宵月に咲くアルカ
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訓練終了のアナウンスを聞き、雪華を解く。解放された梅雨ちゃんと常闇も感嘆の言葉をかけてくれるけれど、笑顔でお礼を言うのが精一杯だ。
ズキズキと頭の奥が痛い。
「あーもう、頭痛い…」
「おい、大丈夫か佐倉」
「副作用みたいなもんか?」
こめかみを抑えて座り込んだ私の横に、切島も同じようにしゃがみ込む。瀬呂も心配そうにこちらを見下ろしている。
そう、私の個性は万能ではないのだ。結界を張り守ることはできるけれど、その大きさ、個数、時間などによって頭痛や耳鳴りといった反動が起きる。訓練を積めば反動が少なくなるのかもしれないが、今の私ではこれが限界である。
つまりここが私の伸び代ってことだよね、と 前向きに捉えているけれど……痛いものは痛い。
「負ぶってやろうか?」
「んー…歩けると思う。ありがとう」
切島の申し出はとてもありがたくて、その言葉に甘えたくなってしまったけど。対等な同級生でありたいという意地もあって、気持ちだけ受け取ることにした。
瀬呂がこちらに差し出してくれた手を握れば、グイと強い力で引っ張りあげてくれる。細身だと思っていたけど、男の子なんだなぁなんてことを考えた。ズキズキと続く頭痛に歩くことを放棄しそうになる私は、切島に支えられながらモニタールームに戻って行くこととなる。
「佐倉ーー!何あれチョーカッコいいじゃん!」
モニタールームに戻ると、三奈ちゃんが勢いよく飛び込んできた。耐えきれずふらついた私を、切島が三奈ちゃんもろとも支えてくれる。高校生にもなれば男の子ってこんなにも逞しいのだろうか、と つい先日感じた幼馴染の逞しさと重なる部分があった。
すごいすごいと興奮気味に伝えてくれる三奈ちゃんに、笑顔でお礼を伝える。
「芦戸、今はやめとけ。歩けねぇレベルなんだよ」
「え!?ごめん、大丈夫!?」
瀬呂の声に飛び退くように私から離れた三奈ちゃんが、あたふたと慌てながら謝ってくれたけれど、もちろん責める気なんて微塵もない。大丈夫だよと笑えば、佐倉の“大丈夫”は信じるべからず、なんて瀬呂が言う。ジトリと見やれば、事実だろ?と笑われてしまって返す言葉もない。
「大丈夫か、佐倉少女」
オールマイトが私の顔を覗き込む。君もリカバリーガールのところへ行った方がいいのでは、と 本気で心配してくれているのが伝わってくる。きっとこの人は、この屈強な肉体と圧倒的な画風に似つかわしくないほどに優しい人なのだろう。
大丈夫ですと伝えれば、せめて良くなるまで座っていなさいとパイプ椅子を出してくれたので、お言葉に甘えることにする。
壁際に用意してもらった椅子に腰を下ろし、ここまで支えてくれていた切島を見上げた。
「ありがとう、切島」
「気にすんな。あんま無理すんなよ」
「精進します」
「鍛えろとは言ってねーよ」
「いたっ」
ピンッと指で額を弾かれ、小さな痛みを感じたそこを手で押さえる。瀬呂も切島も、私に容赦ない気がする。
「少しは良くなってるのか?」
「うん。時間が経てば治るよ」
「…ちょっとでも休んでろよ」
ぽんぽんと私の頭に手を乗せて、恐らく瀬呂の元に戻っていく切島の背中に もう一度ありがとうと伝えた。
ズキズキと痛みは続いているけれど、訓練終了直後より幾分かマシになっているのは事実なのだ。次の対戦の準備の様子が映されているモニターを見ながら、コツンと壁に頭を預けた。
「なぁ、佐倉」
すっと隣に立ったのは上鳴だった。どうしたのと声を出す代わりに、首を傾げて彼を見上げる。視線の先の上鳴は、どこか照れ臭そうに頬を掻きながら口を開いた。
「俺、お前に本気で惚れたかもしんねぇ」
「……え?」
全く予想外の言葉だ。目を丸くして数回瞬きしたあと、思わず笑ってしまう。
きっと、私の個性のことだろう。雪とも夜桜ともつかない光が舞うその情景が”幻想的で美しい”と評してもらう機会は幾度もあった。私自身もそう思うし、この個性に愛着も持っている。だから素直に嬉しいと思った。惚れた、なんて表現は初めてだったけれど。
「そんな言い方したら勘違いされちゃうよ」
「え?」
「でもありがとう。嬉しい」
今なお続く頭痛で、上手く笑えていたか分からないけれど。上鳴が目を見開いてグッと息を飲んだのが分かった。
(か、かわいすぎね…?)
