宵月に咲くアルカ
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不確かなこの世界でも
君となら、どこへだって行ける気がした。
◇◇◇
4月。新しい生活が始まる春。私たちは今日から高校生になる。
「さ、2人とも全力で楽しんでおいで!」
「はいっ!」
玄関まで見送りに来てくれた光己さんが快活に笑って言った言葉に、私も自然と笑顔で返事をした。私の隣にいる勝己は一切の反応を示すことはなく、玄関の扉を開ける。母親にそっけない態度を取るなんて思春期真っ盛りじゃないか、と思いはするが、それをわざわざ口にしたりはしない。どやされるだけなのだから。
ドアを開けた勝己が私を待っているのが分かったから、光己さんに「行ってきます!」と挨拶をしてから勝己の後に続いた。
「先に言っとくけど、出久に変に絡まないでよね」
「うっせーわ!」
最寄り駅までの道のりを歩きながら勝己に忠告をするけど、返ってきたのは予想通りの荒っぽい声だった。
せっかく幼馴染3人で同じ高校に入学できたのだから、楽しく過ごしたいじゃないか。私はそう思うけれど、勝己はそうでもないらしい。今更ではあるが。
駅に着き地下鉄に乗れば、通勤通学ラッシュだろう。徒歩通学していた中学までに経験したことのない混雑具合に戸惑ってしまう。なんとか車両に入り、押し込まれるようにドアが閉まれば、まさしく“おしくらまんじゅう”状態である。
周りの人の邪魔にならないように鞄を身体の前に抱え込んで、ふらつかないように気をつけなきゃ、と思ったその時。
「わっ…!?」
グイ、と 肩を強く引かれた。気付けば背中は冷たいドアに触れていて、目の前には鼻先が肩口に触れてしまいそうな距離で勝己が立っている。左手は相変わらずズボンのポケットに入れたままだけど、右手は私の頭上で前腕をドアに預けていた。
彼が壁になるように立った途端、先ほどまで四方から押し寄せていた圧迫感が嘘のように消える。
「勝己?」
「狭ェんだから動くなよ」
目が合うことさえなかったけれど、この行動が私を気遣ってくれているのは明白だ。
電車の動きに合わせて人の波が揺れるたび 勝己の背中にぶつかる人もいるはずなのに、彼の身体が私に触れることはない。逞しい、と思う。
こういう勝己の優しさを、もっとみんなに知ってほしい。周りが思うほど、勝己は嫌なやつじゃない。
「ありがとう」
お礼を言ったところで反応がないのはいつものこと。勝己からリアクションが欲しいわけではなく、私の感謝が伝わっていればそれでいい。
見上げた先の勝己とは、視線さえ合わないけれど。いつの間にか身長抜かれちゃったな、数年前は私の方が少し高かったはずなのに、なんて そんなことを考えながら電車に揺られていた。
◇◇◇
入試以来に訪れた雄英高校は相変わらず大きくて立派だった。
日本最高峰のヒーロー育成機関・雄英高校。数多の志願者の中から選び抜かれた者だけが、この場所でプロヒーローへの第一歩を踏み出すことが許される。この場に立てていることに身の引き締まる思いでいる私をよそに、さっさと校門を潜っていく勝己を追う。
1年A組。私と勝己は同じクラスだった。1-Aと書かれた大きすぎるドアの前にたどり着けば、勝己が躊躇いなくドアを開けた。あまりの勢いの良さに彼を咎めようとした私の声は発せられる前に止まった。
勢いよくドアが開け放たれた音に静まり返った教室で、先に登校して室内にいたクラスメイトとなる人たちの視線が私たちに突き刺さる。ポカンとしたような、あるいはギョッとしたような、そういう表情。けれども爆豪勝己という男は、周りからの目を気にするような人種ではないのだ。ズカズカと遠慮なく室内に入り、割り当てられた席にドカリと腰を下ろした。
はぁ、とため息を吐いてから 私も室内に足を進め、割り当てられている自分の席に鞄を下ろした。
「ねぇねぇ、一緒に来たの!?」
「へ…っ!?」
不意にかけられた声に振り向けば、そこには誰もおらず…いや、制服だけが存在している。何事かと驚く私に、その子は朗らかに笑った。
「あ、ごめん!個性“透明化”なんだ!私、葉隠透!」
「そっか、ビックリした…佐倉七瀬です」
よろしくと差し出された袖の先…手があるであろう場所を握れば、そこには確かに体温がある。見えないのに、彼女の表情が見えた気がした。
それでそれで?とウキウキと続けられた言葉に首を傾げれば、いつの間にか他にも数人のクラスメイトたちが集まってきていることに気が付く。
「爆豪と一緒に来てたよな!?」
「知り合い?仲良いの!?」
上鳴電気くんと、芦戸三奈ちゃん、その後ろに切島鋭児郎くんと、蛙吹梅雨ちゃん。入試の時から良くも悪くも目立っていた勝己と並んで登校してきたのだから、そりゃ気にもなるだろう。
「幼馴染なんだ」
なんとなく、みんなの期待を裏切ってしまうようで申し訳ない気持ちになりながら事実を伝える。ガッカリさせてしまうだろうかと心配していたが、「なるほどねー」「幼馴染で雄英ってすごいな」と特に気にした様子がなかったことに安堵した。
