宵月に咲くアルカ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
出久が登校してきて少ししてから、担任――相澤先生も教室へとやってきた。そして担任としての最初の指示が“体操服を着てグラウンドに出ろ”というものだった。
入学式もガイダンスもなく告げられた高校生活最初のイベントは個性把握テストだという。一言で言うなら、“個性あり”の体力テストということらしい。
「面白そう!」
個性禁止が一般的なルールであるため、初めての試みにそんな声が上がった瞬間だった。
「……面白そう、か」
相澤先生の雰囲気が変わった。ヒーローになるための三年間 そんな腹づもりで過ごす気なのか、と。
いつもと違うルールを面白そうだと評したクラスメイトたちの気持ちも、いつもと違うことを“面白そう”などど悠長に構える危険性を説く先生の気持ちも、どちらもよく分かる。
「よし、トータル成績最下位の者は除籍処分としよう」
先生の言葉に、先ほどとはまた違ったざわつきが起こった。
出久は大丈夫だろうか、なんて考えが頭を過ったけれど、正直私も他人の心配をしている場合ではない。
(どうしよっかなぁ…)
顎に手を当て、思案する。中学時代のような“個性なし”の体力テストであれば上位に入れる自信はあった。けれど個性ありとなれば話は変わってくる。
私の個性は、こういう競技には向かないはずだ。みんながどんな個性を持っているのかもまだ分からない今、どう立ち回るのが正解なのか見当もつかない。こういう場面での機転を試されているのかもしれないとは思うけれど、それにしたって私の個性では相性が悪すぎる。
アイディアも浮かばず、うーんと少し唸ったところで後ろから足音が聞こえた。振り向けば、先ほど“個性あり”のソフトボール投げでビックリ記録を叩き出した幼馴染がいた。
「お前は個性なんかいらんだろ」
「え?」
「普通にやってろ」
「…?うん、分かった」
勝己がそう言うなら、きっとそうなのだろう。私にできることをやってみて、それで除籍だと言われたらその時に考えよう。そう決まれば、随分と気持ちが軽くなった気がした。
◇◇◇
出久が、個性を使った。その驚きの意味は、クラスメイト達とは違っていたと思う。みんなは出久の記録に驚いていたのだろうが、私と勝己はそうじゃない。
無個性だと診断を受けたはずの出久が、何かしらの個性を使った。そんな話は聞いていない。いつ、どんな個性が?
気にならないといえば嘘になる。個性のことも、個性を使ったことでおそらく出久が指を傷めたことも、とりあえず今は気にしても仕方がない。自分にそう言い聞かせて、残りの種目に挑んでいた。
「んじゃパパッと結果発表」
気怠そうな声で先生が最終順位を映し出し、歓声が上がる。9位の欄に自分の名前を見つけて胸を撫で下ろす。頑張った方ではないだろうか。
そして最下位は――目線を動かしている間にも、先生の声は続いてた。
「ちなみに除籍はウソな」
合理的虚偽だという先生にホッと安堵し、その後に続いたこれで終わりという声を聞いて出久のもとへと駆け寄った。出久の個性のことも分からない、本当に傷めたのか、どの程度なのかも分からない。だからこそ、私に治せるものなら治したかった。
「出久」
「あ、七瀬…」
「ちょっと手見せて」
「佐倉」
「!」
「使うな。それよりお前は着替えたら職員室に来い」
「え…」
「緑谷はばあさんのとこ行って治してもらえ」
そう言って先生のサイン入りの保健室利用書を出久に渡した相澤先生は、さっさと先に校舎の方へと帰って行く。その背中を呆然と見送る私の心境は、一言で表すなら“ショック”だった。
「入学初日に呼び出しって不穏すぎない…?」
自分で言うのもどうかと思うが、中学時代までずっと“優等生”として過ごしてきたのだ。先生に指導されるようなこともなかった。それなのに、だ。高校生1日目に職員室呼び出しだなんてあんまりだ。
「あれ?」
問題児認定されるのでは、と沈んでいる私の横で透ちゃんの明るい声が響いた。
「そういえば、七瀬ちゃん個性使ってた?」
「え?あ、いや…こういうところでの使い方が分からなくて」
「あーそれで呼び出しか」
「待て、それで9位って佐倉お前…」
「ヤバくない!?…ま、でも呼び出しはドンマイだね」
納得したような上鳴と、ハッとして続いた切島。驚いたような声を出した三奈ちゃんが、ポンと私の肩に手を乗せた。他にも不思議そうな、あるいは心配そうな視線をくれるクラスメイトたちに少し困ったように笑いながら、とりあえず着替えて職員室に行かなくてはと、沈んだ気持ちのまま動き出した。
「失礼しま…、わっ!」
「ああ、来たか佐倉」
体操服から制服に着替え、重い足取りでやってきた職員室。覚悟を決めてドアを開けた瞬間、誰かとぶつかりそうになる。その直後に降ってきたのは、今日ですっかり聞き知った低い声だった。
「相澤先生…」
「ちょうど良かった。ついて来い」
そのまま職員室を出て歩き始めた先生のあとについて行く。職員室じゃないんだ。どこに行くんだろう。そんなことを考えながら歩くこと数十秒。入れ、と先生が扉を開けたのは生徒指導室だった。
いかにも指導、説教を受けそうなその部屋の名前に、さーっと血の気が引くような感覚がした。
室内に足を踏み入れれば、そこは机が一つと、机を挟んで向かい合うように置かれた椅子が2つあるだけだった。ドカリと椅子に腰を下ろした相澤先生が、「座れ」ともう一つの椅子を顎で指す。