「どけ」
「うお!?」
その直後、上鳴との間へ割って入るように私の隣へ立ったのは勝己だった。俯く彼の表情はよく見えない。出久との戦いを終えて、彼もまた思うところがあるのだろう。珍しく下を向いている勝己に、どんな言葉をかけるのが良いのだろうか。一瞬そんなことを思案したけれど、私より先に口を開いたのは勝己だった。
「無理すんなっつってんだろが」
「無理はしてないよ」
予想通りというか、何と言うか。勝己から発せられたのは私への小言で、思わず苦笑いを浮かべる。
「自分の限度は知っとかなきゃでしょ」
「……」
事実、こうして話せるぐらいの余裕はあるのだ。勝己からの返事はない。ただ、勝己は乱暴に私の頭へ手を置くと ぐしゃぐしゃと髪を掻き回した。
「わ、ちょっと勝己!」
抗議する頃には、もう背中を向けて私から離れていく。その姿を見送りながら、私はくしゃくしゃになった髪を手で整えた。
「もう……」
あれはきっと。勝己なりの「無事でよかった」なのだ。
ズキズキと頭の奥が痛い。
「あーもう、頭痛い…」
「おい、大丈夫か佐倉」
「副作用みたいなもんか?」
こめかみを抑えて座り込んだ私の横に、切島も同じようにしゃがみ込む。瀬呂も心配そうにこちらを見下ろしている。
そう、私の個性は万能ではないのだ。結界を張り守ることはできるけれど、その大きさ、個数、時間などによって頭痛や耳鳴りといった反動が起きる。訓練を積めば反動が少なくなるのかもしれないが、今の私ではこれが限界である。
つまりここが私の伸び代ってことだよね、と 前向きに捉えているけれど……痛いものは痛い。
「負ぶってやろうか?」
「んー…歩けると思う。ありがとう」
切島の申し出はとてもありがたくて、その言葉に甘えたくなってしまったけど。対等な同級生でありたいという意地もあって、気持ちだけ受け取ることにした。
瀬呂がこちらに差し出してくれた手を握れば、グイと強い力で引っ張りあげてくれる。細身だと思っていたけど、男の子なんだなぁなんてことを考えた。ズキズキと続く頭痛に歩くことを放棄しそうになる私は、切島に支えられながらモニタールームに戻って行くこととなる。
「佐倉ーー!何あれチョーカッコいいじゃん!」
モニタールームに戻ると、三奈ちゃんが勢いよく飛び込んできた。耐えきれずふらついた私を、切島が三奈ちゃんもろとも支えてくれる。高校生にもなれば男の子ってこんなにも逞しいのだろうか、と つい先日感じた幼馴染の逞しさと重なる部分があった。
すごいすごいと興奮気味に伝えてくれる三奈ちゃんに、笑顔でお礼を伝える。
「芦戸、今はやめとけ。歩けねぇレベルなんだよ」
「え!?ごめん、大丈夫!?」
瀬呂の声に飛び退くように私から離れた三奈ちゃんが、あたふたと慌てながら謝ってくれたけれど、もちろん責める気なんて微塵もない。大丈夫だよと笑えば、佐倉の“大丈夫”は信じるべからず、なんて瀬呂が言う。ジトリと見やれば、事実だろ?と笑われてしまって返す言葉もない。
「大丈夫か、佐倉少女」
オールマイトが私の顔を覗き込む。君もリカバリーガールのところへ行った方がいいのでは、と 本気で心配してくれているのが伝わってくる。きっとこの人は、この屈強な肉体と圧倒的な画風に似つかわしくないほどに優しい人なのだろう。
大丈夫ですと伝えれば、せめて良くなるまで座っていなさいとパイプ椅子を出してくれたので、お言葉に甘えることにする。
壁際に用意してもらった椅子に腰を下ろし、ここまで支えてくれていた切島を見上げた。
「ありがとう、切島」
「気にすんな。あんま無理すんなよ」
「精進します」
「鍛えろとは言ってねーよ」
「いたっ」
ピンッと指で額を弾かれ、小さな痛みを感じたそこを手で押さえる。瀬呂も切島も、私に容赦ない気がする。
「少しは良くなってるのか?」
「うん。時間が経てば治るよ」
「…ちょっとでも休んでろよ」
ぽんぽんと私の頭に手を乗せて、恐らく瀬呂の元に戻っていく切島の背中に もう一度ありがとうと伝えた。
ズキズキと痛みは続いているけれど、訓練終了直後より幾分かマシになっているのは事実なのだ。次の対戦の準備の様子が映されているモニターを見ながら、コツンと壁に頭を預けた。
「なぁ、佐倉」
すっと隣に立ったのは上鳴だった。どうしたのと声を出す代わりに、首を傾げて彼を見上げる。視線の先の上鳴は、どこか照れ臭そうに頬を掻きながら口を開いた。
「俺、お前に本気で惚れたかもしんねぇ」
「……え?」
全く予想外の言葉だ。目を丸くして数回瞬きしたあと、思わず笑ってしまう。
きっと、私の個性のことだろう。雪とも夜桜ともつかない光が舞うその情景が”幻想的で美しい”と評してもらう機会は幾度もあった。私自身もそう思うし、この個性に愛着も持っている。だから素直に嬉しいと思った。惚れた、なんて表現は初めてだったけれど。
「そんな言い方したら勘違いされちゃうよ」
「え?」
「でもありがとう。嬉しい」
今なお続く頭痛で、上手く笑えていたか分からないけれど。上鳴が目を見開いてグッと息を飲んだのが分かった。
(か、かわいすぎね…?)
「どけ」
「うお!?」
その直後、上鳴との間へ割って入るように私の隣へ立ったのは勝己だった。俯く彼の表情はよく見えない。出久との戦いを終えて、彼もまた思うところがあるのだろう。珍しく下を向いている勝己に、どんな言葉をかけるのが良いのだろうか。一瞬そんなことを思案したけれど、私より先に口を開いたのは勝己だった。
「無理すんなっつってんだろが」
「無理はしてないよ」
予想通りというか、何と言うか。勝己から発せられたのは私への小言で、思わず苦笑いを浮かべる。
「自分の限度は知っとかなきゃでしょ」
「……」
事実、こうして話せるぐらいの余裕はあるのだ。勝己からの返事はない。ただ、勝己は乱暴に私の頭へ手を置くと ぐしゃぐしゃと髪を掻き回した。
「わ、ちょっと勝己!」
抗議する頃には、もう背中を向けて私から離れていく。その姿を見送りながら、私はくしゃくしゃになった髪を手で整えた。
「もう……」
あれはきっと。勝己なりの「無事でよかった」なのだ。
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