もう1人、幼馴染がいることは伝え損ねてしまったけれど。
君となら、どこへだって行ける気がした。
4月。新しい生活が始まる春。私たちは今日から高校生になる。
「さ、2人とも全力で楽しんでおいで!」
「はいっ!」
玄関まで見送りに来てくれた光己さんが快活に笑って言った言葉に、私も自然と笑顔で返事をした。私の隣にいる勝己は一切の反応を示すことはなく、玄関の扉を開ける。母親にそっけない態度を取るなんて思春期真っ盛りじゃないか、と思いはするが、それをわざわざ口にしたりはしない。どやされるだけなのだから。
ドアを開けた勝己が私を待っているのが分かったから、光己さんに「行ってきます!」と挨拶をしてから勝己の後に続いた。
「先に言っとくけど、出久に変に絡まないでよね」
「うっせーわ!」
最寄り駅までの道のりを歩きながら勝己に忠告をするけど、返ってきたのは予想通りの荒っぽい声だった。
せっかく幼馴染3人で同じ高校に入学できたのだから、楽しく過ごしたいじゃないか。私はそう思うけれど、勝己はそうでもないらしい。今更ではあるが。
駅に着き地下鉄に乗れば、通勤通学ラッシュだろう。徒歩通学していた中学までに経験したことのない混雑具合に戸惑ってしまう。なんとか車両に入り、押し込まれるようにドアが閉まれば、まさしく“おしくらまんじゅう”状態である。
周りの人の邪魔にならないように鞄を身体の前に抱え込んで、ふらつかないように気をつけなきゃ、と思ったその時。
「わっ…!?」
グイ、と 肩を強く引かれた。気付けば背中は冷たいドアに触れていて、目の前には鼻先が肩口に触れてしまいそうな距離で勝己が立っている。左手は相変わらずズボンのポケットに入れたままだけど、右手は私の頭上で前腕をドアに預けていた。
彼が壁になるように立った途端、先ほどまで四方から押し寄せていた圧迫感が嘘のように消える。
「勝己?」
「狭ェんだから動くなよ」
目が合うことさえなかったけれど、この行動が私を気遣ってくれているのは明白だ。
電車の動きに合わせて人の波が揺れるたび 勝己の背中にぶつかる人もいるはずなのに、彼の身体が私に触れることはない。逞しい、と思う。
こういう勝己の優しさを、もっとみんなに知ってほしい。周りが思うほど、勝己は嫌なやつじゃない。
「ありがとう」
お礼を言ったところで反応がないのはいつものこと。勝己からリアクションが欲しいわけではなく、私の感謝が伝わっていればそれでいい。
見上げた先の勝己とは、視線さえ合わないけれど。いつの間にか身長抜かれちゃったな、数年前は私の方が少し高かったはずなのに、なんて そんなことを考えながら電車に揺られていた。
入試以来に訪れた雄英高校は相変わらず大きくて立派だった。
日本最高峰のヒーロー育成機関・雄英高校。数多の志願者の中から選び抜かれた者だけが、この場所でプロヒーローへの第一歩を踏み出すことが許される。この場に立てていることに身の引き締まる思いでいる私をよそに、さっさと校門を潜っていく勝己を追う。
1年A組。私と勝己は同じクラスだった。1-Aと書かれた大きすぎるドアの前にたどり着けば、勝己が躊躇いなくドアを開けた。あまりの勢いの良さに彼を咎めようとした私の声は発せられる前に止まった。
勢いよくドアが開け放たれた音に静まり返った教室で、先に登校して室内にいたクラスメイトとなる人たちの視線が私たちに突き刺さる。ポカンとしたような、あるいはギョッとしたような、そういう表情。けれども爆豪勝己という男は、周りからの目を気にするような人種ではないのだ。ズカズカと遠慮なく室内に入り、割り当てられた席にドカリと腰を下ろした。
はぁ、とため息を吐いてから 私も室内に足を進め、割り当てられている自分の席に鞄を下ろした。
「ねぇねぇ、一緒に来たの!?」
「へ…っ!?」
不意にかけられた声に振り向けば、そこには誰もおらず…いや、制服だけが存在している。何事かと驚く私に、その子は朗らかに笑った。
「あ、ごめん!個性“透明化”なんだ!私、葉隠透!」
「そっか、ビックリした…佐倉七瀬です」
よろしくと差し出された袖の先…手があるであろう場所を握れば、そこには確かに体温がある。見えないのに、彼女の表情が見えた気がした。
それでそれで?とウキウキと続けられた言葉に首を傾げれば、いつの間にか他にも数人のクラスメイトたちが集まってきていることに気が付く。
「爆豪と一緒に来てたよな!?」
「知り合い?仲良いの!?」
上鳴電気くんと、芦戸三奈ちゃん、その後ろに切島鋭児郎くんと、蛙吹梅雨ちゃん。入試の時から良くも悪くも目立っていた勝己と並んで登校してきたのだから、そりゃ気にもなるだろう。
「幼馴染なんだ」
なんとなく、みんなの期待を裏切ってしまうようで申し訳ない気持ちになりながら事実を伝える。ガッカリさせてしまうだろうかと心配していたが、「なるほどねー」「幼馴染で雄英ってすごいな」と特に気にした様子がなかったことに安堵した。
もう1人、幼馴染がいることは伝え損ねてしまったけれど。
