宵月に咲くアルカ
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朝。登校して教室に入り、クラスメイトたちに挨拶しながら自席に向かう。
鞄の中から教科書を出していると、ねぇねぇといつものように明るく寄って来たのは三奈ちゃんだった。
「おはよう三奈ちゃん」
「佐倉ってさ、毎日爆豪と一緒に来るよね」
「え?うん、そうだね」
「幼馴染って言ってたけど、やっぱ家も近いの?」
「近いというか、同じかな」
「…はぁ!?」
投げかけられた素朴な疑問に答えれば、近くにいた上鳴がなぜか大袈裟に反応した。おはようと挨拶したけれど、わなわなと震える上鳴に私の声は届いていないのかもしれない。
「ちょっと待て、同じって言ったか!?」
「うん」
「あ、同じマンションってことか!」
「ううん、同じ家」
「なんでだよぉぉぉ!!」
その場に崩れ落ちた上鳴に、何事かと三奈ちゃんの顔を見上げたら「気にしなくていいよ、ちょっとおバカなだけ」と返される。
朝から元気な上鳴に釣られるように、梅雨ちゃんや切島を始めとした数人が寄ってくる。
「私、親がいなくて」
10年ほど前、両親を亡くした。私の母が光己さんと学生時代からの友人だったようで、爆豪家とは物心がつく前から交流がある。そんな中で両親を同時に亡くした幼い私を、なんの躊躇いもなく引き取ってくれたのが光己さんだ。実の両親のことを忘れないでほしいと言われ、養子縁組はしていないため佐倉姓ではあるけれど。
そんな話をすれば、その場にいたみんなの表情は目に見えて曇ってしまった。
「なんか、ごめん」
「え?ただの昔話だよ」
明らかに凹んでいたのは三奈ちゃんと上鳴で、きっと私に辛い話をさせてしまったと思っているのだろう。
正直言えば、両親を亡くしたあの日のことを今でもたまに夢に見る。けれど、日々その傷に打ち拉がれながら生きているわけではない。
だから私は、その場にいたみんなに気にしないでと笑顔を向けた。
「幼馴染より家族に近いのね」
「そうだね…世話の焼ける弟って感じ」
「誰が弟じゃボケ!世話焼いてんのは俺の方だわ!」
「あ、聞こえてた」
梅雨ちゃんの言葉に肯定すれば、話が聞こえていたらしい勝己の怒号がすかさず飛んできて笑ってしまった。
◇◇◇
そして午後。今日のヒーロー基礎学は人命救助訓練だそうだ。希望者はコスチュームに着替え、少し離れた場所にあるという訓練施設まではバスで移動する。
今日は相澤先生も一緒にヒーロー基礎学を見てくれるようで、バスの引率も相澤先生だった。オールマイトはやっぱり忙しいのだろうか。
バスの中でワイワイと騒いでいるうちに到着したのは、ウソの 災害や 事故 ルームであり、ここを作ったというスペースヒーロー「13号」が出迎えてくれた。そして13号先生は、個性の危険性について静かに語る。
個性は使い方一つで、人を助ける力にも、人を傷つける力にもなる。先生の話を聞きながら、自然と自分の右手へ視線を落とす。
私の個性も同じだ。誰かを守り癒せる力。それと同時に、誰かを閉じ込めてしまうことだってできる。だからこそ、私はこの個性を正しく使って一人でも多くの人を助けたいと思う。
「ご清聴ありがとうございました」
ペコリとお辞儀をする13号先生に、生徒たちのあちこちから拍手と歓声が起きる。大切な話を聞けてよかった。
盛り上がりがひと段落したところで、そんじゃあまずは…と 相澤先生が次の指示を出そうとしたその瞬間。
「一かたまりになって動くな!」
「え?」
珍しく、先生の大きな声が響く。
先生の視線の先、広場の中央に黒い霧が広がったかと思うと、その中からいかにも柄の悪そうな男たちがゾロゾロと出てくる。
入試時のように合図なく訓練が開始されたのかとも思ったが、相澤先生の様子を見る限りそうじゃない。
「動くな!あれは敵 だ!!」
数えられないほどの敵の中に、先生は一人で飛び込んで行く。
侵入者用センサーも作動せず、そして実際にあの数の敵の侵入を許しているのなら紛れもなく非常事態だ。相澤先生が心配ではあるけれど、私たち生徒が近くにいては先生だって引くに引けないだろうし、子供ができる事はきっと少ない。私たちがここにいても足手まといになるだけだ。