「…失礼します」
椅子に腰掛けて、両手は膝の上に。けれど、机を挟んで向かい側にいる先生の顔は怖くて見ることができなかった。
入学式もガイダンスもなく告げられた高校生活最初のイベントは個性把握テストだという。一言で言うなら、“個性あり”の体力テストということらしい。
「面白そう!」
個性禁止が一般的なルールであるため、初めての試みにそんな声が上がった瞬間だった。
「……面白そう、か」
相澤先生の雰囲気が変わった。ヒーローになるための三年間 そんな腹づもりで過ごす気なのか、と。
いつもと違うルールを面白そうだと評したクラスメイトたちの気持ちも、いつもと違うことを“面白そう”などど悠長に構える危険性を説く先生の気持ちも、どちらもよく分かる。
「よし、トータル成績最下位の者は除籍処分としよう」
先生の言葉に、先ほどとはまた違ったざわつきが起こった。
出久は大丈夫だろうか、なんて考えが頭を過ったけれど、正直私も他人の心配をしている場合ではない。
(どうしよっかなぁ…)
顎に手を当て、思案する。中学時代のような“個性なし”の体力テストであれば上位に入れる自信はあった。けれど個性ありとなれば話は変わってくる。
私の個性は、こういう競技には向かないはずだ。みんながどんな個性を持っているのかもまだ分からない今、どう立ち回るのが正解なのか見当もつかない。こういう場面での機転を試されているのかもしれないとは思うけれど、それにしたって私の個性では相性が悪すぎる。
アイディアも浮かばず、うーんと少し唸ったところで後ろから足音が聞こえた。振り向けば、先ほど“個性あり”のソフトボール投げでビックリ記録を叩き出した幼馴染がいた。
「お前は個性なんかいらんだろ」
「え?」
「普通にやってろ」
「…?うん、分かった」
勝己がそう言うなら、きっとそうなのだろう。私にできることをやってみて、それで除籍だと言われたらその時に考えよう。そう決まれば、随分と気持ちが軽くなった気がした。
出久が、個性を使った。その驚きの意味は、クラスメイト達とは違っていたと思う。みんなは出久の記録に驚いていたのだろうが、私と勝己はそうじゃない。
無個性だと診断を受けたはずの出久が、何かしらの個性を使った。そんな話は聞いていない。いつ、どんな個性が?
気にならないといえば嘘になる。個性のことも、個性を使ったことでおそらく出久が指を傷めたことも、とりあえず今は気にしても仕方がない。自分にそう言い聞かせて、残りの種目に挑んでいた。
「んじゃパパッと結果発表」
気怠そうな声で先生が最終順位を映し出し、歓声が上がる。9位の欄に自分の名前を見つけて胸を撫で下ろす。頑張った方ではないだろうか。
そして最下位は――目線を動かしている間にも、先生の声は続いてた。
「ちなみに除籍はウソな」
合理的虚偽だという先生にホッと安堵し、その後に続いたこれで終わりという声を聞いて出久のもとへと駆け寄った。出久の個性のことも分からない、本当に傷めたのか、どの程度なのかも分からない。だからこそ、私に治せるものなら治したかった。
「出久」
「あ、七瀬…」
「ちょっと手見せて」
「佐倉」
「!」
「使うな。それよりお前は着替えたら職員室に来い」
「え…」
「緑谷はばあさんのとこ行って治してもらえ」
そう言って先生のサイン入りの保健室利用書を出久に渡した相澤先生は、さっさと先に校舎の方へと帰って行く。その背中を呆然と見送る私の心境は、一言で表すなら“ショック”だった。
「入学初日に呼び出しって不穏すぎない…?」
自分で言うのもどうかと思うが、中学時代までずっと“優等生”として過ごしてきたのだ。先生に指導されるようなこともなかった。それなのに、だ。高校生1日目に職員室呼び出しだなんてあんまりだ。
「あれ?」
問題児認定されるのでは、と沈んでいる私の横で透ちゃんの明るい声が響いた。
「そういえば、七瀬ちゃん個性使ってた?」
「え?あ、いや…こういうところでの使い方が分からなくて」
「あーそれで呼び出しか」
「待て、それで9位って佐倉お前…」
「ヤバくない!?…ま、でも呼び出しはドンマイだね」
納得したような上鳴と、ハッとして続いた切島。驚いたような声を出した三奈ちゃんが、ポンと私の肩に手を乗せた。他にも不思議そうな、あるいは心配そうな視線をくれるクラスメイトたちに少し困ったように笑いながら、とりあえず着替えて職員室に行かなくてはと、沈んだ気持ちのまま動き出した。
「失礼しま…、わっ!」
「ああ、来たか佐倉」
体操服から制服に着替え、重い足取りでやってきた職員室。覚悟を決めてドアを開けた瞬間、誰かとぶつかりそうになる。その直後に降ってきたのは、今日ですっかり聞き知った低い声だった。
「相澤先生…」
「ちょうど良かった。ついて来い」
そのまま職員室を出て歩き始めた先生のあとについて行く。職員室じゃないんだ。どこに行くんだろう。そんなことを考えながら歩くこと数十秒。入れ、と先生が扉を開けたのは生徒指導室だった。
いかにも指導、説教を受けそうなその部屋の名前に、さーっと血の気が引くような感覚がした。
室内に足を踏み入れれば、そこは机が一つと、机を挟んで向かい合うように置かれた椅子が2つあるだけだった。ドカリと椅子に腰を下ろした相澤先生が、「座れ」ともう一つの椅子を顎で指す。
「…失礼します」
椅子に腰掛けて、両手は膝の上に。けれど、机を挟んで向かい側にいる先生の顔は怖くて見ることができなかった。
