ゼラニウムに捧ぐ
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少し足を進めると、バスケコートがあり、そこにはバスケを楽しむ人たちの姿もある。分かりやすくこういう場所にいてくれたらいいのに。叶いっこない願望を頭に浮かべ、無意味な思考だとため息をついたとき、コートの向こう側にいる人物に視線が引き寄せられた。長身に明るい髪色で遠目からでも目を引く存在感を持つ青年と、その隣に立つ小柄な青年は。
あ、と声を漏らして隣を歩く火神の袖を摘んだ。
「ねぇ火神、あれ」
「ん?…おっ、ストリートか。日本じゃ久しぶりに見るなー」
「うん、でもほら、その向こう」
「!」
ハッとしたような火神のその反応に、私はポケットから携帯電話を取り出した。リコさんに連絡入れるから、捕まえておいて。そう言えば火神は了解の返事をしてから2人――テツ君と涼太のもとに向かい、私はテツ君発見の報告をするために リコさんに発信したのである。
◇
リコさんへの報告を終えて通話を切り、携帯をポケットに仕舞う。よし、と 一息ついて 振り向いた私の視界に入ったのは、とても柄がいいとは言えない同年代男子とコート内で向き合っている テツ君を筆頭とした3人の姿だった。
何してんのよ!そう叫びたくなる衝動を抑えて 急いで駆けだした。
「ちょっと待って!たった数分の間に どうしてこうなってるの!?」
「佐倉さん」
「仕方ねーだろ、文句は黒子に言え」
「あ、七瀬っち!すぐ終わるから待っててねー」
コートに駆け寄った私の抗議も意に介さず、投げキスでも飛んできそうな涼太の満面の笑みに 額に手を当てて大きくため息をついた。諦めてコートから少し離れてフェンスに背中を預ければ、程なくして試合が開始される。その後は文字通り瞬殺だった。火神と涼太のプレーヤーとしてのレベルの高さにテツ君のパスが加われば、普通の高校選手で勝てるわけがないのだ。5対3でもハンデにならないんだね。思わず笑ってしまいながら、悠々とコートを出ていく3人の後を追った。
「オマエは!何を考えてんだ!!」
コートを出てすぐに始まったのはテツ君への火神の説教で、全てはテツ君が飛び出していったことが発端だったと理解する。2人のやり取りを見ながら、火神は言葉は荒いけれど何だかんだで面倒見の良さが出ているような気がして 思わずふっと笑ってしまった。それから、隣にいる涼太を見上げる。
「涼太も巻き込んでごめんね。ありがとう」
「いや……」
「ん?」
私の顔を見たまま、涼太が何かを言いたそうにしている気がして首を傾げた。言うか言わまいか少し悩んだような様子を見せてから、涼太がゆっくりと口を開く。
「七瀬っちがそういう風に笑えてるなら良かった」
そう言って目を細めた涼太の表情がどうしようもなく優しくて、ぎゅうっと心臓が締め付けられるような感覚がする。まさかそんな心配をしてくれているなんて、思ってもいなかった。私はまた、涼太の温かさに甘えてしまう。
大丈夫だよ、ありがとう。そう答えれば、彼は心底嬉しそうに笑ってくれた。
「じゃっ、オレはそろそろ行くっスわ」
最後に黒子っちと一緒にプレーもできたしね!
鞄を拾い上げながら言った涼太の表情はとても晴れやかだったけれど、“最後”という言葉が何となく寂しくて、ジッと彼の顔を見つめる。テツ君に向けていた視線を私に戻した涼太は、ニコリと軽やかに微笑んだ。
「じゃあね、七瀬っち!また今度デートしようね!」
「あーもう、はいはい」
「あ、その言葉忘れないでよ!? 今のは了承っスからね!?」
続けられたのはいつも通りの軽い言葉で、今度はなぜか そのことに安心した。思わず笑ってしまった私の頭を涼太の大きな手がクシャクシャと撫でて、それから当然のように前髪にキスが落とされる。
涼太のスキンシップに慣れて、特に抵抗もせず大人しくしていた私の腕が後ろから強く引かれたのは それとほぼ同時で、気が付いた時には 私と涼太を隔てるように火神の広い背中が見えた。
「っ、だからオマエは!軽々しくそーゆーことすんなよ!」
「……彼氏でもない人にドヤされる謂れはないっス」
火花を散らしながら睨み合う二人に、呆れてため息を漏らす。火神と涼太は、相性が悪いのかもしれない。それも、ものすごく。ちらりとテツ君に視線を向ければ、彼もまた やれやれと言いたげに息を吐いた。
「半分は佐倉さんの所為です」
「え、私が悪いの?」
「悪くはないですけど、責任はあります」
「……?」
テツ君の言葉の意味が分からずに首を傾げるけれど、それ以上の説明は得られなかった。だけど時々こうして意味深なことを言うテツ君に翻弄されるのも、中学時代からよくある事だったように思えて 私もそれ以上は追究しないことにする。