13号先生の誘導で避難するべくゲートに向かう私たちの前に、黒い霧が立ちはだかった。
「そうはさせませんよ」
敵連合を自称する彼らがこの場に来た目的は、平和の象徴・オールマイトを殺すこと。この霧のような個性を持つ男がそう告げた直後、急速に広がった“黒”に呑み込まれた。
◇◇◇
黒いモヤに包まれたかと思った直後、すぐに霧が晴れた。先ほどまでと景色が変わっていることと、隣に轟がいること、何人もの敵がこちらを見ていることに気付いた瞬間。
「後ろにいろよ」
「え?」
そう言った轟に腕を引かれ、彼の背中に隠されるような立ち位置になった直後だった。
パキ…と 轟の前方の広範囲で地面もろとも氷漬けにされた敵たち。いっそ美しいほどのその景色に息を呑む。
「子ども相手になさけねぇな」
「っ…!」
「しっかりしろよ、大人だろ?」
(すっご…)
圧倒的すぎる。この人数を相手に、こんな短時間で制圧してしまうなんて。轟の個性は対人訓練の時もモニター越しに見はしたけれど、実際に目にするとそれ以上だ。
そんな彼の実力を目の当たりにして、少し気が緩んでいたのかもしれない。
「舐めるな!」
「!?」
上手く轟の攻撃範囲から逸れていたのだろうか。敵の1人が背後から刃物を手に飛びかかってきて、咄嗟に雪華を展開する。その結界に弾かれるように尻もちをついたその男を、すかさず轟が氷で固めてしまった。チラチラと、細かい光が舞う。
「悪い佐倉」
「ううん、私もこれぐらい役に立たなきゃ」
「…綺麗だな」
「え?」
「お前の個性」
パチパチと瞬きをしてから、笑ってお礼を言う。
それにしても、だ。オールマイトを殺すと意気込んでいる敵たちが、どれほどの精鋭を集めているのかと思えば 子ども相手に不意打ちを狙うような戦い方をするなんて。
とはいえ、攻撃には向かない個性のクラスメイトたちだっている。
「みんな大丈夫かな…」
「行っていいぞ」
「でも」
「俺は大丈夫だ。コイツらに聞きたいこともある」
行け、と 轟が私の背中を押した。こんなにも頼もしい言葉があるだろうか。
私には、轟のように一瞬で制圧する力はないけど、守れる力はある。誰かが傷ついているなら、私が行かなきゃ。そう思った。
じゃあ、ちょっと様子見てくる。轟にそう声をかけてから、私はその場を離れた。
鞄の中から教科書を出していると、ねぇねぇといつものように明るく寄って来たのは三奈ちゃんだった。
「おはよう三奈ちゃん」
「佐倉ってさ、毎日爆豪と一緒に来るよね」
「え?うん、そうだね」
「幼馴染って言ってたけど、やっぱ家も近いの?」
「近いというか、同じかな」
「…はぁ!?」
投げかけられた素朴な疑問に答えれば、近くにいた上鳴がなぜか大袈裟に反応した。おはようと挨拶したけれど、わなわなと震える上鳴に私の声は届いていないのかもしれない。
「ちょっと待て、同じって言ったか!?」
「うん」
「あ、同じマンションってことか!」
「ううん、同じ家」
「なんでだよぉぉぉ!!」
その場に崩れ落ちた上鳴に、何事かと三奈ちゃんの顔を見上げたら「気にしなくていいよ、ちょっとおバカなだけ」と返される。
朝から元気な上鳴に釣られるように、梅雨ちゃんや切島を始めとした数人が寄ってくる。
「私、親がいなくて」
10年ほど前、両親を亡くした。私の母が光己さんと学生時代からの友人だったようで、爆豪家とは物心がつく前から交流がある。そんな中で両親を同時に亡くした幼い私を、なんの躊躇いもなく引き取ってくれたのが光己さんだ。実の両親のことを忘れないでほしいと言われ、養子縁組はしていないため佐倉姓ではあるけれど。
そんな話をすれば、その場にいたみんなの表情は目に見えて曇ってしまった。
「なんか、ごめん」
「え?ただの昔話だよ」
明らかに凹んでいたのは三奈ちゃんと上鳴で、きっと私に辛い話をさせてしまったと思っているのだろう。
正直言えば、両親を亡くしたあの日のことを今でもたまに夢に見る。けれど、日々その傷に打ち拉がれながら生きているわけではない。
だから私は、その場にいたみんなに気にしないでと笑顔を向けた。
「幼馴染より家族に近いのね」
「そうだね…世話の焼ける弟って感じ」
「誰が弟じゃボケ!世話焼いてんのは俺の方だわ!」
「あ、聞こえてた」
