を衝かれたわけで、だからこんなにも心臓が煩いのだと、言い訳のように自分に言い聞かせていた。
◇
「あれ、七瀬チャン帰り?」
いつの間にか“若利くん”という呼び方に慣れてきた或る日の放課後。下校しようと下足ホールを出て歩いていると、私を呼ぶそんな声が聞こえてきた。振り向けば渡り廊下に、ジャージ姿の天童と若利くんの姿がある。これから部活に向かうのだろう。天童から投げかけられた質問に肯定の返事をすれば、そっか、とさほど興味がなさそうな言葉が返って来る。けれどすぐに あ、と何かを思い付いたような声を出した天童は、すごく楽しそうな笑顔を浮かべた。
「七瀬チャンこの後の予定は?」
「うん?特に何もないけど」
「じゃあちょっと練習見ていきなよ」
「へ?」
唐突な天童のお誘いに間抜けな声が出る。バレーボールは、好きだ。徹と付き合うようになってから私にとって間違いなく一番身近なスポーツであり、ルールだって大体わかるし、練習を見ているだけで楽しいと思うぐらいには好きだ。けれど、かと言ってそれが 文字通り部外者である私が、用もなく練習を見に行く理由になるとは思えない。だから首を傾げて天童を見上げた。
「マネージャーでもないのに迷惑でしょ」
「まさか。若利君て七瀬チャン大好きだし、喜ぶよ」
「………は?」
なんて事のないように天童の口から発せられたのはとんでもない内容で、一瞬にして私の思考は停止してしまった。この男は、なにを言っている。ね、若利君!なんて 軽い調子で天童に同意を求められた若利くんは「ああ、そうだな」なんて、やっぱり なんて事のないように肯定してしまう。誤魔化すことも、動じることも、狼狽えることもなく、一点の曇りもなく。平然としている目の前の2人の様子に 私の方が動揺してしまうけれど、私のこの反応は至って正当で正常だと思う。けれどあまりにも“普段通り”な天童と若利くんに、彼らの発言は冗談でしかないのだと、そう考えるのが当然だろう。動揺を隠しきることはできず、だけど冗談だって分かってるよと伝わるように、へらりと笑みを浮かべる。
「ま…またまたー、若利くんも悪ノリってするんだね、意外」
「いや、冗談の類は得意ではない」
「え…?」
「俺がお前に惹かれているという話は、冗談でも悪ノリでもない事実だ」
向けられる視線は逃げられないほど真っ直ぐで、胸が苦しくなる。呼吸も、時間も、全てが止まってしまった気がした。音をなくした世界の中で、若利くんは危険だという警鐘だけが頭の奥でガンガンと鳴り響いていた。