「あと火神っちにもリベンジ忘れてねっスよ!予選で負けんなよ!!」
「火神っち!?」
「黄瀬君は認めた人には“っち”をつけます」
「やだけど!!」
涼太の声を皮切りに一気に騒がしくなる目の前の3人の様子に、私は堪らずに声を出して笑った。
あ、と声を漏らして隣を歩く火神の袖を摘んだ。
「ねぇ火神、あれ」
「ん?…おっ、ストリートか。日本じゃ久しぶりに見るなー」
「うん、でもほら、その向こう」
「!」
ハッとしたような火神のその反応に、私はポケットから携帯電話を取り出した。リコさんに連絡入れるから、捕まえておいて。そう言えば火神は了解の返事をしてから2人――テツ君と涼太のもとに向かい、私はテツ君発見の報告をするために リコさんに発信したのである。
◇
リコさんへの報告を終えて通話を切り、携帯をポケットに仕舞う。よし、と 一息ついて 振り向いた私の視界に入ったのは、とても柄がいいとは言えない同年代男子とコート内で向き合っている テツ君を筆頭とした3人の姿だった。
何してんのよ!そう叫びたくなる衝動を抑えて 急いで駆けだした。
「ちょっと待って!たった数分の間に どうしてこうなってるの!?」
「佐倉さん」
「仕方ねーだろ、文句は黒子に言え」
「あ、七瀬っち!すぐ終わるから待っててねー」
コートに駆け寄った私の抗議も意に介さず、投げキスでも飛んできそうな涼太の満面の笑みに 額に手を当てて大きくため息をついた。諦めてコートから少し離れてフェンスに背中を預ければ、程なくして試合が開始される。その後は文字通り瞬殺だった。火神と涼太のプレーヤーとしてのレベルの高さにテツ君のパスが加われば、普通の高校選手で勝てるわけがないのだ。5対3でもハンデにならないんだね。思わず笑ってしまいながら、悠々とコートを出ていく3人の後を追った。
「オマエは!何を考えてんだ!!」
コートを出てすぐに始まったのはテツ君への火神の説教で、全てはテツ君が飛び出していったことが発端だったと理解する。2人のやり取りを見ながら、火神は言葉は荒いけれど何だかんだで面倒見の良さが出ているような気がして 思わずふっと笑ってしまった。それから、隣にいる涼太を見上げる。
「涼太も巻き込んでごめんね。ありがとう」
「いや……」
「ん?」
私の顔を見たまま、涼太が何かを言いたそうにしている気がして首を傾げた。言うか言わまいか少し悩んだような様子を見せてから、涼太がゆっくりと口を開く。
「七瀬っちがそういう風に笑えてるなら良かった」
そう言って目を細めた涼太の表情がどうしようもなく優しくて、ぎゅうっと心臓が締め付けられるような感覚がする。まさかそんな心配をしてくれているなんて、思ってもいなかった。私はまた、涼太の温かさに甘えてしまう。
大丈夫だよ、ありがとう。そう答えれば、彼は心底嬉しそうに笑ってくれた。
「じゃっ、オレはそろそろ行くっスわ」
最後に黒子っちと一緒にプレーもできたしね!
鞄を拾い上げながら言った涼太の表情はとても晴れやかだったけれど、“最後”という言葉が何となく寂しくて、ジッと彼の顔を見つめる。テツ君に向けていた視線を私に戻した涼太は、ニコリと軽やかに微笑んだ。
「じゃあね、七瀬っち!また今度デートしようね!」
「あーもう、はいはい」
「あ、その言葉忘れないでよ!? 今のは了承っスからね!?」
続けられたのはいつも通りの軽い言葉で、今度はなぜか そのことに安心した。思わず笑ってしまった私の頭を涼太の大きな手がクシャクシャと撫でて、それから当然のように前髪にキスが落とされる。
涼太のスキンシップに慣れて、特に抵抗もせず大人しくしていた私の腕が後ろから強く引かれたのは それとほぼ同時で、気が付いた時には 私と涼太を隔てるように火神の広い背中が見えた。
「っ、だからオマエは!軽々しくそーゆーことすんなよ!」
「……彼氏でもない人にドヤされる謂れはないっス」
火花を散らしながら睨み合う二人に、呆れてため息を漏らす。火神と涼太は、相性が悪いのかもしれない。それも、ものすごく。ちらりとテツ君に視線を向ければ、彼もまた やれやれと言いたげに息を吐いた。
「半分は佐倉さんの所為です」
「え、私が悪いの?」
「悪くはないですけど、責任はあります」
「……?」
テツ君の言葉の意味が分からずに首を傾げるけれど、それ以上の説明は得られなかった。だけど時々こうして意味深なことを言うテツ君に翻弄されるのも、中学時代からよくある事だったように思えて 私もそれ以上は追究しないことにする。
「あと火神っちにもリベンジ忘れてねっスよ!予選で負けんなよ!!」
「火神っち!?」
「黄瀬君は認めた人には“っち”をつけます」
「やだけど!!」
涼太の声を皮切りに一気に騒がしくなる目の前の3人の様子に、私は堪らずに声を出して笑った。