梅雨ちゃんの言葉に肯定すれば、話が聞こえていたらしい勝己の怒号がすかさず飛んできて笑ってしまった。
そして午後。今日のヒーロー基礎学は人命救助訓練だそうだ。希望者はコスチュームに着替え、少し離れた場所にあるという訓練施設まではバスで移動する。
今日は相澤先生も一緒にヒーロー基礎学を見てくれるようで、バスの引率も相澤先生だった。オールマイトはやっぱり忙しいのだろうか。
バスの中でワイワイと騒いでいるうちに到着したのは、
個性は使い方一つで、人を助ける力にも、人を傷つける力にもなる。先生の話を聞きながら、自然と自分の右手へ視線を落とす。
私の個性も同じだ。誰かを守り癒せる力。それと同時に、誰かを閉じ込めてしまうことだってできる。だからこそ、私はこの個性を正しく使って一人でも多くの人を助けたいと思う。
「ご清聴ありがとうございました」
ペコリとお辞儀をする13号先生に、生徒たちのあちこちから拍手と歓声が起きる。大切な話を聞けてよかった。
盛り上がりがひと段落したところで、そんじゃあまずは…と 相澤先生が次の指示を出そうとしたその瞬間。
「一かたまりになって動くな!」
「え?」
珍しく、先生の大きな声が響く。
先生の視線の先、広場の中央に黒い霧が広がったかと思うと、その中からいかにも柄の悪そうな男たちがゾロゾロと出てくる。
入試時のように合図なく訓練が開始されたのかとも思ったが、相澤先生の様子を見る限りそうじゃない。
「動くな!あれは
数えられないほどの敵の中に、先生は一人で飛び込んで行く。
侵入者用センサーも作動せず、そして実際にあの数の敵の侵入を許しているのなら紛れもなく非常事態だ。相澤先生が心配ではあるけれど、私たち生徒が近くにいては先生だって引くに引けないだろうし、子供ができる事はきっと少ない。私たちがここにいても足手まといになるだけだ。
13号先生の誘導で避難するべくゲートに向かう私たちの前に、黒い霧が立ちはだかった。
「そうはさせませんよ」
敵連合を自称する彼らがこの場に来た目的は、平和の象徴・オールマイトを殺すこと。この霧のような個性を持つ男がそう告げた直後、急速に広がった“黒”に呑み込まれた。
黒いモヤに包まれたかと思った直後、すぐに霧が晴れた。先ほどまでと景色が変わっていることと、隣に轟がいること、何人もの敵がこちらを見ていることに気付いた瞬間。
「後ろにいろよ」
「え?」
そう言った轟に腕を引かれ、彼の背中に隠されるような立ち位置になった直後だった。
パキ…と 轟の前方の広範囲で地面もろとも氷漬けにされた敵たち。いっそ美しいほどのその景色に息を呑む。
「子ども相手になさけねぇな」
「っ…!」
「しっかりしろよ、大人だろ?」
(すっご…)
圧倒的すぎる。この人数を相手に、こんな短時間で制圧してしまうなんて。轟の個性は対人訓練の時もモニター越しに見はしたけれど、実際に目にするとそれ以上だ。
そんな彼の実力を目の当たりにして、少し気が緩んでいたのかもしれない。
「舐めるな!」
「!?」
上手く轟の攻撃範囲から逸れていたのだろうか。敵の1人が背後から刃物を手に飛びかかってきて、咄嗟に雪華を展開する。その結界に弾かれるように尻もちをついたその男を、すかさず轟が氷で固めてしまった。チラチラと、細かい光が舞う。
「悪い佐倉」
「ううん、私もこれぐらい役に立たなきゃ」
「…綺麗だな」
「え?」
「お前の個性」
パチパチと瞬きをしてから、笑ってお礼を言う。
それにしても、だ。オールマイトを殺すと意気込んでいる敵たちが、どれほどの精鋭を集めているのかと思えば 子ども相手に不意打ちを狙うような戦い方をするなんて。
とはいえ、攻撃には向かない個性のクラスメイトたちだっている。
「みんな大丈夫かな…」
「行っていいぞ」
「でも」
「俺は大丈夫だ。コイツらに聞きたいこともある」
行け、と 轟が私の背中を押した。こんなにも頼もしい言葉があるだろうか。
私には、轟のように一瞬で制圧する力はないけど、守れる力はある。誰かが傷ついているなら、私が行かなきゃ。そう思った。
じゃあ、ちょっと様子見てくる。轟にそう声をかけてから、私はその場を離れた。
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